栄養士が知っておくべき薬の知識
第117回
3大栄養素を含む新製品
抹消静脈用栄養剤「エネフリード®」について

今回は、末梢静脈栄養剤で脂肪が含有された「エネフリード®」についてすでに汎用されている「ビーフリード®」と比較しながら紹介します。

末梢静脈と中心静脈の違い

中心静脈栄養法とは、末梢静脈が集まった心臓に近い太い静脈に栄養を投与する方法です。1966年にダドリックというアメリカの医師が、輸液だけで子犬を成犬に育てたTPN(Total Parenteral Nutrition)という方法です。中心静脈栄養法は豊富な血液量によって高カロリー輸液も投与可能にしました。

高カロリー輸液のベースとして70%ブドウ糖輸液350mlが発売されています。この輸液の浸透圧比(生理食塩液に対する比)は約「15」です。わずか350mlで980kcalも投与することができます。浸透圧比とは、輸液中にどのくらい分子を含むかによって決まります。5%ブドウ糖液は生理食塩液との浸透圧比は約「1」です。血漿とほぼ同じ浸透圧で文字どおり「生理的」で、投与されても痛くない輸液です。10%ブドウ糖液になると、5%ブドウ糖液の2倍、ブドウ糖分子を含んでいるため浸透圧比は「2」になります。

中心静脈栄養に対して末梢静脈栄養は、腕などの細い血管に投与する方法です。このため末梢に留置されたカテーテルから濃い濃度(=浸透圧の高い)の輸液を投与すると血管内皮細胞が壊れて炎症を起こしてしまいます。末梢静脈で投与可能な浸透圧比は約「3」までとされ、1日に投与できる輸液量も2500ml程度です。つまり15%のブドウ糖の浸透圧比は「3」になりますが、これは100mlで15g(=60kcal)のブドウ糖を含んでいるので、それの25倍(2500ml)となり、糖質だけで1500kcalが投与できます。ただし、ブドウ糖以外にもアミノ酸や電解質、ビタミン、微量元素といった生体に必要な栄養素を投与するため、さらにたくさんの分子が必要になります。末梢静脈栄養で汎用されるビーフリード®は1l中にアミノ酸を30g、ブドウ糖を75g含みますが、このほかにも、1日に維持するために必要な電解質やビタミンB1、また最も早く欠乏する微量元素の亜鉛などの分子も含んでいて、生理食塩液との浸透圧比は約「3」です。
このビーフリード®を病院の薬局で調製するとなるととても煩雑で、またいくらクリーンベンチといった粉塵の少ない清潔な空間で調製しても細菌が「0=ゼロ」ではないため、完全に無菌で調製するのは難しい作業になります。したがって、これらのキット製剤は便利で安全な輸液といえます。

ビーフリード®とともに脂肪乳剤を投与することも可能です。脂肪乳剤については以前本稿でも取り上げましたが、20%イントラリポス100mlの投与で約200kcalが得られます。ただし、脂肪が代謝するためにはリポプロテインリパーゼが必要で、点滴速度が速いとその供給が間に合わないことから0.1g/kg/時間以上の投与時間が必要です。体重50kgの方に20%脂肪乳剤を投与するのに約4時間が必要というわけです。また脂肪乳剤の粒子径は大きいことから、細菌やガラス片などといった異物除去に使用されるフィルターを通過しません。よって脂肪乳剤はフィルターの患者側から投与する必要があります。

エネフリード®の特徴

新しく末梢静脈栄養用として開発されたエネフリード®の特徴は、脂肪を含んでいることと水溶性ビタミンがすべて含まれている点です。脂肪を含んだことで、ビーフリード®では1lで420kcalしか供給できませんでしたが、エネフリード®は1100mlで620kcalの投与が可能です。エネフリード®の脂肪量は1100mlで20gとなっています。アミノ酸の量は、ビーフリード®1lとエネフリード1100mlで30gとほぼ同じ量です。一方NPC/N比は、ビーフリード®が64なのに対して、エネフリード®は105になっており、投与したアミノ酸がタンパク合成にまわる可能性が増したといえます。そのほかの電解質量はビーフリード®と同様です。

