お世話するココロ
第129回
在宅勤務で変わった暮らし

新型コロナウイルス感染症が国内に広まって一年以上が経ちました。この間、夫は在宅勤務が基本。改めて、生活の変化を考えてみたいと思います。

2021年春・今の生活

コロナ禍の今、多くの方の生活が昨年までと変わっているのではないでしょうか。私は訪問看護という仕事柄、人との対面が避けられません。こと仕事に関する限り、コロナ以前と変わらぬ暮らしをしています。
一方、電機メーカーに勤める夫の暮らしは、在宅勤務中心へと大きく変わりました。去年の4月後半から長いゴールデンウィークに入り、それ以降はずっと在宅勤務。出勤は、月に2~3回程度なので、それまで支給されていた通勤定期もなくなりました。

通勤定期の喪失は、私たち夫婦の生活に、予想外の変化を引き起こしています。毎回交通費がかかると思うと、電車を避けるのですね。特に、割引回数券などのサービスに乏しいJRに乗る機会が減ってしまいました。
また、可能な限り、買い物は地元で済ます傾向も顕著です。あんなに行った新宿のデパートもしばらく行っていません。緊急事態宣言などで外出自粛があったにしても、以前の私たちからは想像できない行動範囲の縮小です。

一方で、歩く範囲は広くなっています。住まいのある吉祥寺から武蔵境、荻窪あたりまで、徒歩圏になりました。これは交通費以上に、夫の運動不足ゆえ。通勤がなくなると、一気に歩かなくなってしまうのです。
コロナ禍による在宅の増加で、多くの人が「コロナ太り」に悩んでいるとも聞きます。夫はただでさえ太りやすい体質。本当に気をつけなければいけません。ですから、1日1回は外に出、休日にはなるべく距離を歩く。これを習慣づけているのです。

こうした生活も慣れてしまえば、なかなか悪くありません。ツレはこれまで片道1時間以上かかっていた通勤がなくなり、時間を有効に使えるようになりました。朝8時半にパソコンに向かって仕事を始め、18時頃には終業。バソコンの電源を落とせばそこから夫婦の時間が始まるのは、2人にとって、快適な生活です。

私も夫も今年58歳。夫の会社は60歳定年で、あと2年ほどで一区切りになります。それまでにコロナ以前の働き方に戻れるのか……。ちょっと微妙な年数ですよね。
そして、私たちにしても、夫が毎日混んだ電車に乗って片道1時間以上通勤に時間をかける。そんな生活に戻れるのか、私は自信がありません。

マスクをつけないと外に出られない今の生活は終わってほしい。とはいえ、働き方に関しては、今のままでもいい……。そんな感覚をもっている人も多い気がします。

介護との両立も可能

在宅勤務ならではのメリットとして、最初に挙がるのは、何より、介護や子育てとの両立がしやすくなる点でしょう。私たち夫婦は子なしの50代。子育てよりもはるかに介護がリアルなので、介護について書くことにします。

同世代の知人男性は、最近父親が転倒し骨折し入院。母親は軽度の認知症があるため、1人では家に置けません。そのため、父親が退院するまでの1ヵ月程度、両親の家に泊まり込んだそうです。
聞けば、両親の家は会社からは遠く、そこから毎日通勤するのは困難だったそうです。これが在宅勤務であれば、通勤する必要がありません。在宅勤務の時期だったからこそ、できた親の世話だったと言えるでしょう。

男性の会社では、初め在宅勤務は自宅からに限られていたところ、社員の希望で両親の家もOKになったと聞きました。在宅勤務が可能であれば、親の家に行きたいと思っている人が、意外にたくさんいるのでしょうね。
実際男性の会社では、コロナ禍以前に、介護との両立を視野に、在宅勤務制度の検討に入っていたそうです。これを聞いて私は、子育てとの違いを感じました。
在宅勤務が助けになるのは、子育てと介護のどちらも同じでしょう。しかし、子育てでは積極的に動かなかった会社も、介護となると動く。この理由はと考えれば、男性がかかわる度合いの差に思えてなりません。

