“その人らしさ”を支える特養でのケア
第37回
たかがおやつ?
いえいえ、そんなに甘くはありません
病院の食事と高齢者施設の食事の違いはさまざまあれど、おやつの有無もその1つ。病院給食しか知らなかった当初は「おやつはおまけ」くらいの認識で、おやつの提供を始めました。
食事>おやつと思っていたけれど……?
当施設では3食の食事以外に午後のおやつを提供しています。
施設開設準備室時代、給食の内容を考えていた私の頭の中には「おやつ」という概念はありませんでした。経験上、病院給食でおやつ(間食)が出るのは消化管術後で分割食の場合や小児科の患児、褥婦さんだけだったからです。
しかし、委託会社と食事内容について打ち合わせをした時に「おやつの内容はこんな感じ」と説明され、「おやつが出るのかぁ」とぼんやり思ったのです。この時、委託会社には「食事に重点を置いてほしい。おやつは市販品でよい」と伝えました。食事のおいしさが重要で、おやつはおまけ、くらいに思っていたためです。
当時は看護師もどちらかというと病院での食事対応に考え方が近かったため、おやつが軽めであることに賛成でしたし、介護職員も厨房から提供されるおやつについては、「ユニットレクでおやつづくりをするから」との理由から市販品で十分という考えでした。ですから施設オープン当時は、市販のお菓子に週1回程度の手づくりメニューというバランスでスタートしました。
しかし、オープンから数年経つと少しずつ問題が出てきました。ある日、刻み食を召し上がっていたAさんが「いつもおやつはゼリーで飽きてきた」とおっしゃいました。その頃Aさんに提供されていたおやつは、おせんべいやクッキーなどがゼリーなどに代替されていたのです。
Aさんは脳梗塞後遺症で左片麻痺。軽度の呂律困難があり意思の疎通が少し難しい方です。でも食べることがお好きなAさんは、毎食できるかぎりご自分で召し上がる頑張り屋さんでもあります。
Aさんは「カステラとかケーキとか、もっと食べたい」と希望されています。しかし、おやつの予定表どおりに提供するとAさんには食べにくいお菓子も出てしまい、頭を悩ませました。再度細かくAさんに食べたいものを聞いて、それをもとに厨房と相談すると「提供内容を指示してくれれば、1人分くらいは在庫でなんとかなるかも」という返事。さっそくAさんに対して個別対応のおやつ提供が開始されました。
しばらくしてAさんに「おやつはどう?」と聞くと、うんうんと頷いて満足していることを伝えてくれました。
このAさん専用につくったおやつの献立はその後「ふわふわおやつ」と名前をつけ、1回に2~3人程度の提供を条件に対象者が拡大しました。カステラやロールケーキ、ワッフルなどの洋菓子や、どら焼きやカステラ饅頭などの和菓子、それにプリンなどで構成しています。
マンパワー不足で手づくりおやつが危機に!
その後もしばらくは問題なく提供できていたおやつですが、介護職員の人手不足でユニットでの調理レクの頻度が減少、そして厨房職員の人手不足で手づくりおやつの提供頻度が減少したことで、おやつの提供内容を見直すことになりました。
「おせんべいを食べやすいものに変更してほしい」、「手づくりのおやつを増やしてほしい」という2点が介護部門からリクエストされましたが、厨房と検討しても「人手が割けない」と、手づくりおやつを提供することについての話は一向に進みません。
そんな時、パートナーの栄養士Mさんが「厨房に入っていいなら、おやつをつくってもいいですか?」と言ってくれました。Mさんは長年給食委託会社で勤務した経験から、おやつづくりを請け負ってくれることになったのです。さっそく、上司と委託会社に許可をとり、月2回の手づくりおやつの提供が始まりました。
せっかく手づくりするのだからと、月に1回は「今月のおやつ」として季節に合ったものを提供することになりました。おやつの内容はMさんと相談しながら決めています。
さまざまなものからヒントを得て、4月は桜、5月はヨモギやお茶、6月はアジサイなどテーマを決めて、いくつかのレシピを参考にさらに数回の試作を重ねています。実際、提供したものも毎回検食をし、次回への改善点を話し合っています。
2020年10月号で紹介した「郷土食」の提供期間は、地方のお菓子やお茶請けを参考にして目先を変えた演出もしています。ちなみに今年度の郷土食のおやつは京都府の「水無月」と北海道の「いももち」でした。
奥深いおやつの提供
さらにご利用者の重度化に伴う弊害も出てきました。おせんべいの提供が難しくなってしまったのです。当初はおせんべいの提供を取りやめていたのですが、特養より介護度が低いショートステイのご利用者から「たまにはおせんべいも食べたい」とリクエストがあり、ショートステイで毎週実施している「選べるおやつ」の時に提供しています。
この「選べるおやつ」は介護部門からのリクエストで開始しました。もともと、厨房で月1回「いろいろおやつ」の日が設けられていたのですが(皆さんお察しのとおり在庫整理です)ショートステイでは思いのほか好評で頻度が高くなったものです。
また、デイサービスからは「このお菓子は家でも食べられる」と市販のお菓子は喜ばれませんでした。そこで業務用食材から入荷している洋菓子を中心にしたおやつ提供となっています。
現在は栄養士のMさんが厨房とおやつも含めて献立の打ち合わせをして、3事業所それぞれの調整を行い、厨房に指示してくれています。ちなみに、毎月15日は昼食のお誕生日御膳に合わせておやつはミニケーキです。いつの間にか始まっていて、Mさんと厨房に感謝しています。
施設のオープン当初は軽視していたおやつでしたが、取り組んでみると深いテーマでした。ご利用者の楽しみや生活のハリにつながっていることにも気が付き、状況に合わせて見直しをしていくことも大切だなと認識を改めています。
現状、しょっぱいおやつの提供が難しいので打開策を探しているところです。見つかったらまた報告したいと思います。(『ヘルスケア・レストラン』2021年1月号)
特別養護老人ホーム ブナの里
よこやま・なつよ
1999年、北里大学保健衛生専門学校臨床栄養科を卒業。その後、長野市民病院臨床栄養研修生として宮澤靖先生に師事。2000年、JA茨城厚生連茨城西南医療センター病院に入職。同院の栄養サポートチームの設立と同時にチームへ参画。管理栄養士免許取得。08年、JA茨城厚生連茨城西南医療センター病院を退職し、社会福祉法人妙心福祉会特別養護老人ホームブナの里開設準備室へ入職。09年、社会福祉法人妙心福祉会特別養護老人ホームブナの里へ入職し、現在に至る