栄養士が知っておくべき薬の知識
第120回
貼付剤の利便性と注意点を把握し
患者ベネフィットにつなぐ使用法を考える

今回は経口剤に代わって使われる可能性のある 貼付[ちょうふ] 剤(貼り薬)について述べます。医療機関や介護施設に勤務する管理栄養士は、食事とともに服薬の確認も行っていることでしょう。貼付剤のメリット・デメリットを学び、現場での参考としてください。

手軽に使用できる貼付剤の種類

一般的に、貼付剤を使用する場面は肩こりや腰痛、打撲の時というイメージがあるかと思います。医療用でも市販用でも、多くの鎮痛用の貼付剤が販売されています。テレビのコマーシャルでもよく見かけますね。
鎮痛用の貼付剤は痛いところに貼る、ということで局所作用を期待した物です。このほか局所作用が期待される貼付剤にペンレステープ(リドカイン貼付剤)があります。静脈に針を刺す時や皮膚の異物を取る手術時の疼痛緩和に用いられます。

一方、さまざまな疾病に対して全身作用をもつ貼付剤も開発されています。気管支喘息では、気管支拡張作用のあるホクナリンテープ(ツロブテロール貼付剤)、狭心症に用いられるフランドルテープ(硝酸イソソルビド貼付剤)や、ミリステープ(ニトログリセリン貼付剤)などです。これらの貼付剤は、たとえば喘息治療用といっても胸部に貼るのではなく、背中や上腕などに貼ります。これらの貼付剤は薬物が皮膚から血中に移行し、全身作用を示します。後述しますが、全身作用を示す貼付剤を貼る部位はとても重要になります。

貼付剤を使用するメリットと問題点

貼付剤は、薬を身体に貼るだけなので多くのメリットがあります。嚥下の必要がないため嚥下機能が不安という場合にも適用できることや、薬を使っていることが介護者にわかりやすいこと。また、貼付剤は一定量の薬が皮膚から血液中に移行するため、薬の効果が一定に得られやすいという点も長所になるでしょう。

貼付剤は利便性が高い反面、貼付剤の一部が剥がれてしまうことがあります。鎮痛用の貼付剤にはパップ剤やテープ剤があります。パップ剤は不織布が使われていて厚みがある物で、とても古くから使われていたようです。テープ剤は、主に布が使われていて薄いタイプです。
鎮痛用のパップ剤は急性の痛みに向いていますが、剥がれやすいという欠点があります。一般的に、テープ剤の方が剥がれにくいとされています。

全身作用のある貼付剤が剥がれてしまった際の対処法は、薬の成分によって異なります。喘息に使うホクナリンテープの場合、貼って1時間経っていなければ新しいものに貼り替えます。12時間以上経っていれば、貼り替える必要はなく、そのまま様子をみて24時間後に新しい物を貼ることになっています。
一方、フランドルテープは剥がれてしまっても粘着力があるため伸ばして貼り直します。後述するパーキンソン病治療薬のニュープロパッチ(ロチゴチン貼付剤)を使う時は、20~30秒間手のひらでしっかり押し付けて、皮膚面に完全に接着して剥がれないように指示されます。

高齢者に多い貼付剤によるかぶれ

貼付剤によってかぶれなどの皮膚トラブルを起こす原因は、貼付剤を剥がした時に皮膚も一緒に剥がれてしまう物理的な刺激による場合と、薬や薬に含まれる添加剤や粘着剤へのアレルギーによってかぶれを起こす場合とがあります。

認知症治療薬であるリバスチグミンテープ(イクセロンパッチ、リバスタッチパッチ)という貼付剤があります。認知症の方に薬を飲ませるのはとても大変ですので、貼るだけでよい貼付剤は便利だと思います。しかし、リバスチグミンテープを使う対象が認知症である高齢者に多いためか、かぶれを起こしやすいのが問題です。
対策としては、保湿剤を塗って皮膚を保護しておくことや、かぶれが起きた場合には副腎皮質ステロイド含有の軟膏剤で対応します。かぶれによるかゆみでかき傷をつくりやすいなど、薬を継続することが難しいケースもあります。

