栄養指導で”あるある!こんなこと”
第92回
血糖改善とともにうつも徐々に改善
前向きな生活が戻った!

今回は「何もする気が起こらない」という、うつに苦しんだ糖尿病患者さんの事例です。決して無理強いせず、できることから始めたことで好循環な結果につながりました。

毎日、家にいるだけ何もする気が起こらない

Hさんは、今回初めて行政の健康診断で高血糖を指摘され、友人の紹介で当クリニックを受診されました。初診時は身長154cm、体重は63kg、BMIは26.6kg/㎡でした。そして、受診時の血糖値は135mg/dl、HbA1cは7.5%でした。

田村:おはようございます。はじめまして、管理栄養士の田村と申します

Hさん:あ、どうも。よろしくお願いします

田村:Hさんは今回、健康診断で血糖値が高いと言われたんですね

Hさん:そうなんです。私、今何もやりたくなくて、家族のご飯の準備はしないといけないのでやりますが、あとはずっと横になってるんで……

田村:そうですか。体調がちょっと優れないですか?

Hさん:あまりつらいんで仕事も辞めちゃって……

田村:そうなんですね。今はじっくり体調を整える時期なのかもしれないですね

Hさん:管理栄養士さん、血糖値の結果、高かったですか?

田村:そうですね、でもこちらのクリニックだとまだまだ高い方もいらっしゃいますし、Hさんの数値でしたら、お食事や運動である程度下がると思いますよ。先生からお薬など処方されましたか?

Hさん:いいえ。まずは管理栄養士さんと話して、少し食事で頑張ってみなさいって。その結果でお薬は考えましょうと言われました

田村:そうですね。まずはやれそうなところからやってみましょう

Hさん:私にやれるかしら? とにかく何もしたくないんです。自分でもどうしようもなく、寝てばかりいるんです。毎日ゴロゴロ……

田村:そうですか。今日は簡単な食事の基本だけお話しします。普段のお食事でちょっと気を付けるポイントだけお伝えしますので、やれるところからやってみましょう。その前に食事の習慣について少し質問させていただいてもいいですか?

Hさん:はい。わかりました

こんな感じで、初診時最初から患者さんには何もできないとの訴えがあり、なかなか食習慣の質問まで進めませんでした。大切なのは患者さんの訴えはしっかり聞いて受け入れること。話したいことがあれば話してもらうのも大切なコミュニケーションの1歩になります。食習慣の聞き取りを進めると、朝夕は家族と食事をするためそこそこバランスよく食べていましたが、昼食はお一人なので食べないで寝ている日や簡単にパンや麺、菓子類で済ませることが多いようでした。

田村:Hさん、まずお昼ですが、食べないのはよくないので何か食べるようにしましょう。ただ、お菓子や菓子パではなく、ヨーグルトやバナナ、りんごなどはどうですか?

Hさん:りんごは皮をむかないといけないので……本当に何もしたくないんです。朝と夜の食事の準備がやっとで……

田村:そうでしたね。では、ヨーグルトやバナナ、みかんはいかがですか?

Hさん:それなら大丈夫です

田村:よかった。それともう2点だけ、基本的な食べ方を守ってほしいのです。1点目は、ご飯は決められた量、茶碗に軽く1杯に決めてください。食パンなら6枚切り1枚。2点目は野菜や海藻きのこなど食物繊維の多い食品を先に食べるようにしてください

Hさん:野菜から食べるって、テレビでもやっていますね。それならできそうです

田村:では、この3点を守っていただき、様子をみていきましょう

数値の改善から気持ちが前向きに

初回は患者さんの状況確認、食習慣の調査、そして今回のように精神的な部分もわかれば指導に活かしやすいと思います。患者さんによっては心療内科に通院しながら栄養指導を受けるという方も意外と多くいらっしゃいます。患者さんから話してくださる方、または話していく感じや仕事の状況から伝わることもあります。今回の患者さんはうつ状態でやる気が出ないと初回に訴えてくださったので、食事の対応もごくごく簡単な内容でまずは1つか2つ実践してもらうことから始めました。そして月1回の栄養指導を続け、3カ月が経ちました。

田村:こんにちは。まずは体重からお願いします

Hさん:はい……

田村:体重は、横ばいですね

Hさん:減ってないですか?

田村:そうですね。でも血糖値は下がってきましたよ。血糖が135→129→109mgで、HbA1cが7.5→7.4→7.0%です。今回はぐっと下がりました

Hさん:よかった

田村:どうですか、食事のほうは?

Hさん:特に何もやってなくて、管理栄養士さんの言うことだけやっています

田村:野菜から食べるとか、ご負担じゃないですか?

Hさん:それは大丈夫です。このくらいならやれます。特に何もやってないのに下がっていいんでしょうか?

田村:それが一番いいんです。つらかったら続かないですし、普通にやれてそれで数値が下がるのが一番なんです

Hさん:ところで体重が全然減らないんですが……

田村:最近増えていた体重が横ばいになったのはいいことなんです。多分、今の活動量と食事の量が釣り合っているんですね

Hさん:増えた分だけでも落ちたらいいのですが……

田村:そうですね。Hさん、運動は?

Hさん:運動……やったほうがいいですか?

田村:そうですね。たとえば5分行って5分戻ってくる散歩でも10分歩いたことになります。そんな感じから始めてみてはどうでしょう?

Hさん:実は皆さんがよく行ってるジムに1回30分だけやってくるっていう気になっているんですが……

田村:確かに皆さん行かれてる方が多いですね。すごくいいと思いますよ

Hさん:少し考えてみます

田村:でもすごいですね。やってみたいことが出てきたのは

Hさん:せっかく食事で数値がよくなってきたし、体重もちゃんと戻したいなって思って

田村:それは素晴らしい。無理はせず、考えてよかったら始めてみてください

Hさん:わかりました

そして2ヵ月後、Hさんはスポーツジムに入会しました。その1ヵ月後、血糖値は100mg/dl前後、HbA1cは6%台、そしてなかなか減らなかった体重が1.5kgほど落ちてきました。さらに「管理栄養士さん、最近、動くのが億劫でなくなってきて、家事なんかもすっと身体が動くようになってきたんです。主人にもいろいろやるようになったなって言われました」なんて言葉が出てきました。

今回のHさんは、食時療法がきっかけでまだまだやれる!やったら数値がよくなった、また新たなこともやってみよう!と、どんどんよい方向に好転していった例です。患者さんはどなたも病気のことで悩んでいらっしゃいます。できることからまず始めて自信をもってもらうことも重要です。食事は楽しみでもあるので、決して苦痛にならないようにこれからも指導していきたいと思っています。(『ヘルスケア・レストラン』2021年3月号)

田村佳奈美
福島学院大学短期大学部
食物栄養学科講師
かとう内科クリニック 非常勤 管理栄養士

たむら・かなみ●療養病院、急性期病院での勤務を経て、2011年8月からフリーランスの管理栄養士として活躍中。福島県いわき市内のクリニックでの栄養指導や全国各地での講演活動、自宅で暮らす高齢者の栄養サポートにも力を入れている