お世話するココロ
第131回
先着順を見直そう

新型コロナウイルスのワクチン接種は、市町村ごとに進捗が異なります。そこには、国や都道府県のやり方が影響する一方、市町村独自の違いもみられています。

ワクチンを打ちました

新型コロナウイルス感染症対策として政府が全力を挙げているワクチン接種。私は、すべての対象に先立って始まった医療関係者の優先枠に入り、すでに接種が終わっています。
ワクチンについては、副反応への不安から接種に消極的な人もいます。私自身は、感染の可能性はゼロにはできず、かつ特効薬がないことを考え、多少のリスクがあっても打ちたいと希望しました。
また、ワクチンの効果については、懐疑的な声もあります。いろいろな見解をみたうえで、私は、ワクチンは万能ではないにせよ、感染および重症化のリスクを減らせるものと捉えています。

それでも、副反応というリスクがある以上、ワクチン接種は個々の判断に任されなければなりません。決して無理強いはせず、考えを聞かれれば、接種した理由を答える。この文章も、そんな考えが基本にあります。
私は4月23日に第1回目、5月14日に第2回目の接種を受けました。副反応はごくごく軽く、注射した腕が翌日から3日ほど軽く痛んだのみ。打ち終わって、予想以上に気持ちが楽になったことに、自分でも驚きでした。

それというのも、私は感染への不安については、かなり鈍感なほうだと思います。訪問看護の仕事をしていると、人の家に上がり込まないわけにはいきません。なかには、窓を開けてもまったく風が通らない家もあり、やれ換気だ、密を避けるだと言われても、難しい場合も多いのです。
そんな私がワクチン接種で安心したのは、本当に意外でした。やはり無意識のうちに感染を恐れる気持ちがあったのでしょうか。ならば、日々不安を感じている人であれば、どれだけ安心できることかと思うのです。

今回の接種にかかわる知人によれば、日本において副反応への不安などから、絶対にワクチンを打たないと考える人は、約1割だそうです。そして、積極的に打ちたい人は6割程度。残りの約3割は様子見の人たちで、ワクチン接種が進み、大丈夫そうなら打とうと考えています。

ワクチンによる集団免疫は、ワクチンの接種率が高いほど効果が上がります。有効と認められるラインはおおよそ7割程度と言われ、この比率でいけば、強制することなく、打ちたい人だけでこのラインを越えると期待できます。
これを達成するには、とにかく打ちたい人にどんどん打つのが大事。そして、周囲の人が打って大丈夫となれば、様子見の人も打つ人が増えるでしょう。

「ワクチン難民」の嘆き

ところが、残念なことに、ワクチン接種は、予約の段階で大きくつまずく自治体が多数でてしまいました。私の周辺でも、予約が取れずに困った人が多くいます。

「母親が予約開始日に何度電話してもお話中だというので、私がネットで予約しようとアクセスしてもダメ。アクセスが集中してつながらず、ようやくつながった時には、もう予約は満杯だったの。次回の予約開始までは2週間くらいあるから、母親はがっくりきてる。個別接種も予約の窓口は市だから、やっぱりつながらないの」

「集団接種を申し込もうとしたけど、ネットも電話もつながらないの。近くの診療所で個別接種をやっているので、頼んでみたら、『かかりつけじゃないから受けられない』って断られたのよ。何年か前に風邪でかかった診療所なんだけど、そんなのはかかりつけとは言えない、と言われちゃった。私みたいに医者いらずの年寄りは損な仕組みじゃない?本当に腹立たしいわ」

「予約開始日は、役所が開く前から電話してもお話中よ。もう、何度かけてもダメだから、直接役所に行ったら、電話でしか受けないんだって。同じ気持ちで来ちゃった人が何人もいて、皆追い返されたのよ。もう腹が立つやら、悲しいやら。怒鳴っている人、泣いている人、いろいろいて私もそうしたい気分だった」

