食べることの希望をつなごう
第38回
低栄養の高リスク患者に対する
栄養補給の落とし穴に注意

食べることとの関係性が高く、症状が進行することで食べられずに低栄養が進行する傾向の高い口腔がん患者。しかし、栄養状態が非常に悪いケースでは栄養量の充足のためのエネルギーリッチな栄養剤は、さらなる病態悪化を招く可能性があります。管理栄養士として低栄養患者への栄養補給のリスクを知り、正しい提案へつなげていきましょう。

著しい低栄養状態にはくれぐれも慎重な栄養介入を

脳より下側から鎖骨までの範囲に含まれる、鼻、口、喉、上顎、下顎、耳などの部分にできるがんが頭頸部がんで、最も多く認められるのが扁平上皮がんです。そのなかでも舌がんは、最も症例数の多いがんです。
当院でも、舌がんの治療を目的に入院される患者さんは多く、進行度によっては、入院前から食べることに支障が出ていることがあります。来院された際、腫瘍のせいで食べにくさがあり、痛みも強く食べられない、という方に、いままで何度もお会いしました。外来受診時に食べられていない、痛みが強い、食形態に配慮が必要など、栄養状態に問題がありそうな患者さんは、担当医や看護師から連絡が来ることが多く、食事のとり方の相談に乗ったり、必要時にはONSの処方を依頼したりします。

しかし、たまに初診時にはすでに腫瘍がかなり増大しており、しばらくの間ほとんど経口摂取ができていなかった、というケースがあります。そんな時にまず配慮が必要なのはリフィーディングシンドロームのリスク回避です。ご存じのとおり、リフィーディングシンドロームは、慢性的な栄養不良状態が続いている低栄養患者に積極的な栄養補給を行うことにより、水・電解質分布の異常を引き起こす一連の代謝合併症の総称であり、高度の低栄養状態にある患者に、いきなり十分量の栄養療法を始めることで発症するため、慎重に栄養補給する必要があります。1)

以前、ほとんど経口摂取ができておらず脱水症状があり、栄養改善を目的に車椅いすで入院された患者さんに、「経口摂取ができないので経鼻胃管を入れたから、栄養は1800kcal入れればいいか」と相談があり、あわててストップをかけたことがあります。栄養不良→栄養投与→栄養改善という流れと同時に、今までの経緯を確認し、ごく少量からの栄養投与とビタミンB1の補充、リン、マグネシウム、カリウム、血糖値のモニタリングといった、通常より慎重な栄養管理が必要になるからです。

栄養管理で大切な聞き取りとモニタリング

まず、患者さんの状態を聞き取りますが、なかにはお話しすることも難しく、筆談やご家族からの聞き取りなど、情報を得るのに一筋縄ではいかないことがよくあります。また、ご家族の情報と、ご本人の申告とにずれがあることもしばしばです。独居の場合はご本人の申告が中心になるため、ほかの職種による聞き取り結果も照らし合わせて、何が真実に近いのか、リスク回避のためにどの情報を選択するかを見極めることも栄養管理を行ううえでは重要なスキルです。

「2週間飲まず食わず」と申告されたAさん。独居であり、おひとりで入院されました。痛みが強く水も飲めなかったとのことで、ここ2日は外来で点滴の処置を受けていました。お話しすることもできないので筆談です。体重変化を確認すると、2週間で14kg減ったと申告され、食事摂取状況と体重変化からは、低栄養のリスクがかなり高いと考えられました。しかし、病棟を歩いているところを観察すると特にふらつきはありません。入院時も荷物を持って歩いて来院されています。入院されたその足で聞き取りをしたので普段着でしたが、お見受けしたところ、標準体重くらいはありそうです。体重変化の聞き取りによると、2週間でBMI23kg/㎡から18kg/㎡でしたので、手足が細くなっている可能性はありますが、そこまでやせているという印象は受けませんでした。

管理栄養士の聞き取りのあと、看護師による聞き取りがあり、そのあと身体計測を行う流れになっています。管理栄養士は情報をもとに、栄養管理計画を立てます。この方の場合、まずは栄養改善を行い、その後可能であれば手術をすることになりました。現在は、経口摂取は腫瘍の増大のため困難と考えられ、経鼻胃管からの経腸栄養のルートを使うことになりました。目標栄養量と水分量を算出するため、身体計測結果を確認に行くと、申告のあった体重と実測値とでは10.7kgもの開きがあり、申告では14kgの体重減少でしたが実際は3.3kgの減少であることがわかりました。また、管理栄養士の聞き取りでは「2週間飲まず食わず」との申告でしたが、看護師の聞き取りには「ビールを1日1500ml飲んでいた」と答えていました。これらの情報を、英国NICE診療ガイドライン2)をもととしたリフィーディングシンドロームの高リスク患者にあたるか、表1 1)に当てはめ確認します。
その結果、独居でおひとりでの入院だったため、できるだけリスクを回避する方向で進めていくこととしました。自己申告上では10日間以上の絶食と、アルコール多飲にあたる可能性があるため、高リスク患者と判定し、内科と併診し、慎重な栄養投与を行っていきます。ビタミンB1を補充しつつ、体重当たり7kcal/日から開始し、血糖、電解質、尿量等のモニタリングを行いながら徐々に栄養量を増やしていき、10日以上かけて目標栄養量および水分量での管理ができるようになりました。

腫瘍そのものや治療が「食べる」機能に大きく影響を与える頭頸部がん領域においても、リフィーディングシンドロームの高リスクにあてはまる患者さんに遭遇することがあります。「食べられていない」という状況がどのくらい長く続いているのか、低栄養の状態を把握し、リスクが高い場合には細かなモニタリングと慎重な栄養管理が必要になるということを、かかわるすべての職種で共有することが大切だと思います。(『ヘルスケア・レストラン』2021年5月号)

参考文献
1)臨床栄養認定管理栄養士のためのガイドブック
2)NICE診療ガイドライン(https://www.nice.org.uk

豊島瑞枝(東京医科歯科大学歯学部附属病院 管理栄養士)
とよしま・みずえ●大妻女子大学卒業。東京医科歯科大学医学部附属病院に入職後、2010年より東京医科歯科大学歯学部附属病院勤務となる。摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士、NST専門療法士、TNT-D管理栄養士、糖尿病療養指導士