栄養士が知っておくべき薬の知識
第121回
不適切な薬による栄養障害を防ぐ
ポリファーマシーの現状と課題

昨年の診療報酬改定で「服用薬剤調整支援料2」が新設されました。今なぜ、多剤服用の解消に向けた取り組みが必要なのか、考えてみましょう。

ポリファーマシーとは

ポリファーマシー(poly-pharmacy)とは文字どおり、服用する薬が多剤になっていることと考えられます。しかし、薬は診断に基づいて必要であれば治療の一環として処方されます。したがって、薬物治療が適切に行われている場合をポリファーマシーとは呼びません。
しかし、たとえば患者さんが疼痛を訴えて腰痛症と診断され、ロキソプロフェンが処方されたとします。そして、今一つ改善しないからといって、似たような作用をもつインドメタシンを追加したといった場合は、ポリファーマシーになります。
解熱鎮痛剤を2種類服用することはほとんど意味がありません。解熱鎮痛剤の服用によって胃粘膜障害や腎臓の血流量低下が起こることがあり、場合によっては腎不全につながる可能性さえあります。

厚生労働省の「高齢者の医薬品適正使用指針」によると、「ポリファーマシーは単に薬が多いだけでなく、それによって薬物有害事象のリスク増加、服薬過誤、服薬アドヒアランス低下等の問題につながる状態」とされています。特に薬が6種類以上になると薬物有害事象が増加すると考えられています。

薬は多ければ多いほど有害事象を生む可能性が増します。
一般に加齢に伴って多病となって、その対応のために薬の数も増えていきますが、これは高齢になるほどポリファーマシーによる有害事象が生じやすくなることを意味します。

ポリファーマシーの問題点

(1)薬物有害事象の増加

高齢者の薬による有害事象は、薬剤起因老年症候群とも呼ばれています。薬の有害事象には、ふらつきや転倒といった身体活動上の問題や抑うつ、記憶障害、せん妄といった中枢神経症状、食欲低下や便秘に代表される消化器症状などがあります。しかし、これらは高齢者によく見られる症状でもあるため薬の副作用と結びつかないことも考えられますが、実は薬の副作用による場合も多いのです。中枢神経系の有害事象は、転倒や転落につながったり、記憶障害やせん妄に至ったりする場合もあります。また、消化器症状として食欲低下や便秘などが生じれば、栄養障害からサルコペニアやフレイルとなることも考えられます。

(2)薬物間相互作用の問題

ポリファーマシーの問題点として薬物間相互作用を起こす可能性が高くなることも考えられます。通常、薬物間相互作用は1対1の薬同士で検討されています。薬が多くなればなるほど、相互作用に注意が必要になります。しかし、たとえば同じ酵素で代謝を受けなければならない薬をいくつも服薬しているような状況では、どの薬がどの程度、その影響を受けているか、検討すること自体が難しくなります。減薬できるものは減薬して、相互作用を起こす可能性を取り除く必要があります。そして、薬物間相互作用を防ぐために、同薬局で薬をもらうようにして一元管理をすることも重要です。そして、必ずお薬手帳を持参して相互作用のチェックを受ける必要があります。

(3)薬の用法とアドヒアランス低下

アドヒアランスは、患者が積極的に治療方針の決定に参加し、その決定に従って治療を受けることを意味します。以前、本連載でも取り上げましたが、ほとんどの薬は食前に飲んでも食後に飲んでもあまり効果に影響はありません。しかし、服用方法が大切な場合もあります。骨粗鬆症治療薬として汎用されるビスホスホネート系薬は起床時の空腹時に服用することになっています。この薬の吸収率は非常に悪く、これは食物とキレートを形成し吸収率が低下することが原因です。服用時の水質にも影響を受けます。カルシウムとマグネシウムの含有量の多い硬水のミネラルウォーターでビスホスホネート系の薬を飲むと、吸収が悪くなって薬の効果が得られにくくなります。このような例は珍しいケースです。しかし、たくさん薬を飲んでいる人の中には、空腹時服用や食前、食後、食間、眠前など、一日中、服薬しなければならないような薬の飲み方をしている人をみかけます。これでは服用方法が複雑になって、患者自身また介護者の負担だけが増してアドヒアランスの妨げになります。薬の用法をまとめることや、2つの成分を含んだ合剤にしてもらったり、一包化にしてもらったり、前回ご紹介した貼付剤などに変更することで、アドヒアランス向上を図る必要があります。

高齢者に不適切な薬

高齢者に適応するべきではない薬も提唱されています。米国老年学会は、高齢者に不適切な薬剤(Potentially Inappropriate Medication:PIM)として、高齢者に使うことを常に回避する薬、特定の疾患や症候群で回避する薬、リスクが有益性を上回ることがあるので注意して使用すべき薬の3群を設定しています。同学会は高齢者が避けるべき薬として、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬や抗不安薬、抗精神病薬、作用の強い抗糖尿病薬などを挙げています。また、多剤併用されている患者を診た時には、MAI(Medication Appropriateness Index)といって、目の前の患者にこの薬を使っていいのか、用法や用量は適切かどうかなど、いくつかのチェックポイントを設けて、薬が減らせないかを検討する方法もあります。以前から使われているからと漠然と薬を処方し、減薬を図らないのは考えものです。多剤併用にしっかり目を向けることが大切になります。

ポリファーマシーの確認と食事・運動療法の重要性

ポリファーマシーを確認するタイミングも重要です。患者さんの退院時や転院してきた時、どうしてこの薬が出ているのかを確認します。運動療法や食事療法で薬を減らせないかも検討します。特に利尿剤などは水分や塩分制限を行えば薬が不要になったり、脂質異常症や糖尿病などでも、食事療法や運動療法で減薬につながったりする可能性があります。食事や運動療法などの健康づくりはQOLの維持・向上を図ることもでき、社会参加を促す可能性も増えます。減薬につながるようなさまざまな取り組みが求められています。

管理栄養士への期待

高齢者に限らず、疾病ごとに薬を処方すればポリファーマシーにならざるを得ません。なにか症状があって病院に行けば、疾病の診断を受け、その疾病に対して薬が処方されます。しかし、高齢者ほど、多病(multi-morbidity)になっていて、個々の疾病に対応すればポリファーマシーになるのは必然と考えられます。

最近では、高齢者の個々の疾病管理に注目するのではなく、高齢者を総合的に機能評価するCGA(Comprehensive Geriatric Assessment)という考え方が提唱されています。これは高齢者の生活機能を認知機能や日常生活動作、心理状況や生活意欲、生活環境などを含めて情報を集めて、高齢者の全体像をチェックして評価するものです。医師や看護師だけでく、薬剤師や管理栄養士も加わって、食事や水分の摂取状況、排尿・排便状況などを確認します。そして、さまざまな職種で患者の全体像を評価し、不適切な薬物治療が行われていないかを検討します。減薬によって高齢者の身体症状に改善が見られるかもしれません。管理栄養士の患者に対する観察力およびその情報提供がポリファーマシー対策にも求められています。(『ヘルスケア・レストラン』2021年9月号)

林 宏行(日本大学薬学部薬物治療学研究室教授)
はやし・ひろゆき●1985年、日本大学理工学部薬学科卒業。88年、聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院勤務。2002年から同院NST事務局を務める。11年4月から日本大学薬学部薬物治療学研究室教授

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