栄養士が知っておくべき薬の知識
第115回
年々、増加傾向にある胃食道逆流症

胃食道逆流はさまざまな原因で起こりますが、治療として真っ先に考えられるのは胃酸を抑える薬物治療です。また、高脂肪分の食事を避けるなどの工夫が必要となります。

胃食道逆流の症状

今回は、胸やけなどの症状から食欲不振の原因になる胃食道逆流症に使用される薬をご紹介します。胃食道逆流症とは、文字どおり、胃酸が食道に逆流してしまう疾患です。特に、食道に炎症を起こす場合は逆流性食道炎と呼ばれ、食事の欧米化などに伴って、年々このような症状を訴える患者さんは増加傾向にあります。胃食道逆流の症状はさまざまですが、胸が焼けつくような感じとか、酸っぱいものが上がってくる感じを訴えます。
また、食道外症状といった心臓に原因のない胸痛や、咳や喘息様症状などを訴える咽喉頭逆流を起こす方もいます。食べ物がつかえるような感じがある、食事後に胸が痛い感じがあるなどの症状から、不眠になったり、食欲不振になったりして体重減少を来すこともあります。

胃食道逆流の原因

胃食道逆流はさまざまな原因で起こります。その1つが食道裂孔ヘルニアです。腰が曲がった高齢者や肥満の中高年者に起こりやすく、胃が食道側に飛び出してきてしまう状態です。加齢によって筋肉が弱くなったり、肥満で腹圧が上昇したりすることも原因です。健常者でも若干の胃酸が食道で確認されますが、食道裂孔ヘルニア患者では、食道に逆流して滞留時間の長くなった胃酸が病状をさらに悪化させる原因になります。

また、腹部の膨満によって胃内圧が上昇することも胃食道逆流の原因になります。薬では胃の蠕動自体を抑えてしまう抗コリン作用をもつ薬が原因になります。医師や薬剤師と相談してこのような成分を含む薬を服用していないかを確認し、できれば他薬への変更を考えます。

このほか、薬そのものが食道炎を起こす場合もあります。アスピリンやロキソプロフェンといった解熱鎮痛剤や骨粗しょう症治療薬のビスフォスフォネート製剤、抗菌薬のテトラサイクリン系抗凝固薬のダビガトランなどは、薬理作用や薬品自体が酸性であることから食道に炎症を起こす可能性があるため胃食道逆流症の原因になります。大量の水で服用して、食道に薬が留まらないように服薬指導を行います。

一方、食道では胃内容物が逆流しないように筋肉で食道下部が締め付けられていますが、これが緩むことで胃食道逆流が起こります。加齢でこの筋肉が減少することや、高血圧治療薬のカルシウム拮抗薬や狭心症治療薬の硝酸薬などの薬がこの筋肉を弛緩させる原因になることが知られています。

さらに、高齢者に多いヘリコバクターピロリ菌の感染と胃食道逆流症には逆相関があるといわれています。ヘリコバクターピロリ菌の感染者では、胃粘膜の萎縮を起こして胃酸分泌をしづらくなりやすく、若年者ではヘリコバクターピロリ菌に感染していない人が増えていることから、ヘリコバクターピロリ菌の非感染例での胃食道逆流症の増加も考えられています。

胃食道逆流の薬物治療

真っ先に考えられるのが胃酸を抑えてしまう薬物治療です。胃酸を抑える薬では、ガスター®(ファモチジン)などのH2拮抗剤と呼ばれる薬があります。ただし、H2拮抗剤は速効性は期待できますが、胃食道逆流に対する効果は限定的です。
これよりもさらに胃酸分泌抑制作用の強い薬がプロトンポンプ阻害薬(PPI)です。オメプラゾンやタケプロン®(ランソプラゾール)、パリエット®(ラベプラゾール)、ネキシウム®などがあります。このなかで最も胃酸分泌抑制作用の強いのはネキシウムですが、薬の代謝能力は患者ごとに異なるため、オメプラゾンが最も効果があるという場合も少なくありません。
また、2015年に発売されたタケキャブ®(ボノプラザン)は、PPIよりもさらに速く強力に胃酸分泌を抑える作用をもつとされます。