食事をとっていて無脂肪であることは考えられませんが、無脂肪を続けると必須脂肪酸欠乏や脂肪が組織に運ばれないために脂肪肝も生じます。また糖質に加えて脂肪が投与されることによって血糖値の上昇が抑えられ、これによってインスリン分泌も抑制されるため内因性の脂肪を燃焼させることなく、投与された脂肪が燃焼し、窒素平衡も改善するため、3大栄養素をバランスよく配合することは重要です。

ビーフリード®に脂肪乳剤が併用されることがほとんどないのは、別途処方が必要なことや管理の煩雑性から使用されていないためというのが現状かと思います。それを改善したのがエネフリード®です。またエネフリード®の特徴は、ビタミンB1量が豊富な点です。ビタミンB1が不足すると糖質が代謝されず乳酸アシドーシスとなって、重篤な転帰を辿る心配もあります。
実際、高度栄養障害者やアルコール中毒、胃・肝臓疾患では潜在的にビタミンB1が不足する方も多く、ビーフリード®にもビタミンが含まれていました。

ただし、エネフリード®のビタミンB1量はそれの約2倍含まれています。これは2000年にアメリカのFDAの勧告に従ったもので、より安全な量を含有しています。ビタミン不足はB1に限らず、ビタミンB2やB6が不足している場合もあります。これらのビタミンは、エネルギーを産生するTCA回路に必要なビタミンで、不足していると十分なエネルギー産生ができない可能性もあるため、エネフリード®に水溶性ビタミンがすべて含まれたことは、より適切な静脈栄養組成になったと考えられます。ただし、ビタミンB2は光に弱く分解が進むことから、遮光カバーをつけることが推奨されます。

エネフリード®投与時の注意点

一般に脂肪乳剤は細菌が繁殖しやすいため、汚染が起こりやすいと考えられます。刺入部や輸液ラインに接合部があれば、それらは常に清潔に保つ必要があり、輸液ラインも24時間ごとに交換します。輸液のほとんどが無色透明ですが、脂肪乳剤は白色なため、輸液内に何かの異物が入っても目視で確認できません。このためほかの薬は混ぜられません。これは、たとえば電解質のリンとカルシウムを混合するとリン酸カルシウムとなって沈殿しますが、市販の末梢静脈栄養剤は輸液のpHを調整することで沈殿が生じないような工夫が凝らされています。
沈殿物は血管に炎症を起こしたり、細い血管では塞栓を生じたりする可能性もあります。ほかの薬が混ざることでpHの変動が起こり、沈殿が生じる可能性があるためほかの薬は混合できません。

今回、ご紹介したエネフリード®は3大栄養素を含むといっても1日に最大量を投与しても1240kcalにしかなりません。これでは長期間の栄養管理はできず、末梢静脈栄養での管理期間が2週間というのは変わりません。
注意するべき点は、末梢静脈栄養は2週間までは可能、ということではないことです。末梢静脈栄養での管理中は、もともと不足している栄養管理を行っているという意識が大切だと思います。

末梢静脈栄養で管理している患者さんの栄養状態が悪化したら、中心静脈栄養に切り替えることや、食事や経腸栄養剤の量を増やせないかと考えるべきです。栄養状態が悪化するともとに戻すことが難しいのはよく経験します。うまく使えばいい製剤ですが、末梢静脈栄養で管理されている患者さんでは、管理栄養士さんによる日常の栄養アセスメントが最も重要だと思います。(『ヘルスケア・レストラン』2021年5月号)

林 宏行(日本大学薬学部薬物治療学研究室教授)
はやし・ひろゆき●1985年、日本大学理工学部薬学科卒業。88年、聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院勤務。2002年から同院NST事務局を務める。11年4月から日本大学薬学部薬物治療学研究室教授