食べることの希望をつなごう
第39回
血糖コントロールが必要な嚥下障害
患者さんへの栄養管理で気を付けるべきこと

患者さんの高齢化とともに病態が複雑化している昨今。口腔がん患者さんのなかにも、食事療法が必要である方は少なくありません。術後の摂食嚥下障害を考慮しながら食事療法にも取り組んでいくことが求められています。

血糖コントロールが必要な口腔がん患者のAさん

摂食嚥下障害により、食形態に配慮が必要な患者さんのなかには、食事療法を必要とする既往がある場合があり、食形態だけではなく、栄養量に大きな配慮を要することがあります。また、もともと既往がなくても、治療の過程で食事療法が必要になる場合もあります。さらに、退職後、長く健康診断を受けておらずかかりつけ医もないといった方や、もともと健康だったので病院にかかったことがない、という方も、入院時に異常値が見つかることがあります。そのような場合には、医科と歯科との連携が必須です。たとえば、糖尿病の既往がある方が、口腔がんの治療を行うことがあります。当院の場合には、内科医が血糖コントロールを行います。場合によっては、1~2週間、糖尿病の教育入院を行ってから治療に入ることもあります。

もともと糖尿病の既往があったAさんは下顎歯肉がんのため、手術が必要になりました。術後は経鼻胃管からの経腸栄養が必要です。かかりつけ医からの診療情報提供書には、HbA1cは7.0~7.3%と記載があり、内科にコンサルトをお願いすることになりました。内科からは術前の血糖コントロールのため、内服からインスリンの導入と教育を目的とした入院を勧められ、7日間の教育入院のあと、手術を行うことになりました。術式から、術後の摂食嚥下機能低下が予想されたため、術前から摂食嚥下リハビリテーションの介入も決まりました。
必要栄養量についても内科の医師から指示が出るため、指示どおりに献立内容を調整します。当院では、エネルギー塩分コントロール食の設定はあるのですが、通常用意している食形態は常食、全粥食のみとなるため、そのほかの食形態、たとえば日本摂食・嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2013(学会分類2013)のコード2のような噛まなくてもいい形態の場合には、嚥下調整食をベースに栄養量を個別調整しています。Aさんの指示エネルギー量は1800kcal、塩分は6g未満の指示でした。術前は常食が食べられていたため、基本のエネルギー塩分コントロール食を提供し、術後は摂食嚥下機能に応じた食形態に調整することになりました。

インスリン療法では経腸栄養剤に注意が必要

入院前は、内服のみで血糖コントロールを行っていたAさんでしたが、術後経腸栄養の期間が2週間程度見込まれたため、術前からインスリンを使用することになりました。経腸栄養の期間は、内科の医師が術後の血糖値の推移を見ながらインスリン量を調整します。インスリンの量に大きく影響するのが経腸栄養剤の投与量と投与方法です。
当院の場合は管理栄養士が医師・歯科医師に経腸栄養の投与プランを提案しています。気管切開、頸部郭清、腫瘍切除、皮弁移植といった侵襲の大きな手術のあとは、経腸栄養ポンプを使用し、40ml/hで経腸栄養剤の投与を開始します。経腸栄養剤のみでは必要な水分量が確保できない場合は、輸液も併用します。下痢や逆流、膨満感などの腹部症状がないか、脱水や高血糖、電解質異常がないかを確認しながら、徐々に投与速度を上げていき、100ml/hからは自然滴下に切り替え、間欠投与に移行します。通常は1.5kcal/mlの経腸栄養剤を使用していますが、必要な水分量が多い場合には1kcal/mlや0.8kcal/mlの経腸栄養剤を使用することもあります。たとえば、指示エネルギーが25kcal/kg、水分量の目標を30ml/kgとした場合には、1.5kcal/mlの経腸栄養剤を使用すると、栄養剤由来の水分量が少ないため、栄養剤以外から確保すべき水分量がかなり多くなってしまいます。そのため1kcal/mlの栄養剤の使用を提案します。
このように投与速度により、実際に投与される栄養量が変化していくため、血糖の推移にも影響します。また、輸液の種類や量も血糖に影響を与えるため、経腸栄養と輸液の投与プランを内科の医師、歯科医師、看護師、薬剤師と共有し確認しています。

Aさんは術後に摂食嚥下機能の低下が見られ、間接訓練から開始となりました。痰が多く、喀出もあまり上手ではありません。唾液誤嚥の可能性もあったため、1週問頸部ROM(関節可動域)、舌ROM、ハッフィングの間接訓練を行ったあと、再度嚥下機能評価を行い、できるだけ早い経口摂取につなげることになりました。

摂食嚥下障害と食事療法は多職種で対応していこう

経口摂取開始時は、基本的に経鼻胃管を入れたままです。患者さんに合った食形態および栄養量の食事を3食問題なく全量摂取できること、水分摂取ができること、内服ができることを確認してから経鼻胃管抜去となります。全量摂取が難しい場合は、できるだけボリュームを抑えて栄養確保できるよう献立を調整します。それでも全量摂取ができない場合は、不足分を経鼻胃管から投与することになります。血糖コントロールが難しい患者さんの場合、特にインスリンを使用しているケースでは、食事からの栄養量と経腸栄養からの栄養量について医師と情報共有し、インスリンの量や打ち方の指示を仰ぎます。Aさんは1800kcal/日の指示でしたが、初回は疲労感が強く、200kcal程度しか経口摂取ができませんでした。そこで、まずは1日1食200kcalの食事を完食することを目標とし、不足分は経鼻胃管から投与して栄養量を確保しました。Aさんは普段からしっかり横になって寝ていることが多かったためか、座位が保てず、疲れてしまって食事終了、というパターンだったことに加え、また術後の嚥下機能評価の際、食道での停滞が見られたため、できるだけ横にならず、ベッドを起こしておくようスタッフで声掛けし、リハビリを進めていきました。

血糖値のこともあるので、病棟を歩くように促し、食形態を学会分類2013のコード2-1に合わせながら栄養量を確保できるよう献立を調整しましたが、食形態と栄養量の両方をすり合わせるのは嚥下機能によってはなかなか困難な場合があります。Aさんは濃いとろみが必要であり、液体をそのまま飲むことができなかったので、水分確保と栄養量確保を兼ねて栄養補助ゼリーなどを使用しました。3食経口摂取に移行できた時には血糖値も落ち着き、インスリンから内服に切り替えることができ、無事退院の日を迎えました。常食を食べることができ、食形態の配慮が必要ない状況下では、献立の調整はしやすいですが、摂食嚥下障害がある場合にはONSや栄養補助食品を使用することがあり、医師との密な連携が必要です。退院後の生活を患者さんと相談しながら、食事療法を継続し、安全に食べられる食事をどのように準備するか、医師をはじめとするそのほかのスタッフと情報共有することで、よりよい治療につながると感じています。(『ヘルスケア・レストラン』2021年6月号)

豊島瑞枝(東京医科歯科大学歯学部附属病院 管理栄養士)
とよしま・みずえ●大妻女子大学卒業。東京医科歯科大学医学部附属病院に入職後、2010年より東京医科歯科大学歯学部附属病院勤務となる。摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士、NST専門療法士、TNT-D管理栄養士、糖尿病療養指導士