食べることの希望をつなごう
第36回
口の中を見ることで体重減少の原因も見えてくる

歯科単科の病院に勤めていると、歯科と栄養の関連性の強さを日頃から実感します。少し口の中に違和感があるくらいでは歯科を受診するには至らず、病気が進行してしまう、という患者さんなどを経験するにつけ、歯科と栄養の連携の意味は大きいとの思いを強くしています。

放ってしまいがちな口の中の違和感

先日入院したAさんは、入院時ほとんど食事ができていませんでした。お腹は空くけれど痛みが強くて食べられなかったそうです。1日1食がやっとのこと、食形態は液体から濃いとろみ程度、自己申告によると1ヵ月で21%、健常時から25%もの体重減少をしており、BMIも16.7kg/㎡とやせていました。

舌がんの手術のための入院ですが、食べられないことからもわかるように、腫瘍はかなり大きく、手術による切除範囲も広範囲となりました。切除した範囲によっては、皮弁による再建が行われます。
頭頸部癌診療ガイドラインには、再建手術は、舌(亜)全摘出症例では、遊離腹直筋皮弁のような容積のある再建材料を選択する、とありますが、これは口腔内の空間をできるだけ少なくすることが目的です。再建した舌の動きはどうしても悪くなります。そのため、舌を動かさなくても口蓋に舌が接するように再建することで、口腔期の機能を補います。Aさんはとてもやせていたため、皮弁の脂肪も薄く、再建が大変だったと聞きました。何となく違和感はあったものの、そのまま過ごしてしまい、本格的に痛みが出て受診し、病気がわかった時にはかなりの体重減少を来していた、というAさんのようなケースでなくとも、意外に食べられていない方は多いと思います。

当院の入院患者さんは、そもそも治療のために入院が必要な方で、通常の歯科治療とは異なる状況ではあるのですが、義歯が合わないから、歯がないから、痛いから、食べづらいから、と、さまざまな理由で、食事に何らかの工夫をされている方が多いです。しかし、なかには「(食べにくいけれど形を変えれば)食べられている」、「(飲物のような形で)栄養はとれている」「(体重は減っているけれど)日常生活に支障は来していない」と、あまり気にされていない方もいらっしゃいます。

術前に口腔ケアを行う歯科衛生士からも「あまりお掃除ができていなさそうだった」、「残根歯(歯の根っこだけ残っている状態)が多い」など、ケアが不十分な状況を聞くことがあります。管理栄養士であれば、食事の形に何らかの工夫が必要、体重減少がある、口腔内の衛生状態がよくない、と聞くと、栄養状態に問題があるのでは?と少なからず栄養介入の必要性を感じるのではないでしょうか。

「EAT-10」や「MNA®」では、体重減少の有無が、「摂食・嚥下障害質問紙1)」では、硬い物が食べにくくなった、口から食べ物がこぼれる、口の中に食べ物が残る、など、咀酔や食べ方などに関する質問事項があります。体重減少や低栄養の原因はさまざまですが、体重減少や食形態の制限など、歯科の目線から発見できる低栄養のリスクがあると日々感じています。特に、手術や治療を控えている場合には、術前の体重減少は望ましくありません。

1)大熊るり、藤島一郎、小島千枝子ほか:スクリーニングのための質問紙の開発. 日摂食嚥下リハ会誌6(1):3-8(2002)

口の中を観察すれば百聞は一見に如かず

熱が1週間続いた、腹痛が続いて10日間お粥しか食べられず体重が減ってきている、という状況では、おそらく病院に行くでしょう。しかし、何となく口の中に違和感がある、歯や舌が痛くて食事の量と体重が減ってきた、という状況では歯科を受診しない方は、一定数いらっしゃいます。なかには「どうやって噛んでいるんだろう」「おいしいと味わうことができるんだろうか?」とびっくりしてしまうような方もいらっしゃいます。

もし、食べづらい、食事の形態を調整している、という患者さんが入院された場合、何が原因で食べにくくなっているのかを、口の中を観察してきちんと把握することで、適切な食形態の調整につながり、不必要な調整が不要にもなります。提供した食事の形態がしっかり食べられているか、食事のタイミングでうかがうと、いろいろな訴えを確認でき、まさに百聞は一見に如かず、という案配です。「ちょっと喉に引っかかる感じがするんだよね」、「飲み込むのに力がいる」など訴えられる方は大変ありがたく、「大丈夫、大丈夫」と言っているそばから派手にむせる、明らかに声がゴロゴロしている、という場面に遭遇することも多々あります。

また、下膳の時間になってもまだ食べている方や、食後すぐに完全に横になって眠っている方など、「あれ?」と思う場面に遭遇することも少なくありません。咀嚼嚥下機能に応じた食形態を踏まえ、十分な栄養摂取ができるようサポートすることに加えて、口の中をみて、「あれ?」と思うことがあれば、歯科につなげ、しっかり食べられるような手助けができれば、全身状態の改善につながる思います。

歯科と栄養の連携をもっと広く身近に

当院では、外来からの依頼も増え、特に体重減少や食形態の変化があった患者さんについて、大分気軽にご相談いただけるようになったという実感があります。手術が決まっているけれど、痛くてお粥も食べるのが難しいという患者さん、痛いのは当たって痛いのか、浸みて痛いのか、動かすと痛いのか、そもそも痛い場所はどこなのか、それぞれ対応が違ってきます。

以前は外来で完結しており、栄養剤が処方されていたり、いなかったり、何とか入院日を待つ、ということも多くありました。今は、「食事の相談に乗ってもらっていいか」と、歯科医師・看護師から依頼をいただくことが増え、無事に入院し治療を完遂できるよう、外来時から対応しています。
病棟では、抜歯や嚢胞の術後といった、「特別な配慮は必要ないけれども食べづらい」という患者さんにも、ご本人の希望や担当医の指示があれば栄養相談を行っています。なかには、「仕事の休み時間が短いので、毎日カップラーメンで済ませている」とか、「朝はコーヒーだけ」とか、かなり偏った食習慣の方もいらっしゃいますが、栄養相談をきっかけに、「知らなかった」、「少し気をつけてみる」というように、変化につながることがあります。

食事の情報は得ようと思えばたくさん手に入りますが、無関心な方には届きません。たとえば、虫歯治療や矯正など、理由はどうあれ、歯科治療をきっかけに、体重チェックやちょっとした食事内容のアドバイスができると、ゆくゆくは生活習慣病の予防やフレイル・サルコペニアの予防にもつながるかもしれません。

歯科医療従事者からの、「何か変だな」を受けられる連携も必要だと感じます。よく聞かれるのが、「管理栄養士さんってどこにいるんですか?」という質問です。当院では、ほかの病院や歯科医院に外動に出られる歯科医師の先生方も多く、そこで出会った患者さんが食事のことで困っているんだけど、という相談を受けることがあります。在宅訪問を行う管理栄養士を探しているというお話も聞くので、日本栄養士会や日本在宅栄養管理学会のホームページを紹介しています。

歯科と栄養の連携はいろいろなところで取り上げられていますが、病院だけでなく、もっと身近な、かかりつけ歯科などからもかかわっていくことができると感じています。(『ヘルスケア・レストラン』2021年3月号)

豊島瑞枝(東京医科歯科大学歯学部附属病院 管理栄養士)
とよしま・みずえ●大妻女子大学卒業。東京医科歯科大学医学部附属病院に入職後、2010年より東京医科歯科大学歯学部附属病院勤務となる。摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士、NST専門療法士、TNT-D管理栄養士、糖尿病療養指導士