栄養指導で”あるある!こんなこと”
第96回
食事はご飯を食べたあと?
勘違いが食後高血糖の原因に

今回は大きな悲しみを乗り越えて、再び生きがいを見出した方のお話しです。ちょっとした勘違いも「あるある」なケースでした。

つらい悲しみがストレスになり血糖値が上昇傾向に

今回ご紹介する患者さんは1年ほど栄養指導でかかわっている患者さんです。年齢は68歳、身長は小柄で160cm、体重は98kg、BMIは38.3kg/㎡です。当初はいつもどおり食習慣の調査から始まり、野菜摂取の話や食べる順番などの基本的な話をして、数値の変化などを確認していました。体重もはじめの半年で4kgほど減量でき、8.7%あったHbA1cも食事療法で7.8%まで改善しました。

田村:Lさん、こんにちは。今日も体重測定からお願いします

Lさん:はいよ

田村:94kgですね。最近少し停滞期ですかね?

Lさん:停滞期?

田村:はい。人間の身体はよくできていて、現状をなるべく維持しようとする機能があります。食事療法なんかで食べる量が少し減ったりすると、そのエネルギーで現状を維持しちゃうんですね。それが停滞期なんです

Lさん:せっかく減ってきていたのに、このまま減らなくなるのかい?

田村:リバウンドを避けるためにも、今は食事療法の継続が大事です。あとは少し運動をすると減量できると思います

Lさん:運動か?できるかな?

田村:無理はいけないので、まずは10~15分歩くことから始めてみて、続きそうなら30~40分、週に3~4日ウォーキングするといいですね

Lさん:やってみっか

田村:ぜひ、お願いします。でも無理は禁物ですよ。まずは10分程度から始めてみてください

Lさん:はいよ

この栄養指導後、不幸なことにLさんは最愛の息子さんを突然病気で亡くされました。栄養指導には来るものの、1~2ヵ月は話をお聞きするのがやっとの状況。精神的ショックが大きい期間がありました。そして3ヵ月が経った頃のことです。

田村:Lさん、最近はいかがですか?

Lさん:そうだね。泣いてても仕方ないし、俺もいつ死んでもいいけど、生きてるうちはしょうがないね……

田村:そうですよ。おつらいとは思いますが、生きている間は頑張って、少しでも楽しく前向きにね

Lさん:もともと運動とかをやろうって思っても億劫でできなくて、「でも頑張ってみっか?」って思った時に倅のやつがあんなことになって……。「何だかもうどうでもいいや!」って思ったけど。少し、頑張ってみないとな

田村:そうですね。ご自身のお身体なので労わってあげてください。前に話したウォーキング、始めてみませんか?気分転換にもなるかもしれませんよ

Lさん:そうだね、やってみっぺ

この時点で体重はストレスから2kgほど落ちて92kgでしたが、HbA1cは7.8%から8.4%にやや上昇していました。

田村:少し前にHbA1cが7.8%でしたよね。とてもいい経過だったので、まずはそこを目標に頑張ってみましょう

血糖値の改善で生きがいを取り戻す

そんな会話からさらに3ヵ月が経ちました。

田村:こんにちは。体重は92kgで変わりはないですね。ウォーキングはいかがですか?

Lさん:気分が乗らない日がどうしても多くて、週に2日かな。1回20分くらい

田村:そうですか。でもいいですよ。やってくださっているだけ進歩です。そのペースでもいいので続けていてください

Lさん:気分の落ち込む日もあってな。このくらいでいいならなんとか

田村:大丈夫です。まずは続けることが大切です

Lさん:今日の結果はどうだい?

田村:そうですね。HbA1cがなかなか下がりませんね。今月は8・6%でちょっと上がってしまっています

Lさん:上がっているのか?酒を止めないとだめかな?

田村:晩酌ですよね?毎日飲んではいらっしゃいますが、量的には焼酎のお湯割り2杯なので、そこは楽しみで止めなくともいいですよ。何か日々楽しみはないと

Lさん:そんなに食ってもいないんだけどな

田村:Lさん、晩酌の時におかずはしっかり食べますよね?

Lさん:そうだね。野菜、豆腐、肉か魚

田村:そしたらご飯は?

Lさん:食べるね。晩酌後にご飯とみそ汁

田村:そのご飯だけ少し止めてみましょうか?

Lさん:晩酌のあとのご飯かい?

田村:はい。朝とお昼はちゃんと食べて、夕飯はお酒とおかずで済ますのはどうでしょう?

Lさん:だって薬飲まないといけないし

田村:食後のお薬ですね?それはおかずとかおつまみを食べていれば大丈夫ですよ

Lさん:いやいや、食後ってなってるよ!

田村:

Lさん:ちゃんとご飯を食べてから飲まないと駄目だべ?

田村:それは空腹では飲まないでくださいって意味なので、ご飯を食べなくても大丈夫です

Lさん:そうなのかい?

田村:はい。空腹だと胃に負担がかかりますよって意味なので、何か食べていれば大丈夫です

Lさん:どんなことがあっても、タ飯にご飯を食べてから薬を飲んでいたよ

田村:お酒を飲んでしっかり食べているところにご飯も食べていたら、ちょっと多かったかもしれませんね。つらくなければ、次回までお酒を飲んだあとのご飯だけ減らすか止めてみましょうか?

Lさん:大丈夫ならやってみっぺ

田村:はい。お願いします

2ヵ月後、Lさんの体重はさらに2kg減って90kgになりました。そしてHbA1cが8.6%から8.0%になりました。気をよくしたLさんは夕飯の調整を続け、現在はHbA1cが7.0~7.2%となり、目標としてご自身でも6%台をめざしています。ウォーキングも少し増えて、週に3~4日、時間も30分程度歩くようになりました。そして最近では奥さんと車で出かけることもあるようです。

Lさん:昔は車であちこち旅行して回っていたけど、ずっとそんなこともなくなっていたんだよ。今はコロナでまだ遠出はできないけど、コロナが収まったらまた温泉とか東北一周とか旅行でもしたいな

田村:素晴らしい。それは楽しみですね

Lさん:生きてるうちにもう一回、楽しまないとな

田村:そうですよ

服薬時のちょっとした勘違い、また精神的なつらさを乗り越えて、今は楽しみや目標をもって頑張っています。(『ヘルスケア・レストラン』2021年7月号)

田村佳奈美
福島学院大学短期大学部
食物栄養学科講師
かとう内科クリニック 非常勤 管理栄養士

たむら・かなみ●療養病院、急性期病院での勤務を経て、2011年8月からフリーランスの管理栄養士として活躍中。福島県いわき市内のクリニックでの栄養指導や全国各地での講演活動、自宅で暮らす高齢者の栄養サポートにも力を入れている

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