貼付剤によるかぶれを起こさないためには、皮膚を清潔にしてから貼ることや、毎回貼付部位を少しずつずらすことも必要です。このほか鎮痛目的で使用する貼付剤では、光線過敏症も問題になります。紫外線刺激によって生じるため、患部にサポーターを当てるなど光線から守ることも必要になります。

手軽だからこそ注意したい貼付部位と副作用

前述したように全身作用を期待する貼付剤の場合、貼る部位によって血液中に移行する量が異なるため、正しい部位に貼ることが求められます。

がん性疼痛などに用いられるブプレノルフィン経皮吸収型製剤(ノルスパンテープ)では、貼付部位は前胸部、上背部、上腕外部、側胸部とされています。貼付部位として推奨されないのは、腹壁部や大腿部などで、この部位では薬の効果が十分に得られなかったことも報告されています。皮下脂肪量などによって血液中に十分に薬が移行しないことが原因と考えられます。

パーキンソン病治療薬のニュープロパッチがあります。パーキンソン病は振戦や筋固縮などの症状を起こしますが、ON-OFF現象といって、パーキンソン病の症状がよくなったり、悪くなったりすることがあります。これは薬の効き目にも関係していて、薬を飲むと症状が収まりますが、薬の効き目が悪くなってくると症状が悪化します。

パーキンソン病の治療薬にドパミンがあります。ON-OFF現象を起こさないためにドパミン製剤を頻回に服用する必要がありますが、テープ剤であれば薬の効果が一定に保たれるため、ニュープロパッチが開発されました。ただニュープロパッチの貼付部位は肩、上腕、腹部、大腿部、臀部のみと指定されていて、この部位以外では薬が一定に効果を示すかわかっていません。また、発熱や運動後、お風呂上がりなど皮膚の血流が多い時に貼付剤を使うと血流量の増加とあいまって効果が早く、強く得られる可能性があり、副作用が生じやすいともいえます。

患者さんの状態に応じて、貼付剤を使用してよいかどうかの判断も必要になります。貼付剤は薬の効果が一定に保たれるといった利点から、非がん性疼痛にも用いられるフェンタニル注射液の貼付剤であるワンデュロパッチ、女性ホルモン剤であるエストラジオールの貼付剤であるエストラーナテープ、前立腺肥大症治療薬のオキシブチニン(ネオキシテープ)、統合失調症治療薬のブロナンセリン(ロナセンテープ)なども発売されています。

まとめ

今回は貼付剤をご紹介しました。日頃、飲み薬をきちんと服薬できない方などの栄養管理を任されることもあると思います。そういった方には貼付剤を使うことでを管理しやすくなる可能性があります。
一方で、貼付剤を使っていてきちんと貼れていないのを見かけることもあると思います。また、貼付剤を部位の大きさに合わせて切って使うなどといった場面も見かけますが、薬によってはまったく効果が得られない場合もあるため、薬の添付文書に従い適切に貼付剤を用いる必要があります。

貼付剤は皮膚からの吸収がよい薬の成分が対象になるため、すべての薬が対象となるわけではありません。経口薬などをすべて貼付薬でまかなえるわけではありませんが、いくつかの薬を貼付剤に変えることで、介護者の負担軽減につながる可能性があると思います。(『ヘルスケア・レストラン』2021年8月号)

林 宏行(日本大学薬学部薬物治療学研究室教授)
はやし・ひろゆき●1985年、日本大学理工学部薬学科卒業。88年、聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院勤務。2002年から同院NST事務局を務める。11年4月から日本大学薬学部薬物治療学研究室教授

TAGS

検索上位タグ

RANKING

人気記事ランキング