栄養士が知っておくべき薬の知識
第113回
抗糖尿病薬における低血糖症のリスクと治療薬

抗糖尿病薬を服用している患者さんで薬が効きすぎて低血糖症を起こす場合も少なくありません。以前、低血糖症を起こす糖尿病薬以外の薬を紹介しましたが、今回は低血糖症時の治療薬をご紹介します。

低血糖の症状とリスク

低血糖の症状は大きく2つ挙げられます。1つは交感神経刺激症状です。インスリンなどが効きすぎて低血糖を起こした場合、それに対応する交感神経の刺激によってアドレナリンなどのカテコラミンが分泌され、興奮や緊張状態を生み出します。これによって血糖上昇作用とともに発汗や動悸、手指振戦、顔面蒼白といった症状が起こります。この時点で低血糖を起こしているのかもしれない、と気づくことは大切だと思います。

2つ目は、栄養源としてそのほとんどをブドウ糖に頼っている中枢神経の症状が現れます。異常な空腹感や頭痛、目のかすみ、眠気などに続いて意識障害やけいれん、昏睡にまで至ります。こうなると患者さん自身では対処できない状態になることが容易に想像されます。また高齢者では、低血糖症状を認知症やその悪化と考えてしまう場合も多いとされます。

低血糖を繰り返していると無自性低血糖も生じます。先述の交感神経刺激症状が起こらなくなってしまう状態です。いきなり中枢神経症状を起こすため、前駆症状がなく低血糖症状を起こす場合があることには注意が必要です。ただし、無自覚性低血糖は数週間、低血糖を起こさないように注意していると回復するとされます。

低血糖のリスクはこれだけではありません。糖尿病患者さんの血糖コントロールをどのようにしたらよいかといった試験が行われましたが、厳格に管理を行うと総死亡の増加を認め、この要因として厳格な血糖管理によって低血糖を起こし、不整脈などを生じることから突然死が増えた可能性が示唆されています。これらの試験から、現在は個人ごとに異なる管理目標を設定するようになりました。特に老年医学会は、後述するインスリンやSU剤を使っている患者のHbA1cはやや高めに目標とすることを求めています。

低血糖の定義や原因

低血糖に明確な基準はありませんが、国外では血糖値70mg/dl以下をレベル1、54mg/dl未満をレベル2、血糖値は問わないが回復に第三者の介助を必要とする低血糖をレベル3と分類して、レベル3を重症低血糖と定義するとい
う考え方があります。

低血糖の原因でまず挙げられるのはインスリン注射です。インスリン治療は、ほぼ1日中血糖低下作用を示す持効型インスリン(ランタス®、レベミル®、トレシーバ®)と、食事後の血糖上昇を抑える超速効型インスリン製剤(ヒューマログ®、アピドラ®など)を組み合わせて用います。持効型インスリンは効果持続時間が長いため、食事をとらなかったり、激しい運動を行ったりすると低血糖を生じやすくなってしまいます。また経口薬のスルホニルウレア(SU)剤(アマリール®〈グリメピリド〉など)は膵臓からのインスリン分泌を促す薬ですが、これもほぼ1日中インスリン分泌を促す薬で低血糖のリスクがあります。

糖尿病薬によって低血を起こした方の検討では、インスリンかSU剤を服用中の方がほとんどです。これらの治療薬を使っている方には、病気で食事がとれなかったらどうするかといったシックデイルールや、運動や長時間の庭仕事などをする場合はどうするか、などを決めておくことは大切になります。

一方、病気が原因で低血糖を起こす場合もあります。膵臓に腫瘍ができてインスリン分泌が亢進するインスリノーマや、血糖を上げるコルチゾールの分泌不全といった疾病によって低血糖を生じる場合もあります。

低血糖の治療

低血糖が考えられたら、自己血糖測定などで血糖を測ります。いつもより血糖値が異常に低い、あるいは血糖値が70mg/dl以下になっていないかを確かめます。実際に低血糖であれば、まずは食事がとれないかを考えます。小児では母乳を飲ませることも効果的です。またブドウ糖を含炭水化物の摂取も考えます。
α-グリコシダーゼ阻害剤(グルコバイ®、セイブル®、ベイスン®)を服用している患者さんでは、ブドウ糖そのものを服用する必要があります。医療機関であればブドウ糖の静注を行います。最近では血糖値が50mg/dl未満や15歳以上であれば、救命救急士が医師の具体的な指示によってブドウ糖液の注射を行う場合もあります。
ブドウ糖の効果は速く、通常は5分以内に症状消失が得られるとされますが、効果は一時的でインスリンやSU剤の効果なとがまだ残っていると考えて食事ができれば食事摂取を促し、さらにしばらくのあいだ様子観察が必要になります。

このほか、グルカゴン(注射)はインスリンに拮抗するホルモンで低血糖時に用いられます。低血糖時の処置として特に1型糖尿病の患者さんやその家族などにグルカゴンの筋注剤が渡されている場合があります。グルカゴンの投与によって成人では筋注30分後に25mg/dl以上の血糖値上昇が得られ、90分程度効果が続くとされます。ただしグルカゴンは肝グリコーゲンの分解による血糖上昇を促す薬のため、グリコーゲンが枯渇していると考えられる飢餓状態や肝硬変、アルコールによって低血糖を起こしている方には効果がありません。また高血圧治療剤のβ遮断剤を服用していると交感神経が抑制されているため、リバウンドで低血糖症状を起こしやすいことには注意が必要です。

グルカゴンは筋注する必要がありましたが、最近グルカゴンの点鼻薬も発売されました。バクスミー®点鼻薬です。筋注に比べると操作が簡単で持ち運びも可能です。点鼻後、30分以内に血糖値が20mg/dl以上の改善が見込まれています。またサイアザイド系やループ系(ラシックス®〈フロセミド)利尿剤はカリウムの排泄を促進するためインスリン分泌が起こりにくく、糖尿病で高血圧といった患者さんには使いづらい楽です。

この類似薬でジアゾキシドカプセルも高インスリン血症性の低血糖症治療薬として発売されています。インスリノーマなど低血糖症の患者さんに、1日に2、3回に分けて服用してもらいます。また小児ではカプセルから外すなどして用量を調節することも可能です。このほか、インスリン分泌を抑えるオクトレオチド(サンドスタチン®)などが使われていましたが、これはジアゾキシドで治療効果が得られない場合に限って使われます。また以前は血糖上昇作用が期待される副腎皮質ステロイド剤なども使われましたが、先に挙げた治療に勝るとはいえず副作用も多いことから、現在は推奨されていません。

おわりに

低血糖は栄養障害でも生じます。特にカルニチン欠乏によって脂肪酸が代謝されずに起きる低血糖もあります。けいれんに使われるバルプロ酸の服用中や長期間の中心静脈栄養、カルニチン非含有の経腸栄養剤投与中でも、カルニチン欠乏性の低血糖を生じる場合があります。

糖尿病患者さんは高血糖を治療しますが、こちらは口渇などの症状以外はなかなか自覚できず病識を促すことが重要になります。一方低血糖はいったん起こすと致命的になりかねません。管理栄養士さんによる栄養指導がとても大切だと思います。(『ヘルスケア・レストラン』2021年1月号)

林 宏行(日本大学薬学部薬物治療学研究室教授)
はやし・ひろゆき●1985年、日本大学理工学部薬学科卒業。88年、聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院勤務。2002年から同院NST事務局を務める。11年4月から日本大学薬学部薬物治療学研究室教授