“その人らしさ”を支える特養でのケア
第41回
変わりつつある経管栄養法への意識
ご利用者のQOLを柱に是非を考える

一時期、胃ろうバッシングが起こり、その煽りで経管栄養法へのイメージは大きくダウンしました。しかし、必要に応じて経口摂取と経管栄養を選択することが大事なのだと、特養に来て改めて考えさせられました。

経管栄養法への意識は医療界でも変化している

高齢者に対する経管栄養法実施の是非について注目されるようになり、しばらく経ちます。個人的な感覚としては、認知症の進行などで食事が困難になったご利用者に対して、入院したあとに、経管栄養が選択されるケースは減っているように感じます。一時期、病院側からも「十分には食べられないが、経管栄養をせず退院してもよいか」という問い合わせが多かったことを記憶しています。
現在、当施設ではご利用者が十分に食べられなくても受け入れ可能と判断しており、栄養投与が不十分な状態でもご家族の合意の下、施設で過ごしていただいています。具体的にどのように過ごしていただいているのかは今までにご紹介しているとおりです。

そもそも、私が栄養管理に興味をもったのは、さまざまな経路から栄養投与を行って栄養状態を改善させることが、患者の病状を改善させる一助となることを知ったからです。
病院勤務の頃は急性期の患者を多く担当していたこともあり、非経口摂取(静脈栄養や経管栄養)での栄養管理はどんな背景の患者でも、経口摂取が不十分であれば躊躇なく選択する方法でした。
数年前、急性期病院に勤務する後輩と話した時に「高齢の患者へ経管栄養法を選ぶ時に長期的な経過も考えるようになったし、先を考えると経管栄養法を選ぶことを躊躇する時もある」と話してくれました。この時、病院の管理栄養士の意識も変わってきていることを実感し、自分が仕事していた時とは考え方も変化しているのだと感じました。
特養の管理栄養士としての視点から見ても、急性期病院で“一時的な”経管栄養法を選択することは必要だと思っています。しかし、“一時的な”対応に留まらないかもしれないと思われるケースに対しては、どうでしょうか。

実際、当施設で経管栄養を行っているご利用者の場合、状況的に看取り期と判断されるケースであっても、投与内容の変更や中止の判断は、慎重に行われています。投与内容の変更や中止で発生すると思われる症状をご家族に説明したうえで、ご家族の意向を聞きながら判断しています。
経管栄養法は安定的に栄養状態を維持できるので、一度始めてしまうと途中で止めるという選択は死につながってしまうようで、倫理的に難しいと考える方が多いのではないでしょうか。

ご利用者の意向のもと胃ろう造設をサポート

当施設の現状をご紹介します。経管栄養を実施している方は8人。そのうちの3人は当施設をご利用中に経口摂取から経管栄養に栄養投与法が変更になった方々です。
冒頭の話と違う……と思った方もいらっしゃると思います。このご利用者に関しては、経口摂取のままでいることのほうがQOLの低下を招くのではないか、という観点から経管栄養に移行しています。

Aさんは進行性の難病の方です。在宅で生活されていましたが、病状の進行から介護が困難となり当施設へ入所されています。Aさんご本人とご家族は、入居当初から「食べられなくなったら胃ろうを造りたい」との意思表示をされていました。入居時は何とか自力摂取ができていましたが、経口摂取が困難となった段階で、ご家族の意向を再度確認し、胃ろう造設目的で急性期病院に紹介となっています。
胃ろう造設前から「経管栄養になっても経口摂取を続けたい」という希望があったことから、退院後の生活が落ち着いた頃に簡易的摂食嚥下評価(ASAP)を実施しています。少しずつ経口摂取を再開し、現在は経口から300kcalほど摂取できています。経口摂取量が安定したため、摂取量の分、経管栄養の投与量を調整し1日の必要量を保っています。現在は胃ろう造設後のAさんの目標であった「外泊」も実現し、もしかしたら入居時よりお元気かもしれません。

Aさんのケースは、①ご本人、ご家族が経管栄養を希望していたこと、②経口摂取も継続したいという意向があったことから、胃ろう造設し経管栄養を行いながら、ご本人が食べられる量を経口摂取することがAさんのQOLを保ち、ともすれば向上できるのではないかと考えました。また、③認知症がないこと、④比較的若かったことも後押しし、胃ろう造設へとつながりました。結果は前述のとおり、ご本人もご家族も満足できていると思います。

※ 大森政美 他 高齢者肺炎患者の簡易的な摂食嚥下機能評価法の検討
産業医科大学雑誌 41(3),283-294,2019

経管栄養法という選択肢をプラスに作用させよう

Aさんを含めた、入居中に経管栄養に移行した3人のご利用者は、それぞれAさんの時の検討のような経過で経管栄養に移行しています。
経管栄養のご利用者で何らかの形で経口摂取を行っている方は4人。毎日少量の食事を食べている方から行事の時に一口、という方までさまざまですが、ご本人の機能に合わせ対応しています。
特養に入職してすぐ出会った経管栄養のご利用者は、明らかにるい痩で拘縮が進み、意思疎通ができない状態でした。これを目にした時「今まで自分がやってきたことのゴールはこれなのだろうか」と愕然としたものです。
これを踏まえてQOLに配慮した視点から見れば、高齢者の経管栄養は歓迎できるものではないと思います。しかし、今回紹介したようなケースを数例経験し、QOLの向上のために必要な経管栄養もあるのだな、と感じました。

以前から、胃ろうを造って経管栄養を行いながら嚥下訓練を進めることは実施してきているので、今更な経験……という感想なのですが、病院ではなく特養でも同じような取り組みができることを経験し、新たな選択肢として期待しています。(『ヘルスケア・レストラン』2021年5月号)

横山奈津代
特別養護老人ホーム ブナの里
よこやま・なつよ
1999年、北里大学保健衛生専門学校臨床栄養科を卒業。その後、長野市民病院臨床栄養研修生として宮澤靖先生に師事。2000年、JA茨城厚生連茨城西南医療センター病院に入職。同院の栄養サポートチームの設立と同時にチームへ参画。管理栄養士免許取得。08年、JA茨城厚生連茨城西南医療センター病院を退職し、社会福祉法人妙心福祉会特別養護老人ホームブナの里開設準備室へ入職。09年、社会福祉法人妙心福祉会特別養護老人ホームブナの里へ入職し、現在に至る