栄養士が知っておくべき薬の知識
第114回
透析患者などで問題になる高カリウム血症

カリウムは野菜や果物に多く含まれていて、栄養指導上、重要な栄養素かと思います。今回は久しぶりに発売された高カリウム血症治療薬を中心にご紹介します。

カリウムの生理作用

カリウムは人体に不可欠の電解質です。カリウムは細胞内に、ナトリウムは細胞外に多く含まれていて、この濃度差で電位が生じて脳や神経における情報伝達を行っています。細胞内外のナトリウムとカリウムはNa,K-ATPaseと呼ばれる膜電位によって交換されます。この交換にはエネルギーを使うため、この情報伝達を行うためにも栄養供給が必要になります。血液中には身体のカリウムの2%程度しか含まれていませんが、血液中のカリウム濃度が高くても低くてもさまざまな臨床症状が現れます。

1日のカリウム摂取量は通常100mEq(3900mg)程度とされます。野菜、果物、豆などに多く含まれ、消化管でほとんどが吸収されます。通常、カリウムを多く含む食物を摂取しても高カリウム血症にはなりません。前述したNa,K-ATPaseが働いて、カリウムが血液中から細胞内に汲み込まれるためです。
Na,K-ATPaseは、血液中のカリウム濃度に応じて活性化し、高カリウム血症になるのを防いでいます。このほかインスリンや交感神経、アルドステロンや酸・塩基平衡などによってもこの膜の活性化が調整されて、血液中のカリウムが一定に保たれるように働きます。

一方、余分なカリウムはほとんどが腎臓を介して尿中に排泄されます。便や汗で失われる量は10%に満たないとされます。したがって腎臓の機能が低下してくると、カリウムの排泄が遅延して高カリウム血症になるリスクが増えてきます。腎臓から尿中に排泄するカリウムの調節は、主に副腎から分泌されるアルドステロンによって行われています。この作用を妨害する薬もいくつかあって、心不全や腎不全患者に使われるアンジオテンシン変換酵素阻害薬、カリウム保持性利尿薬とされるスピロノラクトンやエプレレノン、心不全治療薬のジギタリスなどは高カリウム血症を起こしやすいことに注意します。

高カリウム血症の危険性

高カリウム血症は、静止電膜位が小さくなることから心筋の興奮が起こりにくくなります。心臓の洞房結節の興奮の伝導が遅れるため徐脈になります。心電図上ではテント状T波が見られます。伝導のスピードが遅くなって徐脈から心停止にまで至ることがあります。一般的に5mEq/Lを超えると高カリウム血症が懸念されますが、臨床所見はこれよりも高い濃度にならないと認めにくいとされます。

高カリウム血症が軽度な時は刺敵が強く伝わるために筋肉の攣縮、手先や口唇のしびれを訴えたりしますが、それ以上になると反対に刺激性が低下して脱力や四肢麻痺が起こりやすくなります。ただし、これらの症状はほかの原因によっても起こるため、高カリウム血症特有の症状とはいえません。また、これらの症状はカリウムが急激に高くなった時に生じやすく、慢性的な高カリウム血症では心電図変化さえ見られないことにも注意が必要です。

血液検査ではパニック値とされるものがいくつかあります。こんな検査値だったら緊急を要するという値です。カリウムのパニック値は外来では6mEq/L、入院では7mEq/Lなどとされます。重篤な高カリウム血症とわかると、病院ではまずカルシウムを注射します。カルシウムには、前述した電位が縮まった状態から心の活動の電位を広げて心筋の興奮性を正常化させる作用があるためです。このほか、カリウムを血液中から細胞内に汲み込むためにインスリンや炭酸水素ナトリウムの点滴を行ったりします。また、尿中へのカリウムの排泄を促すために利尿剤のフロセミドが使われます。

新発売された高カリウム血症治療薬

最近になって45年ぶりに高カリウム血症の治療薬が発売されました。ロケルマ®です。この薬に速効性は期待できないため緊急時に使用することはありませんが、慢性的に高カリウム血症が懸念される患者さんに使われます。ロケルマは、消化管内のカリウムイオンを捕捉して糞便として排泄しカリウム値を低下させます。

以前から使われていたケイキサレート®やカリメート®も同様の働きがありますが、ロケルマは水を含んで膨潤化しないので、便秘の副作用が起こりにくいことが利点です。コレステロールなどを吸着させる薬にコレスチミドやコレスチラミンなどもありますが、いずれも便秘の副作用があるため患者さんにとっては苦痛を伴い、またそのことによって薬をきちんと服用してくれない要因にもなっています。

また、ケイキサレートやカメートでは、食事中のカリウムを吸着させるために食間や食前投与と指示されることがあり、服用時間を調整しなければならないといった問題点がありました。服用時間が食後でない場合、薬を服用するのが面倒だったり、忘れてしまったりすることもみられるのですが、ロケルマは基本的に食後投与でよく、患者さんに余計な負担をかけないこともメリットだと思います。

一方、ロケルマの弱点は懸濁用散剤のみでの発売になっている点です。水に溶けないため、よくかき混ぜて成分が沈殿する前に飲む必要があります。ケイキサレートにはりんご風味のドライシロップ剤があり、カリメートにもフレーバー付きのドライシロップ剤や経口液があります。アーガメイト®という薬でもゼリータイプの剤型が発売されていて、患者さんの服用のしやすさに応じて剤型を使い分けることができましたが、ロケルマでは現状、それは難しいかもしれません。

また、ロケルマはカリウムイオンを捕らえる代わりにナトリウムイオンを放出します。したがってナトリウムが貯留しやすく、浮腫やうっ血性心不全の患者さんに使う時には注意が必要になります。ロケルマは初回量で10gを服用しますが、これは塩分として約2gに相当するナトリウムが放出されます。

ケイキサレートも同様に服用量1g当たり100mgのナトリウム(0.25gの食塩)が含まれます。1日量が30gだとすると7.5gの塩分に相当することになります。ナトリウム貯留が問題になる方では、カルシウムと交換してカリウムを排泄させるカリメートやアーガメイトなどの高カリウム血症治療薬のほうが望ましいと考えられます。

低カリウム血症にも注意が必要

カリウムはナトリウムとの交換で尿中に排泄されます。したがってカリウムを多くとれば血圧を下げることになり、ひいては脳卒中などを減らすことも期待されます。カリウムを多くとることを推奨しているガイドラインもみられます。一方、嘔吐、下痢、多尿症などによっても、今回ご紹介した高カリウム血症治療薬の使いすぎでも低カリウム血症が生じます。この場合も、筋力の低下や腸管の働きが悪くなって便秘傾向になる、致死的な不整脈を起こすことなどには注意が必要です。

カリウムは、人間では細胞内に蓄えられていますが、野菜なども同様で、ゆでたり水にさらしたりすることでカリウムが漏出してきます。ゆでた野菜の水分を取り除けばカリウム摂取を抑えることができます。カリウムを多く含む食材や調理方法の工夫などを指導されると思いますが、今回ご紹介したロケルマなどの薬に頼らないで済むように、カリウム摂取に対する管理栄養士さんによる栄養指導が優先されると思います。(『ヘルスケア・レストラン』2021年2月号)

林 宏行(日本大学薬学部薬物治療学研究室教授)
はやし・ひろゆき●1985年、日本大学理工学部薬学科卒業。88年、聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院勤務。2002年から同院NST事務局を務める。11年4月から日本大学薬学部薬物治療学研究室教授

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