栄養指導で”あるある!こんなこと”
第98回
前向きな意識の変化により
パートナーにも良い変化が生まれた事例

ストレスや運動不足で体重が増えてしまう人は、決して少なくありません。今回は過体重のNさんが、妊娠のために食事を工夫しながら減量に臨むお話です。

料理ができないNさん どうやって減量に導くか

Nさんには婚約者がおり、妊娠を希望して産婦人科を受診しました。その際、過体重を指摘され、減量を勧められて当クリニックの受診となりました。初回栄養指導時は身長154cm、体重81.9kg、BMI34.5kg/㎡でした。

田村:初めまして、管理栄養士の田村と申します

Nさん:よろしくお願いします

田村:今後のご結婚、ご出産のために減量の食事指導を、とのことですが……

Nさん:はい

田村:今日は初回なので食事について質問させてください

Nさん:はい

Nさんと挨拶を交わした際、とても静かで大人しい印象を受けました。いつものように食習慣の聞き取りを実施しましたが、質問したことに対しても「はい」と「いいえ」のお返事が多く、なかなか実態が把握できない感じでした。

田村:ありがとうございます。ちなみに10年ほど前、20代の頃の体重ってどのくらいでしたか?

Nさん:その頃は56~57kgくらいでした

田村:あら、そうですか。ちょっとぼっちゃりくらいで、昔から体重が多かったわけではないですね。体重が増えた原因について、心当たりはありますか?

Nさん:デスクワークの仕事をするようになって、疲れとかストレスで甘い物にハマってしまって。夕飯も遅かったし、お昼も仲間と外食ばかりで……。気が付いたら20kgぐらいあっという間に太っちゃいました

田村:今はそこから少し増えたって感じですかね?

Nさん:実は1回減量して、半年で10kg落としたんです

田村:それはすごい!半年で……。頑張ったんですね。その時はどんな風に頑張ったんですか?

Nさん:母がお弁当をつくってくれたり、甘い物を少し減らしたり。あと、夜に母とウォーキングなんかもしました

田村:理想的な減量方法ですね

この時、やっと少しにっこりしてくださいました。

田村:それから現在までは?

Nさん:彼氏ができて一緒に食べ歩きしたりしていました。結婚する予定なので一緒に住んでるんですが、また徐々に体重が増えて

田村:そうですか~、ちょっとした幸せ太りですかね?

Nさん:彼がすごく大食いで。身体も大きくて、いろんな物をいっぱい買ってくるのでついつい食べちゃって

田村:やさしいんですね。ところでお料理は?

Nさん:私は一切しません。というか、できないので

田村:では食事はどうされてるんですか?

Nさん:何か買って食べるか、ビザをとるとか……。彼もいろいろ買ってくるのでそれで済ませてます。

田村:なるほど。では今後のことも考えて、お料理ができなくても頑張れる方法を探して、やってみましょう

Nさん:お料理はまったくできないし、したくないんです

田村:大丈夫です。食べる物の選び方、組み合わせ、そのあたりからやってみましょう

Nさん:はい、それなら……

ちょっと衝撃的でしたが、少しやる気が見えたので、まずは無理なくできるよう低カロリーなおかずやお惣菜、食品のリストを手書きして渡しました。豆腐、納豆、冷凍枝豆、キムチ、カット野菜、きんぴらごぼう、もずくなどです。

田村:たとえば職場でランチに行った場合もカルボナーラより和風パスタ、豚カツよりしょうが焼き、みたいな選び方をしてみましょう。ご飯はカロリーが高いので1/3は残すか、少なめにしてもらうだけでも全然違います。あと、カット野菜でいいので、食事の時に先に食べてください。枝豆や豆腐などもいいですね

Nさん:わかりました

田村:彼氏さんにも今回、減量しないといけないことをきちんと伝えて、できれば一緒に頑張ってもらうとか……

Nさん:彼は仕事で動くので、無理かな~

田村:では、まずはNさんが頑張ってみましょう。彼氏さんもそれを見て気持ちが変わるかもしれません

Nさん:はい

小さな努力を重ね彼氏とともに減量に成功

田村:こんにちは。前回から1kg減ですね

Nさん:彼が食べろ、食べろっていろいろ勧めてきて……

田村:でも1kgは減りました。これまで右肩上がりでしたから、少し減ったのは成果ですよ

Nさん:あれから10日ほどウォーキングもしたんですが、身体が重くて。少し体重を減らしてから、と思いました

田村:まずは食事で頑張ってみて、少し減ってから運動もプラスしていきましょう。いかがですか、食事は?

Nさん:夜はついつい食べちゃうんです。勧められるのもあって……。朝と昼は野菜も食べて頑張っています

田村:そうですか……。実は夕飯が一番太りやすいんです。たとえば、おかずは食べても主食を食べない、というのはできますか?

Nさん:やってみます

その後、月1回のペースで食事指導を続け、体重が徐々に減って来ていましたが、6ヵ月後には一気に2kgほど落ちました。

田村:Nさん、今回はしっかり落ちましたね!開始した時よりトータル5kgも減ってますよ

Nさん:今回は減った実感があります

田村:ですよね。食事はどうですか?

Nさん:夕飯は以前に比べるとかなり軽くしてます。サラダと納豆、キムチ、ゆで卵、みたいな感じで、発酵食品もとるようにしています

田村:とってもいいですね~。お肌にも良いし

Nさん:彼も最近は食べろと勧めなくなってきましたし、自分もちょっと減量しようかな?なんて言ってました

田村:それはすごい!ぜひ食事に気を付けながら、一緒に運動もできるといいですね

Nさん:この前、夜歩くなら付き合うよ、と言ってくれました

田村:そうですか。そろそろ歩き出すチャンスですね

結果、Nさんは1年で10kgの減量に成功しました。今もさらなる減量を目標に彼氏さんと週4~5日のウォーキングをしています。
料理はできない・苦手と言っていましたが、母親に習うなど前向きに変わってきていて、私がお勧めする簡単なレシピも「つくってみました」なんて言ってくれるようになりました。
ちなみに、彼氏さんも4kg体重が減ったそうです。(『ヘルスケア・レストラン』2021年9月号)

田村佳奈美
福島学院大学短期大学部
食物栄養学科講師
かとう内科クリニック 非常勤 管理栄養士

たむら・かなみ●療養病院、急性期病院での勤務を経て、2011年8月からフリーランスの管理栄養士として活躍中。福島県いわき市内のクリニックでの栄養指導や全国各地での講演活動、自宅で暮らす高齢者の栄養サポートにも力を入れている

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