「電話もネットもダメ。予約が取れないの。接種会場に直接行ってキャンセル待ちしたけど、ここもけっこう激戦で。抽選で漏れちゃった。いつになったら打てるやら。完全に『ワクチン難民』よ」

実は、この原稿を書くのに、改めて聞いた話をまとめ、話してくれた人の自治体のサイトを確認しました。すると、自治体ごとの違いが大きく、また、途中からやり方を変えた自治体もあります。
最初の例は都内のとある市なのですが、個別接種が行える診療所が出始めた時、市が予約を一括して受ける形をとっていました。しかし、文中に書いたように、なかなかつながりません。その後、診療所ごとに予約の電話を受ける形になり、状況はかなり改善したようです。
個別接種を診療所に申し込もうとしたら、「かかりつけではないから」と断られる話もよく聞きました。しかし、日が進むにつれて誰にでも接種を行う診療所が増えている地域があります。
ある程度接種者が増え、ワクチンもいき渡るようになると、ワクチンの接種業務も、練れてくるのでしょう。負担が大きくなければ、患者獲得のために積極的に接種を引き受ける診療所も出てくるようです。

支援が必要な高齢者への接種など、まだまだ問題はいくつも残っています。それでも、時間が経ち、経験を積み、これから接種すべき人が少しずつ減っていけば、混乱は収束に向かうのですね。

先着順の反省

とはいえ新型コロナウイルスワクチンは、インフルエンザワクチン同様、定期的な接種が必要になる可能性があります。ならば、今後のためにも、予約をどうするか考えておかなければなりません。そして、この予約については、各自治体の混乱を受け、政府分科会委員からも提言が出ています。曰く、「先着順の予約方式を避け、抽選制完全年齢順割当制のいずれかを採用することが望ましい」1)
ならば早く言ってよ、という感じではあります。それでも、最初から、先着順の予約を採用せず、うまくいっている自治体もあるのがわかりました。

たとえば、栃木県塩谷町は集団接種の日時を町が指定する方法を採用しています。接種を受けるには、事前の予約は不要。接種の希望を伝えるだけで接種が受けられます。
人口の少ない街だからこそできる、という面もあるでしょう。しかし、「必ずあとからできるから、順番はある程度こちらに任せてね」と説明すれば、多くの人が納得するのではないでしょうか。

狭い入り口に殺到して、押し合いへし合いするのは、百害あって一理なし。どんな順番であれ、順番を守って列に並ぶほうが、早く外には出られるのです。ワクチンも同じ。「あと回しにされた」と怒る人が出ても、順番どおり行っていけば、効率的に接種が進み、皆が早く打ち終わるでしょう。

「早い者勝ち」の先着順にすれば、見公平に見えますが、実際はそうでもありません。早く連絡できる人とできない人の間には、しばしば格差もあります。
よい点といえば、自治体が、あとに回された人から怒りを買うリスクが回避できるだけ。市民にとっては、決してよいやり方とは思えません。

今残っている分の接種についても早急に見直し、残りの接種がさらにスムーズに進むよう、祈るばかりです。(『ヘルスケア・レストラン』2021年8月号)

1)〈進まないワクチン予約の劇的改善求める緊急提言 政府分科会メンバーらが予約システム改善を提案,東京経済ONLINE,2021/5/19〉
https://toyokeizai.net/articles/-/429226/

宮子あずさ(看護師・随筆家)
みやこ・あずさ●1987年、東京厚生年金看護専門学校卒業後、2009年3月まで看護師としてさまざまな診療科に勤務。13年、東京女子医科大学大学院博士後期課程修了。博士(看護学)。現在は精神科病院の訪問看護室に勤務(非常勤)。長年、医療系雑誌などに小説やエッセイを執筆。講演活動も行う。看護師が楽しみながら仕事を続けていける環境づくりに取り組んでいる。近著に「宮子式シンプル思考 主任看護師の役割・判断・行動力」(日総研出版)がある

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