栄養指導で”あるある!こんなこと”
第94回
コロナ禍の影響は血糖値にも!?
日課の恩恵を検査数値の変動で実感する

今回ご紹介するJさんは60代後半の女性で、クリニックには長く通院されています。昨年から急に血糖値と体重が変動したため、原因と対策を探っていました。

日課がなくなったことで安定していた数値が変動

Jさんが私の栄養指導を受けるようになってから4年ほど経ちます。当初、血糖値160~180mg/dl、HbA1cは8%台と高値でしたが、食事療法と運動、軽めの服薬で最近はHbA1c6%後半で落ち着いていました。
栄養指導も終了してもよい状況ですが、患者ご本人が気が緩んでしまうのが心配と、月1回の栄養指導を定期的に受けてくださっていました。ところが最近……。

田村:Jさん、おはようございます。体重測定からどうぞ

Jさん:はい。ちょっと太ったかな~

田村:そんな気がしますか?

Jさん:2、3日に1回は家でも体重を計ってるけど、なんか最近……

田村:あら、確かに……先月より1.5kg増えてますね

Jさん:やっぱり

田村:何か思い当たりますか?

Jさん:最近、テレビを見ながらの間食が増えてるかな~

田村:そうですか。そしたら原因がはっきりしているので、少し気を付けてみましょうか

Jさん:そうね~。体重が増えて、また膝が痛くなっても困るし

田村:ですね。ところで血糖の数値ですが先月はHbA1c6.7%、今月は6.8%でした。体重が増えた分……来月も注意してみていきましょうね

夏前ぐらいにはこんな会話をしながら、いつもどおり食事の様子などを聞き、栄養指導をしていました。それから3ヵ月が過ぎた頃。

田村:おはようございます。体重はどうでしょうね?

Jさん:何だか一向に減らなくて……それよりだんだん増えてきていて

田村:本当ですね。ここのところ3kgほど増えてますね

Jさん:血糖値はどうでしたか?

田村:今月もちょっと上がって、HbA1cが7.5%でした。ちょっと上がってきている状況が続いてますね

Jさん:間食はあまりしないように気を付けているし、食事もそんなには変わってないんですが

田村:お話をうかがっていると、食事は野菜もちゃんととれているし、基本の部分はできていますからね

Jさん:あとは、何が原因なんでしょう?

田村:そうですね……あれ?運動はどうでしたっけ?散歩は続けてますか?

Jさん:朝に30分程度、外を歩くのも変わらずやってます。雨の日なんかは休みますが

田村:だとすると運動量も変わらないですよね?

Jさん:あっ!

田村:何か変わった点がありますか?

Jさん:実は最近、コロナが怖くて……

田村:そうですね、ちょっと今は怖いですよね

Jさん:私は高齢だし、糖尿病があるから、万が一かかってしまったらって考えると……散歩は外だからしてますが、買い物はなるべく行かないようにしてます

田村:なるほど、買い物……以前はどんな感じでしたか?

Jさん:実は運動や頭の体操も兼ねて、わざと毎日行くようにしてたんです。自宅からスーパーまで歩いて10分ほどなんで、歩いて行って中をなるべくグルグル見て歩いて、必要な分だけ買って帰ってくる……運動も兼ねて日課にしてました

田村:それは素晴らしい。すごいですね。じゃあそのお買い物でも30~40分とか歩いてますよね

Jさん:だいたい1時間くらいは

田村:そうでしたか~、それが今はどんな感じですか?

Jさん:今は週1回まとめて買ってくるか、娘が買って来てくれたりするので

田村:だとすると日課だった部分がぐっと減ってますね

Jさん:はい

田村:それは大きいですね~

Jさん:でもコロナも怖いし

田村:そうですね。お買い物はいつもどの時間帯に行ってたんですか?

Jさん:お昼食べて、少し休んでからです

田村:そしたら、その時間に散歩を少しするとか?買い物に行ったと思って20~30分程度ですが

Jさん:そうですね、テレビを見ていると間食もしちゃうし

田村:膝の痛みは大丈夫ですか?

Jさん:今のところは落ち着いています

田村:そしたら買い物に行ったつもりで、少しやってみましょうか。人混みじゃなければコロナも大丈夫ですから

Jさん:やってみます

これから必要なのはコロナ禍に応じた改善策

この後、Jさんの血糖値は3カ月ほどでHbA1c6%台まで改善しました。

田村:よかったですね。散歩の運動量は以前から聞いていましたが、お買い物でも日々運動としてこんな風にやっていらっしゃったことには気が付かず

Jさん:いや~、私もそこまで話してなくて。考えたら散歩より午後の買い物の運動時間のほうがちょっと長くて、結構な運動になっていたことを改めて感じました

田村:でもお買い物を運動として日課にって、素晴らしいアイデアですね

Jさん:また安心して買い物に行けるようになってほしいです

田村:そしたらまた再開してくださいね

Jさん:はい。スーパーは雨の日でも中は大丈夫なので。雨の日は車で行って、その分、中を余計に歩くようにもしていたんです。いろいろ商品を見て歩くと発見もあって、頭の体操にもなるし

田村:とてもよいアイデアですね。今の状況が早く収まって、またできるようになるといいですね

実はクリニックに来られる患者さんの多くは高齢者です。まして基礎疾患を皆さんおもちで、Jさんに限らず、今回の新型コロナウイルス感染症(COVID-1)に関して、このように恐怖感を訴える患者さんはとても多いです。
そしてJさんのような高齢の方の場合、買い物などの外出を控えて家にじっと閉じこもっているケースはとても多くなっています。
当然ですが、活動量が減ることで今回のように血糖値などに影響が出たりしています。通っていたジムなどの運動施設が自粛休業したことで、運動する機会が減ってしまい、筋力などが低下する懸念も多々あります。また、テイクアウトなどの「中食」が増え、体重が増加傾向の患者さんも見受けられます。

「新しい生活様式」を感染症対策の観点からしっかり取り入れ、慣れていかなければいけない状況は必要ですが、「新しい生活様式」によって受けるダメージがあることを、Jさんを通して学びました。(『ヘルスケア・レストラン』2021年5月号)

田村佳奈美
福島学院大学短期大学部
食物栄養学科講師
かとう内科クリニック 非常勤 管理栄養士

たむら・かなみ●療養病院、急性期病院での勤務を経て、2011年8月からフリーランスの管理栄養士として活躍中。福島県いわき市内のクリニックでの栄養指導や全国各地での講演活動、自宅で暮らす高齢者の栄養サポートにも力を入れている

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