栄養指導で”あるある!こんなこと”
第90回
脂質異常症の原因は驚きの食生活
奥さまの協力で少しずつ改善へ

今回は驚きの食習慣のなかで育ったため、普通の食事量がわからなかったFさんの事例を紹介します。

Fさんは健康診断で脂質異常症があり、クリニックを受診。栄養指導となった30代の男性患者さんです。健康診断では中性脂肪が280mg/dl、LDLコレステロールが210mg/dlと高い状態でした。また体格もよく、身長180cm、体重92kg、BMIが28.4kg/㎡という状態でした。

田村:Fさん、健康診断で脂質異常症ということですね。今日は初めてなので食事についていくつか質問させてくださいね

Fさん:はい、よろしくお願いします

田村:これまでの食事をお聞きすると、全体的に食事の量が多いのですね?あとお子さんと一緒にスナック菓子など間食もされるというところも少し気になります。アルコールは飲まれないんですね?

Fさん:はい、お酒は飲めないので……

田村:体格なんですが、もともと身体は大きいほうでしたか?ちなみに20歳の頃の体重は?

Fさん:はい、でかかったです。20歳の頃は100kgを超えていました。一番大きい時で110kgぐらいなので、これでも少し体重は落としているんです

田村:そうなんですね。何か運動とかは?

Fさん:学生の頃はいろいろやって、それなりに動いていました。今は子どもと遊ぶくらいですね

田村:体重を落とされたのは最近ですか?

Fさん:4年前に結婚して、それから自然に減りました

田村:奥様のお食事もよかったんですね?

Fさん:そうですね。野菜はいっぱい食べさせられます

田村:それはとてもいいですね、奥様に感謝ですね

Fさん:やせないとダメよ!って結構厳しいんです

田村:これから年齢も上がってくるので、奥様とも協力してもう少し体重を落として、脂質異常症を改善しましょう。いいお薬もあるとは思いますが、まずはお食事を見直しましょう

Fさん:はい。先生にも「薬はまだ様子を見てからにしましょう」って言われました

田村:脂質異常症はすぐには数値に表れにくいので、しばらくお食事内容を確認していきましょう。また、できれば間食をなくし、お休みの日に軽い運動もなさるとよいと思います

Fさん:わかりました。最近は買い物も3人で歩いて行くようにしています

田村:いいですね。日常のなかで始めるのもいいと思います。あと、お食事内容を見たいので、できれば毎日ノートに食べた物を記録してもらえますか?お仕事で難しいでしょうか?

Fさん:実は今、コロナで仕事がなくなっているんです。家で子どもを見ているので大丈夫です。自分が買い物や家事、育児をやっていて、妻が働いてます

田村:大変ですね。早くコロナが収まってお仕事も見つかるといいですね

Fさん:はい。まだ1年くらいは子どもも幼稚園に入れないので、その間に身体もよくしたいです

田村:そうですね。小さなお子さんがいると大変ですが、お子さんと一緒に身体を動かすといいですね。それではすみませんが、食事記録をお願いします

Fさん:わかりました

初回はこんな感じで終了し、食事の記録と奥様の監視のもと、食事もなるべく野菜を多くとって、間食はできるだけなくし、日常生活で運動をなるべくするようお話ししました。

かなり制限しても普通量にはほど遠い食事量

翌月、食事記録のノートを拝見すると、野菜はまあとれていましたが、ご飯の量と肉など動物性食品が多いのが目立ちました。魚は週に3回ほど食べているようですが、全体的に食事の量が多いのが印象的でした。

田村:Fさん、食事の量ですが、結構食べられますね

Fさん:これでも前に比べたらかなり減らしてます

田村:そうなんですね。あまり急に減らすのもよくはないので少しずつですね。今回体重は1カ月でkgは減っていますし、様子を見ましょうね。ところで以前、食事はどのぐらい召し上がっていたんですか?

Fさん:それが、妻にも驚かれるんですが、実家が北海道で漁師をやってて、20代前半までは兄弟3人で漁を手伝っていたもので、かなり食べていました。漁に出ちゃうと次にいつ食べられるかわからないので、食える時にしっかり食べる生活だったのと、今は亡くなっているんですが、親父が兄弟3人にはすごい食えって育て方で、バーベキューとかすると肉を1人10パックぐらい、米は1人5合、外食に行っても1人5人前ぐらい頼んで、それを食べないと叱られていました。買い物も毎週ハイエースのような車で行って大量に買い込んでいたもので、月の食費代が50万円ぐらいでした

田村:どうしてそんな……

Fさん:親父は子どもたちを相撲取りにしたかったようです。でも、一度漁に出ると夕方までおにぎりしか食えないことも多く、空腹から夕飯はどかんと食べました。お袋は炊飯器を3つくらい炊いてました

田村:食事の準備だけでも大変ですね

Fさん:ええ。そのため焼き肉とかバーベキューとかを庭でよくやってました

田村:わかりました。まずは普通の量に慣れるところからですね

Fさん:やっぱり腹も減るんで…

田村:そうですよね。最初は普通の大盛りに慣れるようにしましょう。野菜はたくさん食べても大丈夫です。あとは運動ですね

Fさん:わかりました

田村:驚きましたが、いろいろな家庭がありますね。ご兄弟も体格がいいですか?

Fさん:2人はまだ北海道で漁師をやってますが、長男は糖尿病になってだいぶやせました。次男は今のところそんなに身体は悪くないみたいで、体格はいいですね

田村:娘さんもいらっしゃるので、ごく普通のお食事の量で育てたいですね

Fさん:妻にも言われます。俺が食わすと、「多い!」って。小さな茶碗1杯も食べないので「これじゃあ育つのに足りない」って思うんですが、どうなんでしょう?

田村:まだ2歳でしたっけ?そんなもんですよ

Fさん:どうも飯はいっぱい食べないといけないと思い込んでいるもので……

田村:小さい頃からの食習慣なので、少しつらいかと思いますが、徐々に普通量を学んでいきましょう。奥様にも感謝ですね

Fさん:はい。まずは普通の食事の量からですね

田村:お若いし、改善も早いと思いますので頑張りましょう

Fさんは幼少時に驚きの食生活がありました。それが大人になっても当たり前のこととして続いていたのが、脂質異常症の原因でした。急に食事を減らすのは無理でも奥様と知り合ったことで少しずつ改善していたようですが、さらに、栄養指導に来るようになって奥様の言っていることが正しいと思うようになったようです。

現在も毎月、栄養指導へ来られ、体重も順調に適正体重へ近づいています。(『ヘルスケア・レストラン』2021年1月号)

田村佳奈美
福島学院大学短期大学部
食物栄養学科講師
かとう内科クリニック 非常勤 管理栄養士

たむら・かなみ●療養病院、急性期病院での勤務を経て、2011年8月からフリーランスの管理栄養士として活躍中。福島県いわき市内のクリニックでの栄養指導や全国各地での講演活動、自宅で暮らす高齢者の栄養サポートにも力を入れている

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