“その人らしさ”を支える特養でのケア
第38回
「食べられる」という自信が「食べたい」という意欲につながっている

今回は、以前にもここでご紹介したご利用者のその後のお話をします。普段は刻み食なのですが、外出レクでの昼食で楽しく食べられたことで、食べることに対して前向きな様子が見られるようになりました。

普段は刻み食のAさん 外出レクで食事を楽しむ

ある日の午前中、エントランスホールにちょっと緊張気味で座るAさんの姿を発見しました。Aさんは以前「入れ歯をつくりたくないご利用者」として紹介した方です(2019年9月号参照)。その後、入れ歯を希望されたので総入れ歯をつくっていますが、食事で使うと違和感があるのか使用していません。1日に1回、時間を決めて入れ歯に慣れるための時間をとっていますが、実際に食事に使うことは難しい様子です。

さて、エントランスホールにいるAさんは外出レクに出かけるところでした。施設近くの公園で紅葉を楽しみ、その後昼食を食べて帰ってくる、というプランです。Aさんは食時中に入れ歯を使わないため、以前に紹介したあとも継続して刻み食を召し上がっています。正直、一般の食堂で食事……大丈夫かな? と不安がよぎりましたが、付き添いの看護師とメニューを選ぶうえでの注意点を話し合いました。Aさんには具体的なメニュー名も出して「安心して食べられるもの」として説明。「でも、食べたいものを食べてきてくださいね」と話すと「そうだね。楽しみだ」とAさんは笑顔で出かけていきました。

午後、無事に戻ってきたAさん一行。Aさんには会えませんでしたが、同行したケアマネジャーから「Aさん、嬉しそうにいろんなものを召し上がった」と聞きました。
親子丼に餃子、チャーハン、ラーメン……どうやらいろいろ注文し取り分けて召し上がった様子です(もちろん、衛生管理には十分に配慮しています)。「ちょっと食べ過ぎだったかも」とケアマネジャーは反省している様子でしたが、Aさんが心から外出を楽しみ、食事を召し上がったことが伝わってきました。

私がAさんと会えたのは翌日。「昨日は楽しかったようですね」と声をかけると、「とってもよかった。ちょっと食べ過ぎちゃったけどいろいろ食べられた」と嬉しそうに話してくださいました。その後も私の質問に応じて食べたものや食べた感想など話してくれました。「親子丼の肉も箸で割いてもらったら食べられたよ」と満足そうに話をされ、食事に対しても自信がついた様子のAさん。次はお花見の頃に、と次回の外出にも意欲が見られました。

外出レクでのラーメンが食べられるという自信に

その後のAさんの担当者会議でのこと。外出レクでの様子もこの会議で改めて情報共有され、外出したことを知ったご家族も大変喜ばれており、感謝のお手紙も披露されました。

Aさんの栄養ケアプランには自立支援の一環として「自分の食事内容について要望があれば職員に伝える」ことと、「伝えられた内容を傾聴し実施できるよう検討する」ことを入れています。外出レクでの昼食のおかげでAさんの食べる意欲が増すかもしれないことを説明し、ご本人のリクエストにも対応していこうと方針を確認しました。この時、歯科衛生士から入れ歯の使用について問題提起があり、次の外出でもっと自由に選べるように食事でも少しずつ入れ歯を使ってみるよう促していくことになりました。

以前も紹介したとおり、Aさんとはいつも決まったベンチの前でお目にかかります。外出レクから数日後、Aさんから「麺をもう少し長くしてほしい」とリクエストがありました。外出でラーメンを食べたことで自信がついた、と話すAさんは「食事の時に入れ歯を使ったらどうか、と歯科衛生士に言われたんだ」とも話してくれました。食事形態はそのままで入れ歯を使ってみる予定であったため、Aさんには刻み食のままだからうまく使えなくても大丈夫、と伝えました。

その後も食べたいもののリクエストが続き、ご家族からの差し入れとして準備していただくものもありますが、食べたいものを食べることができています。普段からにこやかな表情のAさんではありますが、外出レクをきっかけに生活にもハリが出たように感じます。

食べたいものが食べられるその意味を改めて実感

夏祭り(2020年12月号参照)の時にも感じたことですが、食欲はちょっとしたきっかけで高まります。そして、生活全般の意欲向上にもつながっていることを改めて実感しました。

ご利用者は生活機能の低下が理由で、また特に近頃は感染対策も加わって、外出の難しい方が多くいらっしゃいます。さらに、外食となると食形態の問題もあり実施の困難な方が多いのが当施設の現状です。そうしたなかでも、食卓の雰囲気を変えたりメニューや盛り付けを工夫したりすることで、ご利用者の気分転換や意欲向上につながるよう、施設内でも給食やレクリエーションを工夫していくことが大切だなぁ、と感じた出来事でした。

さて、Aさんのその後ですが「納豆を食べたい」とリクエストがあり、対応しています。実は当施設では納豆の提供を行っていません。ご利用者が食べにくい(介助しにくい)ことで提供しない方が増え、納豆を提供しない場合の副食にバリエーションが少ないことから対応を求められたためです。いろいろ工夫したのですが効果的な方法がなく、提供しないという結論に至りました。
(8年も茨城県で管理栄養士をしていたのに、納豆禁の献立が思い出せない自分の不甲斐なさを反省。皆さん、どうされていますか?)

「最近、納豆出なくなったんだよ」というAさんのひと言から始まった納豆の提供。ご家族にもご協力いただき、差し入れとして対応しています。納豆をきっかけに、奥様と暮らしていた頃のお話もお聞きして、Aさんとの距離もますます近くなっています。(『ヘルスケア・レストラン』2021年2月号)

横山奈津代
特別養護老人ホーム ブナの里
よこやま・なつよ
1999年、北里大学保健衛生専門学校臨床栄養科を卒業。その後、長野市民病院臨床栄養研修生として宮澤靖先生に師事。2000年、JA茨城厚生連茨城西南医療センター病院に入職。同院の栄養サポートチームの設立と同時にチームへ参画。管理栄養士免許取得。08年、JA茨城厚生連茨城西南医療センター病院を退職し、社会福祉法人妙心福祉会特別養護老人ホームブナの里開設準備室へ入職。09年、社会福祉法人妙心福祉会特別養護老人ホームブナの里へ入職し、現在に至る