食べることの希望をつなごう
第40回
さまざまな要因により術後に生じる食欲不振
優先事項を整理し食事摂取量アップを図る

その大半が手術や放射線治療による摂食嚥下障害を抱える頭頸部がん患者さん。摂食嚥下障害による食形態の制限に、化学療法の影響による食欲不振が重なると、個人の嗜好への対応が重要になってきます。食べられないストレス軽減と摂取量アップのための工夫を考えなければいけません。

嗜好に偏りがある時に気を付けたいこと

頭頸部がんの患者さんの大半に、手術や放射線治療による食べづらさや飲み込みづらさが現れます。頸部のつっぱり感や唾液の減少、痛みなど、食べづらくなる要因はたくさんあります。汁気のあるものが食べやすいとおっしゃる方は多いものの、液体は誤嚥のリスクが高く、摂食嚥下機能に問題がある場合には適しません。「液体はとろみを付けてスプーンで一口ずつ」という指示のもとでは、一般の方が思い浮かべるようなコップでゴクゴクと飲み喉の渇きを潤す、というイメージからはかけ離れてしまいます。同時に、化学療法による食欲低下が起こると、摂食嚥下障害による食形態の制限に加え、食欲不振による嗜好の問題への対応が必要になり、入院下では献立調整に四苦八苦します。以前はご家族からの差し入れや、コンビニエンスストアへの買い出しなども可能でしたが、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、そういった対応をすべてお断りしている現在、病院食でなんとかしなくてはと必死です。

既往に糖尿病があり、BMI33.8kg/㎡と肥満を認めた頭頸部がん患者のKさん。血糖コントロールと減量目的で術前から入院することになりました。1600kcalのエネルギー調整食の指示でしたが、もともと入院を機に減量したかったとのことで、減量に意欲的でした。自宅では「米飯と納豆」や「タラコスパゲティ」などがお好きだったとのこと。体重と食事内容に解離がありますが、よく聞くとチョコレートケーキや和菓子など、間食が多かった様子です。嗜好に偏りがあり、肉や卵、乳製品は食べられず、お粥も嫌い、味付けははっきりしたものがお好きとのことでした。術後の嚥下機能評価を経て、学会分類2013のコード2-1の食事が開始となりましたが、嗜好の問題が大きく影響し摂取量が増えません。乳製品を使用していないフルーツ味のゼリーは食べられましたが、あとは小鳥がつつく程度。本人は「そんなに食べなくても大丈夫」とおっしゃいました。
「1食抜いても大丈夫」とおっしゃる方や「今まで何をしてもやせなかったから」という自信をおもちの方と、傾向はさまざまです。が、結局摂取量が増えず体重が落ちてもっと食べづらく……という負のループには気を付けたいところです。

鉄板メニューが術後の支えになる

Kさんは糖尿病があり術後であるため、栄養量の確保をめざしたいのですが、食事摂取が進まない状況から、口腔外科の主治医に創部に問題がないか確認のうえ、本人の希望する米飯や焼き魚などを咀嚼して問題なく飲み込めるか、病棟で嚥下内視鏡検査を行うことになりました。その結果、固形物はある程度咀嚼でき、窒息や誤嚥のリスクは低いこと、液体だけは薄いとろみが必要と評価されました。とろみ付けはお上手で、自分でとろみ付けした物を適宜摂取できます。問題は食事内容ですが、「米飯と挽き割り納豆があればいい、あとはゼリー」と具体的な献立の希望があり、魚と大豆製品、野菜料理と栄養補助ゼリーのワンパターンな献立を提供してみることになりました。
通常だと同じようなメニューの繰り返しでは飽きが来ることが多いのですが、Kさんは淡々と召し上がっておられ、術後から退院まで乗り切ることができました。Kさんの場合は挽き割り納豆とフルーツ味の栄養補助ゼリーが食事摂取量の維持に大きく貢献しましたが、ほかにも「お茶づけのり」や「温泉卵」、「のりの佃煮」で術後を頑張った方もいらっしゃいます。これなら食べられるという鉄板メニューがあると、患者さんも頑張れるようです。

症状に合わせた工夫が食事量アップの第一歩

食事摂取量は食べる前の患者自身のひと工夫でアップにつながる場合もあります。当院で提供する学会分類2013のコード2-1の食事は、スプーンですくって食べる形状です。術後の放射線治療と化学療法を受けておられるNさんは、照射が進むにつれて頸部のつっぱり感や送り込みにくさを感じるようになったとのことでした。
そこで、無味無臭のMCTオイルを各種お料理に混ぜて食べていただくことで、栄養量のアップを図りました。厨房では、ペースト状に加工する際、MCTオイルも一緒に入れてミキサーにかけるのですが、さらに食べる直前にご自身でお料理にかけて混ぜることで、すべりがよくなり結果的に食べやすくなり、栄養価もアップでき、一石二鳥でした。

Nさんの場合は、毎日摂食嚥下リハビリテーションの先生がミールラウンドを実施していました。注意深く口腔内や嚥下の状況、摂取量などを確認していたため、早めに経口摂取から経鼻胃管による経腸栄養への切り替えが行われ、無事治療を完遂することができました。
かなりの照射焼けでしたが、たんぱく質とビタミン、ミネラルを強化した栄養補助食品を経鼻胃管から投与することができ(経口摂取では酸味が強く飲めない方が多い)、栄養量の確保もできたため体重減少を最低限に抑えられたのではと思います。

吐き気がある場合には、吐き気止めを使用すると軽減することがよくあります。それでも魚や肉、米飯の蒸れた匂いなど、食事の匂いで吐き気が出ると訴える方がいらっしゃいます。できるかぎり香りがたたないよう冷たいお料理にしたり、魚・肉を避け、卵や大豆製品・乳製品といったほかの食品でたんぱく質を補ったりして工夫します。

口内炎では酸味や塩味を抑えたり、物理的に当たったりしない、刺激の少ない形に形態調整を行います。患者さんの多くは「ごめんなさい、わがままを言って」「出してもらったのに残してしまって申し訳ない」など、自分を責めるような発言をされます。しかし、食べられないのは副作用のせいであって、決して患者さんの頑張りが足りないわけではないことをいろいろなスタッフから患者さんに説明し、理解してもらえるようにしています。そして、食べられないストレスを少しでも軽減できるよう、食べられる物を一緒に探していくことにしています。(『ヘルスケア・レストラン』2021年7月号)

豊島瑞枝(東京医科歯科大学歯学部附属病院 管理栄養士)
とよしま・みずえ●大妻女子大学卒業。東京医科歯科大学医学部附属病院に入職後、2010年より東京医科歯科大学歯学部附属病院勤務となる。摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士、NST専門療法士、TNT-D管理栄養士、糖尿病療養指導士