栄養指導で”あるある!こんなこと”
第89回
ジム通いが習慣化したことはいいけれど
プロテインの摂取をすすめられて困った

Eさんは糖尿病で3年ほど通院し、約1年前から栄養指導を受けています。この1年で血糖値が落ち着き、運動を始めるなど生活習慣も改善していたのですがある日の栄養指導で、「あるある」な相談を受けました。

いい点と悪かった点を自身で振り返ってもらう

田村:こんにちは。今日もよろしくお願いします

Eさん:よろしくお願いします

田村:Eさん、今月も血糖値がいい数値です。お目にかかった最初が200mg/dl台、今は130mg/dl前後です。HbA1cは8%台だったのが先月7.1%、今月は6.9%です

Eさん:6%台になりましたか?

田村:はい、6.9%です。頑張りましたね

Eさん:よかった。うれしいです

田村:。どんなところに気を付けて過ごしていましたか?

Eさん:コロナで休みになっていたジムが先月から再開したので、また週5日を目標に通っています。1回30分ですが……

田村:。頑張っていますね。運動は大切ですね

Eさん:はい

田村:一通りやって30分なんですね。それでも週5日目標はすごいです

Eさん:ありがとうございます

実はこのように数値がよかった時には何を頑張ったか、また数値が上がってしまった場合は何がいけなかったと思うか、必ず患者さん自身に振り返ってもらうようにしています。そうすることで、よかった点は続けるように、もしダメだった点があればそこをどう見直すかアドバイスします。一番厄介なのは、よかった点もダメだった点も何も感じていない場合です。運動を始めたなど何かしら頑張った点、もしくはついつい間食してしまうなど悪かった部分がわかれば指導しやすいので、ご自身の生活を振り返ってみることはとても重要です。

プロテインをすすめられたけど腎機能が心配……

田村:今回も先生にほめられますね

Eさん:ありがとうございます。前回も「頑張ってるな!」って先生にも言われて、うれしかったです

田村:Eさんの頑張りは先生もちゃんと見ていてくれてますね

Eさん:ところで管理栄養士さん、教えてほしいのですが、ジムではすごくプロテインをとるようにって言われるんです

田村:プロテイン、たんぱく質ですね

Eさん:はい。「これを飲むといいよ」ってすすめられるものも売っていて、それってどうなんでしょうか?

田村:そうですねえ……

Eさん:まずは管理栄養士さんに聞いてみてからにしようって思って、購入はしていないんです。買って飲んだほうがいいでしょうか?

田村:なるほど、そんなにすすめられるんですか?

Eさん:行くたびに言われます

田村:。確かに使った筋肉の修復や新たに筋肉をつけるためにはプロテインもいいのですが、高いお金を出してまでは、どうでしょう?

Eさん:あまりすすめてくるので、だんだん「そうしないといけないかな?」と思っちゃって

田村:確かに、高齢者の低栄養の問題、特にたんぱく質不足は問題になっています。また、運動後にたんぱく質をとる必要性も言われています

Eさん:そうなんですね

田村:アスリートクラスなら運動後のプロテインが必要ですが、一般的には3食のご飯の際にしっかりとたんぱく質性食品をとっていれば、むやみに付加する必要はないと考えます

Eさん:なるほど

田村:もちろん、運動後の補給も重要なんですが、たとえばジムから帰って、牛乳をコップ1杯飲むとか、ゆで卵を1つ食べるとか、そんな感じで十分だと思います

Eさん:特に買ってまで飲む必要はないですか?

田村:。そうですね。むしろとり過ぎによる弊害が懸念されます。たとえば腎臓に負担がかかってしまう可能性もあり得ます。特にEさんは糖尿病という持病があるので、たんぱく質をあまりとり過ぎるのも少し怖いですね

Eさん:。よかった。聞いてみて

田村:たとえば1日何時間も運動をして相当筋肉を消耗した場合などは、いつもよりしっかりとる必要はありますが、現在の30分ぐらいの運動で、3食しっかりと食べられているので、運動後に少し食品で補う程度で十分と思います

Eさん:わかりました。安心しました

田村:こちらでは腎機能も定期的にみていますので、そこもこれから注意してみていきましょうね。ちなみにこれまではたんぱく尿は出てはいないみたいですね。定期的に採血もしてますから、腎機能の数値も注意してみていきましょう

Eさん:管理栄養士さんに聞いてよかったです

田村:ジムにも管理栄養士がいればいいんですが、常駐しているジムは少ないですね。運動を指導する立場からだとプロテインをすすめる気持ちもわかるんですが、Eさんの場合、少し様子をみながらでいいんじゃないでしょうか

Eさん:はい。では、ジムから帰ったら牛乳を飲むようにします

田村:はい。できれば30分以内がいいようですよ

Eさん:大丈夫です。ちょうどその範囲で帰れます

田村:では、それでやってみましょう

Eさん:はい

結果、Eさんはその半年後、体重を3kgほど減量できました。ジムに行かない日は、ウオーキングも始めて、はつらつと頑張っています。HbA1cは6.9%から6.6%になり、現在も6%台をキープできています。時折たんぱく尿が1+程度出ることもあるため、プロテインの摂取を止めておいてよかったと思っています。

現在、塩分のとり過ぎに気を付けてもらいながらこれまでどおりの食事療法と運動を継続してもらっています。運動後の食品によるたんぱく質の補給は続けてもらっていますが、腎機能に大きな問題は出てきてはいません。(『ヘルスケア・レストラン』2020年12月号)

田村佳奈美
福島学院大学短期大学部
食物栄養学科講師
かとう内科クリニック 非常勤 管理栄養士

たむら・かなみ●療養病院、急性期病院での勤務を経て、2011年8月からフリーランスの管理栄養士として活躍中。福島県いわき市内のクリニックでの栄養指導や全国各地での講演活動、自宅で暮らす高齢者の栄養サポートにも力を入れている

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