“その人らしさ”を支える特養でのケア
第40回
サプリメント導入を足掛かりに
便秘対策への介入が実現
今回は、便秘対策のお話です。当施設ではこれまで、便秘対策に管理栄養士のかかわりがなかったのですが、多職種での雑談をきっかけに、管理栄養士の出番のチャンスが巡ってきたのです。
「便秘に効くようなサプリメントってないの?」
令和3年度がスタートしますね。今回の介護報酬改定で、介護保険の施設系サービスにおいて栄養マネジメント加算が未実施減算に変更されます。当施設の現状では管理栄養士の人員が増える予定はなく、栄養マネジメント強化加算の算定は難しそうです。「管理栄養士の稼ぎが減ってしまう……」と思う一方で、栄養ケアは「やって当たり前」の時代になったのだなぁ、と感慨深いものがありました。今後も介護福祉施設に欠かせない職種の1つとして認めてもらえるよう頑張らなくては、と決意を新たにしています。
さて、今回は便秘対策の話。2018年6月号で当施設の便秘対策について紹介しました。その後は下剤や看護師の処置などで対応することが通常となり、便秘対策に管理栄養士が加わらないまま経過していました。もちろん、便秘の方が減った、というわけではありませんが、ある程度の排便コントロールはできていたように思います。
ある日、休憩時間に医務室を訪ねると「ちょっとつまんでいきな~」と出てきたのはルバーブのコンポート。大喜びでもぐもぐしていると、看護師が「ルバーブって便秘にいいっていうよね!?」と話し出しました。産地も近いし、施設内の食事で取り入れられたらいいね!と盛り上がりました※。
どうやら最近の医務室では、下剤の使用が多いことが話題になっており、また嘱託医からも懸案事項として挙がっている、とのこと。結局、さまざまな問題からルバーブは導入できなかったのですが「なんかいいサプリメントみたいなの、ないの?」と便秘対策のお鉢が回ってきたのです。
(参考)
オールガイド食品成分表2017、実教出版(2016年)
旬の食材百科(https://foodslink.jp/syokuzaihyakka/syun/vegitable/Rhubarb.htm)
グアーガム分解物を試してみることに
さて、18年5月号の本誌にてグアーガム分解物(以下、PHGG)を用いた排便コントロールについて特集されていました。その時から心の片隅に「気になるアイテム」としてPHGGがあった私は、「これはチャンス!」と資料を揃えて看護師に情報提供しました。便秘に悩む職員も情報を聞きつけて「私が試す!」と個人的に購入。施設内での使用の機運が一気に高まりました。
話題になるだろうから、と看護師に準備を依頼され臨んだ定期回診で、案の定、下剤の使用について話題になりました。発端はAさんの排便コントロール。重度の認知症であるAさんは、何とか食事の自力摂取ができていますが食事量にムラがあります。また、食事介助に拒否があるため、その日のご様子によってはまったく食事をとらないこともある方でした。排便は週に1~2回程度で、坐剤タイプの下剤を使っていましたが、下剤を使用している日は落ち着きがなく、介護拒否につながってしまうことも問題となっていました。
PHGGについては医師から「試しに使ってみよう」とあっさり許可が下りました。また、Aさんの生活習慣を振り返った時に「ずっといすに座っている」ことに気が付いたケアマネジャーが、活動量も少ないことを指摘しました。Aさんが自由に動いても危険がないように居室の環境整備を行うこと、食生活の対応としてPHGGの使用に加えて水分摂取量の増量、医療的には使用する下剤を変更することが決まり、取り組みが始まりました。
提供を始めて一カ月後 排便回数が改善!
使用するサプリメントは、PHGGとイヌリンが配合されている物を選びました。商品が複数あるなかで選びきれず、メーカーの担当者さんに問い合わせたところ、「イヌリンが含まれていると腸管の蠕動運動を促進する」と情報提供があり、高齢者向きだと感じたためです。PHGGを含むサプリメントの追加は1日5g。Aさんは摂取量のムラもあるため5gを2~3回に分けて、ヨーグルトなどAさんが好んで食べられる物に混ぜて提供しています。「効果を実感するために時間がかかること、あくまでも補助であること」をスタッフ皆で情報共有し、焦らず提供を続けました。
対応を開始して1ヵ月ほどで「Aさん、内服の下剤だけで便が出てるんだよ~」と他職種からうれしい報告が!Aさんの生活にもPHGGのサプリメントが欠かせないアイテムとなっています。
現在もAさんへの対応は継続しています。PHGG追加前は4~5日に1回だった排便が、現在はほぼ毎日へ改善しています。ただ、便がチビチビと出るようになってしまっているのが気になるところ。もしかして下剤を減らせるんじゃ!と考えていて、話題にするきっかけを見定めているところです。
今回、この記事を書くにあたって、ヘルスケア・レストランのバックナンバー(18年6月号、19年8月号)を見直しました。
サプリメントのメーカーさんに聞いた、PHGGをはじめとする水溶性食物繊維の効果について全部書いてあり、自分の勉強不足を反省。さらに他施設での取り組みを拝見し「こんな風にできたらいいな」と思いを馳せています。まずは施設内での成功事例で根拠づくり、そして、来年度は自己研鑽の時間もつくって頑張るぞ!やりたいことが山積みの年度初めです。(『ヘルスケア・レストラン』2021年4月号)
特別養護老人ホーム ブナの里
よこやま・なつよ
1999年、北里大学保健衛生専門学校臨床栄養科を卒業。その後、長野市民病院臨床栄養研修生として宮澤靖先生に師事。2000年、JA茨城厚生連茨城西南医療センター病院に入職。同院の栄養サポートチームの設立と同時にチームへ参画。管理栄養士免許取得。08年、JA茨城厚生連茨城西南医療センター病院を退職し、社会福祉法人妙心福祉会特別養護老人ホームブナの里開設準備室へ入職。09年、社会福祉法人妙心福祉会特別養護老人ホームブナの里へ入職し、現在に至る