女性ばかりが請け負って苦労する「ワンオペ育児」は、常に話題になっています。それを思えば、「男が困らないと変わらないのか」と、腹立たしい気持ちも湧いてくるところです。
一方で、以前は親の世話といえばいわゆる嫁や娘、女性ばかりが請け負ったものでした。時が経ち、男性が自分の親を自分で気遣うようになったのは、大きな変化と言えるでしょう。

看護師として働く私の実感では、今、介護の手として期待されるのは、まずは配偶者です。それが妻の場合でも、夫の場合でも、まず配偶者。子ども世代と同居していても、働いていれば、そうそう子どもはあてにできません。
次に配偶者がいないか、介護する能力がない場合、娘、息子、息子の妻の順であてにされるでしょう。残念ながら息子よりも圧倒的に娘に負担が偏る傾向は感じます。しかし、娘がいなければ、期待されるのは息子。決して息子の妻が筆頭ではありません。
ただし、私の経験はあくまでも都市部での看護です。地方では、未だに「嫁」に期待がかかる場合はあるとのこと。このあたりも、地方の男性と結婚したがらない女性がいる理由なのかもしれません。
社会全体では、男性も親の介護にかり出される時代といえそうです。在宅勤務はその傾向をさらに進めるのではないでしょうか。

いい変化もありましたが……

在宅勤務になってもうすぐ1年。思いがけない変化もありました。

夫が会社に行かなくなって、最初に決めなければならなかったのが、昼ご飯をどうするか。これはけっこう大問題でした。
新型コロナがはやる前、夫は週に5回出勤し、昼ご飯は社食で済ませていました。私は勤務の時には弁当屋で弁当を買い、休みの日は家でシリアルなどを食べる生活。要は2人とも、ウィークデイの昼食は適当に済ませていたのです。
相談の末、基本はご飯とレトルト食品に決定。プラス、出せばすぐに食べられるつくり置きおかずを多めにつくっています。在宅勤でも、昼休みは決まっているので、その時間にさっと済ませられるよう、型を決めました。

実は夫が在宅勤務になり、昼食づくりが負担という声は、周囲から聞いていました。介護を男性が担う時代になりつつある一方、まだまだ家事は女性の負担が大きい現実があります。その意識が変わらないまま在宅勤務になると、妻の負担が増えるのでしょう。
ですから私はあえて、私がいない日の手当はしないと決めました。つくり置きおかずも、できるだけ2人でつくっています。おかげでコロナ以前よりも今のほうが、彼は料理が得意になりました。また、一昨年の夏にわが家がもらい受け、夫になかなか懐かなかった猫が、やっと懐いたのも、在宅勤務の賜物。夫を鳴いて呼ぶ姿を見ては、コロナ禍がなかったらどうなっていたのかな、と思っています。

とはいえ、常に感染防止に気を遣う生活は、いいかげん疲れてきました。在宅勤務への移行が難しい職種では、仕事自体がなくなったり、大変な思いをしている人がたくさんいます。
収束に向けては、やはりワクチンも数少ない選択肢でしょう。私は医療者なので優先接種の対象。問もなくワクチンを受ける予定になっています。これによって収束が少しでも早まればと願っています。(『ヘルスケア・レストラン』2021年6月号)

宮子あずさ(看護師・随筆家)
みやこ・あずさ●1987年、東京厚生年金看護専門学校卒業後、2009年3月まで看護師としてさまざまな診療科に勤務。13年、東京女子医科大学大学院博士後期課程修了。博士(看護学)。現在は精神科病院の訪問看護室に勤務(非常勤)。長年、医療系雑誌などに小説やエッセイを執筆。講演活動も行う。看護師が楽しみながら仕事を続けていける環境づくりに取り組んでいる。近著に「宮子式シンプル思考 主任看護師の役割・判断・行動力」(日総研出版)がある