PPIの効果(酸分泌抑制)は2~3時間後に最も得られることから、食後に胃食道の逆流症状がある方は、食前に服用することで効果が得られる場合もあります。また、夕食後などに症状がある方では夕食前の服用も有効かと思います。PPIの保険適応上の使い方は1日1回の投与ですが、一日中、胃酸分泌を抑えているわけではないため、場合によっては薬を増量したり、1日2回の投与が必要になったりする患者さんもいるかもしれません。これは主治医との相談が必要になります。

ただし、これらの胃酸分泌抑制剤を使っても食道逆流の症状が完全に治まらない方もいます。その場合、胃の蠕動を亢進して逆流をく薬物治療法が考えられ、漢方薬の六君子湯やガスモチン®(モサプリド)などが使われます。経腸栄養剤の使用時に、逆流する場合は、プリンペラン®(メトクロブラミド)やエリスロマイシンの使用も考えられます。

これ以外では、海藻を原料とした緑色の液体のアルギン酸(アルロイドG)なども、食道粘膜保護を目的に使われます。これらの薬物治療を行っても十分な効果が得られない場合は、さらに検査を行って外科治療も選択肢に入れていきます。

経腸栄養剤の逆流について

経腸栄養剤は液体であるため胃食道逆流を起こしやすく、嘔吐したり、誤嚥性肺炎を起こしたりすることに注意が必要です。誤嚥性肺炎となると致命的になりかねません。

経腸栄養剤による胃食道逆流を予防するには、前回投与した経腸栄養剤がまだ残っていないか、胃内容物の確認を行う必要があります。口腔内を吸引して前回投与した経腸栄養剤が残っていないか確認したり、経腸栄養剤そのものの匂いを確認したりして、経腸栄養剤の残存を調べます。ガスが溜まっているようであれば胃内の減圧を行います。経腸栄養剤を投与する際の体位も重要です。投与中や投与後はできるだけ仰臥位ではなく、半座位(30度程度のギャッジアップ)や座位で投与できないか検討します。逆流を起こさないために経腸栄養剤の投与速度を落とし、水分を追加する場合は、胃に投与された水分は約15分溜まることから、経腸栄養剤の投与前に入れて腹部が膨満しないようにします。

投与する経腸栄養剤を選択する際は、脂肪分が多いと下部食道括約筋が弛緩して逆流を起こしやすく、胃に停滞する時間も長くなることから、脂肪分の少ないものを選ぶことや、1.5kcal/mlなど高濃度の栄養剤を選択することも考えます。液状の経腸栄養剤より半固形状の経腸栄養剤を使うことも効果的だと思います。逆流が多い場合は、経腸栄養剤を流すチューブの先端位置を、胃より先の十二指腸に留置する方法も取られます。

おわりに

胃食道逆流症患者を管理するうえでは、管理栄養士さんによる栄養指導がとても大切です。高脂肪分の食事は胃から排出する時間が延長することから、できるだけ避けるような食生活が望まれます。その分、必要な熱量を落とさないような栄養管理も必要になります。

また、食べ過ぎに加えて早く食べると、その分空気を嚥下して胃が伸展してしまうことから、食後は横にならない、就寝時は頭を少し高くして寝るなど、体位の工夫が必要です。腹部膨満感を起こす肥満や便秘を避け、おなかを締め過ぎない衣服をつけるなどの注意も必要になります。(『ヘルスケア・レストラン』2021年3月号)

林 宏行(日本大学薬学部薬物治療学研究室教授)
はやし・ひろゆき●1985年、日本大学理工学部薬学科卒業。88年、聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院勤務。2002年から同院NST事務局を務める。11年4月から日本大学薬学部薬物治療学研究室教授