栄養指導で”あるある!こんなこと”
第91回
血糖コントロール不良の原因は
日常に溶け込んだ意外な習慣だった
食事も問題ないし、適度な運動も継続しているのに血糖コントロールが不良……。そんな栄養指導の患者さんにお会いしたことはありませんか?今回は意外な習慣がその原因だった事例を紹介します。
順調に思われた血糖管理だけど……
今回ご紹介するGさんは60代後半の女性です。クリニックには長く通院されており、栄養指導も3年間継続していました。その間に最愛の息子さんを心臓発作で亡くされるなど、つらい時期もありましたが、本来は活発で明るい印象の方です。体格も小柄で身長153cm、体重は以前、60kg近くありましたが、息子さんを亡くされた際にショックで激やせした時期がありました。今ではショックから少し回復して、ちょうど標準体重の51~52kgほどです。
血糖コントロールにはアップダウンがあり、季節によって果物の摂取量やいも類、米類などの量の調整をお話ししながら、HbA1cを7%台にコントロールしていました。しかしここ2~3カ月間でHbA1cが上昇し、9%ぐらいになってきていました。
田村:おはようございます。体重測定からお願いしますね
Gさん:おはようございます。よろしくお願いします。
田村:Gさん、体重はいいですね。特に変わりなく標準ぐらいです
Gさん:よかった。太ったかと思ってドキドキしていました
田村:そうですか。もしかして、食べ過ぎとかありましたか?
Gさん:自分では気を付けているつもりでも……
田村:この時期、果物とかいも類とかいかがですか?食べ過ぎていないですか?
Gさん:少しは食べちゃうけど、管理栄養士さんに言われているので、頑張って気を付けています
田村:ありがとうございます。今月血糖コントロールは、いいですね。HbA1cが8.1から少し下がって7.9%。この調子で7%台をキープして行きましょうね。運動はどうですか?
Gさん:それはやっています。毎朝30分のウオーキングは日課です
田村:わかりました。では引き続き、食事などに気を付け様子を見て行きましょう
食事も運動も問題ないのに……
こんな感じで3カ月前の秋頃には順調でした。そして、今月になって再び、栄養指導となりました。
田村:こんにちは。体重が少し増えてきていますね。3カ月前と比べると2kくらい増えていますね
Gさん:やっぱり……。ちょっと自分でもお腹周りが気になっていました
田村:2kg増えると自分で気づいて、3kg増えると他人が気づくレベルらしいので、ご自身でも気づいていましたか?
Gさん:はい。ちょっとお腹あたりが苦しいなって思っていました。
田村:食事はどうですか
Gさん:野菜も食べているし、ご飯も量は決まっているし……
田村:そうですよね。そこはもうできていますよね
Gさん:果物いも類も今年はそんなに食べていないし、何が悪いんでしょうね?
田村:体重もですが、ここのところじんわりHbA1cも上がっています。7%台になったのが3カ月前で、そこから今日は8.9%です
Gさん:なんだろうなぁ。何が原因なんでしょう?
田村:食事は変わらず、運動もしてますよね
Gさん:はい
田村:でも血糖値が上がってきているということは、やっぱり何か原因がありますよね
Gさん:そうですよね。自分では気を付けているんですが……
田村:Gさんはお茶飲みってしますか?
Gさん:しますね。お客さんも来るので
田村:そうなんですね
Gさん:原因は、それですか?
田村:お茶菓子なんかどうされていますか?
Gさん:お客さんが来るので、お茶菓子入れに出していますね
田村:それって、テーブルに出しっ放しですか?
Gさん:はい。主人もお茶飲みをするので、普段でも何かないと落ち着かなくて……
田村:そうですか。でしたら、ついつい食べちゃいますよね?
Gさん:そうかなぁ……いや、そうですね
田村:お菓子はよく買われますか?
Gさん:そうですね。孫たちも来るので何種類か置いておきたいですしね。家はテーブルが大きいので、お茶菓子入れ2個と果物はいつも出てるかなぁ
田村:2つですか?それだけあれば食べちゃいますよね?
Gさん:はい。常に2つのお茶菓子入れにいろいろ入れて出しています。確かにいつもあるので、主人や孫が食べていると私も食べなきゃって……
田村:きっと無意識にかなりの量を食べている可能性がありますね
Gさん:確かに週に1回買い物に行って、2~3種類のお菓子は買い足しています
田村:一番には買わないことなんですが、お客さんやご主人、お孫さんが食べるとしても出しっ放しはでもよくないですね
Gさん:そうか。でも、ずっとそうやってきたので……
田村:そうですよね。ちょっと高めの数値はその習慣が原因ですね。Gさんは運動もしてらっしゃるし、食事も適切に摂取しているので、なぜ高いのだろうって思っていました。お茶菓子入れをしまうことはできないでしょうかね?
Gさん:いやあ…。でもやらないといけませんよね?
田村:そうですね。知らず知らずに食べている間食をなくしたら、きっともう少し数値がよくなると思います
Gさん:主人にも言って協力してもらうか
田村:はい。それが一番いいですね。ご自身だけでは難しいし、出ていればやっぱり食べちゃいます。私でもきっとそうです
Gさん:わかりました
田村:もちろん、食べちゃいけないわけではありません。知らず知らずのうちに食べてしまうことがよくないのです
Gさん:そうか
田村:食べる時に出して、食べ終わったらいったんしまいましょう。そうするとちゃんと意識して食べるようになります
Gさん:わかりました。主人にも協力してもらってやってみます
田村:頑張ってみましょう。きっと数値がよくなりますよ
この後、ご主人とお孫さんにもご理解いただいて、お茶菓子入れはしまうようにしたそうです。ご主人がお茶を飲まれる際は、食べる分を決めてお菓子を出したり、お孫さんにも食べる量だけ出すように切り替えたそうです。結果、GさんのHbA1cは現在6%後半~7%前半で推移しています。(『ヘルスケア・レストラン』2021年2月号)
福島学院大学短期大学部
食物栄養学科講師
かとう内科クリニック 非常勤 管理栄養士
たむら・かなみ●療養病院、急性期病院での勤務を経て、2011年8月からフリーランスの管理栄養士として活躍中。福島県いわき市内のクリニックでの栄養指導や全国各地での講演活動、自宅で暮らす高齢者の栄養サポートにも力を入れている