お世話するココロ
第128回
居宅支援を悩ます〈小銭問題〉
この2月、すべてのメガバンクで小銭の両替が有料になったのをご存じでしたか?調べてみると、両替のみならず、入金も有料化の流れ。貯まった小銭は、訪問看護の世界でもお荷物になってきました。
1円玉500枚の両替に手数料400円
2月1日から、無料だった三井住友銀行での両替が有料化されました。すでにみずほ銀行、三菱UFJ銀行は有料だったため、これですべてのメガバンクで、両替が有料化されたことになります。
手数料の金額は各銀行によって異なり、三井住友銀行の場合、1円玉500枚の両替に対し、なんと手数料が400円!現金払いの多い商店を中心に、負担を訴える声が上がっているようです。
ならば入金はどうかと改めて調べてみると、2018年から多くの銀行で、大量の硬貨を入金する場合に手数料を設定していました。今のところ無料の金融機関もありますが、全体の傾向としては有料化であるのは確かです。
昨年12月18日付けの熊本日日新聞(Web)には、「1円玉を500枚と少し貯めたので銀行に預けようとしたら、手数料が440円もかかると言われた。60円ぐらいしか残らない」との驚きの声が寄せられ、事実を確認しています。
有料化の理由は、「数える、保管する、持ち運ぶなどの手間に掛かる手数料」。また、異物の混入などで計測する機械が故障するなど、トラブルの元になっている実も記事に出ていました。
銀行のサイトを調べてみると、三菱UFJ銀行の場合は、100枚まで無料、101~500枚は550円、501~1000枚は1100円、1001枚以上は1650円。以降500枚ごとに550円加算されます。
ただし、三菱UFJ銀行では、大量の硬貨入金に手数料がかかるのは窓口の取り引きのみ。ATMの場合は手数料はかかりません。とはいえ、1回に入れられる硬貨は100枚なので、大量にある場合は、100枚ずつに分けて入金することになります。
実際にやった人の声を聞くと、硬貨が多いと、機械が処理するのにかなり時間がかかるそうです。ATMの台数がものすごく多い所や、空いている所なら可能かもしれませんが、そうでない場合、なかなか難しいと話していました。また、窓口での入金も100枚まで無料なので、小分けに入金すれば手数料はかかりません。ただし、この枚数制限は1日の取引枚数。日を変えないと累計で有料になってしまいます。
小銭を貯め込む利用者さん
なぜ私がこんなにも小銭の扱いに熱心かというと、精神科訪問看護で、小銭を貯め込む利用者さんをたくさん見ているからです。一番の理由は、現金払いの人が圧倒的に多いからで、そこには特有の理由もあるのです。
まず、多くの人が普通に使っているクレジットカードは、経済状態によっては簡単につくれません。また、電子マネーは使い方がいくら簡単でも、現金払いという長年のやり方を変えるのは難しかったりします。
もちろん、精神疾患があっても、生活能力は人によってさまざま。難なく電子マネーを使っている人はいるのですが、すべてがそうではない、ということです。ならばせめて小銭を貯めないようにしてほしいのですが、それもなかなか望めません。
小銭を貯め込む人の多くは、買い物で札を出し続ける人。支払額を見て、小銭と合わせて支払うには、計算する力と多少の時間が必要ですが、緊張が強い人は、それができず、レジで反射的に札を出してしまうのです。
そして、貯まった小銭を使おうとすると、今度は使える枚数の制限が問題になります。たくさんの小銭で支払おうとする客に対して、店は法律上、同じ金種は20枚を超えたら拒否できるのです。
おまけに、「同じ金種は20枚」を「合計20枚」と思い込み、受け取らないコンビニもあったと聞いています。「同じ金種は20枚」なら、理屈では500円玉、100円玉、50円玉、10円玉、5円玉、円玉それぞれ20枚ずつまでなら、支払い可能なのですが……。
いったん「ダメ」と言われたら、困惑して買わずに帰ってしまうのが、多くの利用者さんの姿です。このあたり、健常者のほうが、絶対に強く押すと思う。なかにはキレて要求を通す人もいるかもしれません。
かくして、利用者さんの家には多くの小銭が貯まります。コンビニでも使えず、両替はおろか、入金もままならない。そんなお金が貯まってしまうのです。
そして、若い頃発病し、生活保護を受けながら細々暮らす人にとって、貯まった小銭も大事な資金。時にはそれを使えず、苦しい場面も出てきます。
ある時、生活保護の支給日を前に、財布が空になってしまった利用者さんのもとへ訪問しました。過去3年、生活保護の額は減額されてきました。人によってその額は異なりますが、その人はかなりの減額で、常に生活はぎりぎりだったのです。
その人には、空き缶に貯めた小銭貯金があり、すでに500円玉、100円玉は使い切り、10円玉もほとんどなし。残るは山盛りの1円玉と5円玉ばかりでした。
必死に手分けして数えると、総額200円。これならカップ麺か菓子パンくらいは買えるでしょう。3日しのげば次の支給日がきます。なんとかこの小銭を使いたい。今回だけは私が両替しようと決めました。
ところがこういう時に限って、財布は職場。手元に財布はなかったのです。がっくりしている間はありません。2人で何か食べ物はないか家捜ししたところ、買ってそのまま手をつけていない乾麺が出てきたのです。
地獄に仏とはこのこと。3日間はこれでしのいでもらうことにしました。
では小銭はどうしたらいいのか
その後、この利用者さんの小銭の行方には、大きな展開がありました。金銭管理にかかわる支援者が、さらに家の中を一緒に探したところ、さらに大量の小銭が見つかったそうです。
そして、その時点で見つかった小銭をすべて揃えて、ゆうちょ銀行へ同行。幸いゆうちょ銀行は小銭入金に手数料がかかりません。窓口で入金した金額は、2000円を超えたそうです。
今後はここまで貯まらないよう、金銭管理の支援者が気を配ることになりました。本当によかったと思います。
この小銭に苦労した問題をFacebookに投稿したところ、いろいろな人から意見をもらいました。実行できそうな内容としては、①支払う際は1円玉を100枚必ず手に持っておき、1の位は1円玉で払う、②スーパーのセルフレジを活用する、などがありました。
いずれも、緊張の強い人、認知機能に低下のある人では難しいと思いますが、慣れればなんとかなる人もいるでしょう。小銭を貯めると始末が悪い現状では、少しでも貯めずに使っていく方法を考えねばなりません。
私自身の生活を振り返ると、電子マネーやクレジットカードを活用して、小銭をやり取りする機会は少なくなっています。それによって便利になっているのは事実ですが、一方で、切り捨てられている人もいるのですよね。
キャッシュレス化の推進は世の流れでしょうが、さまざまな制度変更が、誰かを置き去りにしていないか。より不便になる人が出てこないか……。こうした目配りは必要なのではないでしょうか。
ただでさえ、若い頃に病気になり、多くの苦労をしてきた人たちです。これ以上つらい思いをさせるのは忍びない。小銭問題を通じ、そんな気持ちにもなっています。(『ヘルスケア・レストラン』2021年5月号)
みやこ・あずさ●1987年、東京厚生年金看護専門学校卒業後、2009年3月まで看護師としてさまざまな診療科に勤務。13年、東京女子医科大学大学院博士後期課程修了。博士(看護学)。現在は精神科病院の訪問看護室に勤務(非常勤)。長年、医療系雑誌などに小説やエッセイを執筆。講演活動も行う。看護師が楽しみながら仕事を続けていける環境づくりに取り組んでいる。近著に「宮子式シンプル思考 主任看護師の役割・判断・行動力」(日総研出版)がある