“その人らしさ”を支える特養でのケア
第36回
楽しい時間を過ごすことと
食事量との関連を実感した出来事

認知症があり食事摂取に偏りが見られるAさん。食事の時もつまらなそうな顔をしていましたが、今年の夏祭りの日、笑顔で屋台の出し物を食べてくれました。そこで今更ながら気が付いたことがありました。

認知症も相まって食事は進まないまま……

感染対策に明け暮れた1年が終ろうとしています。

施設全体で行う行事は自粛続きで、例年は地元地域の皆さんとの交流の場である運動会や納涼祭も感染対策のため中止となってしまいました。
張り合いのない日々に元気を、と施設内の小グループで行うレクリエーションの頻度が高くなっています。なかでも夏祭りの際は神輿巡行や屋台村など時間差で楽しめるものを企画し、私も屋台村の運営にかかわりました。

夏祭りの日、ニコニコとアイスクリームやチョコバナナを召し上がるAさんの姿がありました。「ねえねえ、Aさんが食べてるよ~。うれしそうだよ~」と隣にいたケアマネジャーと顔を見合わせました。

入所から10年近く当施設で暮らしているAさんは認知症のある方で、若い頃は関西方面で生活されていた、と聞いています。
Aさんはいつの頃からか食事をほとんど召し上がらなくなりました。食べなくなってすぐの頃は「おなかがいっぱい」と食べない理由を説明してくれていましたが、うどんを提供したある日、「こんな真っ黒なつゆのうどん、食べられないわ!」とご立腹に……。その後も「おいしくない」とか「こんなの食べ物じゃない」とか訪問するたびにお叱りをいただく日々が続きました。

そのうち、洋菓子とコーヒーしか口にしないAさんにお手上げになった私たち(嘱託医も含め)は、体調に変化がないのをいいことに無理に食事を勧めることをせず、洋菓子とカフェオレと補助食がAさんの栄養補給源となっていました。

認知症の進行も相まって、近年はますますその傾向が顕著となり、いつも食事は残ったまま、訪問してお声がけしても毎回つまらなそうな表情のAさん。ひどい時には「話すことはありません」と一言。取り付く島もない、とはこのことです。

いつもより食べられるのは明るくて元気な日!

そんなAさんが夏祭りで見せた会情には私もケアマネジャーも感激しました。夏祭りでいつもより多めのおやつを召し上がったAさんは、「おなかいっぱいで食べないかな」という私の心配をよそに、珍しく夕食の摂取量も多めでした。

これまでのことを振り返ってみると作品づくりや集団レクなどに楽しそうに参加されたAさんは、イベントのあとは少し食事摂取量が増加していたことに気が付きました。そこで私はふと思い出しました。Aさんが食事を食べている日についてユニットの介護職員が「Aさん明るくて元気だったから食べる日だったと思う」と言っていたことを。

これまで理由はわからないけれど(認知症による気分の浮き沈み?!)元気な日に食べてくれることを期待していましたが、今回のエピソードから、元気になる・楽しい気分になることがきっかけで食欲を引き出すこともあるんだな、と気が付きました。今更……本当に今更ですが。

要因を少し変えるだけでもその先が大きく変わる

ここだけの話、集団の機能訓練は「機能訓練指導員の仕事」と思っていましたし、時間と気持ちの余裕がある時に「人手が足りないから」との理由でちょっと手伝う程度のもので、集団レクでのご利用者の様子は申し送りなどのなかで聞くだけにとどまっていました。しかし、認知症の方も生活にメリハリが生まれることによって、食事への意欲も高まることを目の当たりにすると、レクリエーション中の表情や活動の様子を実際に見てみたい、と思うようになり、レクに積極的に参加するようになりました。

最初は「ほかの職種から『サボってる』と思われたらどうしよう」とも思いましたが、レクリエーションの様子から「○○さんはこんなこともできるなら、食具を変更してみよう」とか、「日常生活の活動を増やして空腹感の刺激につながるかもしれない」とか、栄養ケアプランにつながる発見が多くあり、少しずつ栄養ケアプランへ展開し始めています。

最近は機能訓練指導員と、食事姿勢についての相談や活動量を増やすための工夫についてなど連携が密になり、個別機能訓練計画と栄養ケアプランの重なりが多くなるのではないか、と感じています。
幸いにも管理栄養士1年生の頃から、チームアプローチを経験できる環境で仕事をしてきました。医療の場面では「治療する」という大きな1つの目標に向かって、職種ごとの専門性をそれぞれが発揮することで、治療を進めていたように思います。

一方、介護現場のゴールはさまざまで時にはその先が見えないことも多く、目標設定に迷うことも少なくありません。しかし、ご利用者様個々の要因はさまざまでも、小さな変化の積み重ねが大きな変化を生むことに気が付き、最近では「今、変化を起こせるのはどこか」を考えるようになりました。そして、管理栄養士だけで完結できることがとても少ないことにも気づき、改めて多職種連携の重要性を実感しています。

レクリエーションに参加することで、ご利用者様との話題も増えました。管理栄養士だから食事の話、とこだわらずにいることが、ご利用者様の安心につながるといいな、と思っています。(『ヘルスケア・レストラン』2020年12月号)

横山奈津代
特別養護老人ホーム ブナの里
よこやま・なつよ
1999年、北里大学保健衛生専門学校臨床栄養科を卒業。その後、長野市民病院臨床栄養研修生として宮澤靖先生に師事。2000年、JA茨城厚生連茨城西南医療センター病院に入職。同院の栄養サポートチームの設立と同時にチームへ参画。管理栄養士免許取得。08年、JA茨城厚生連茨城西南医療センター病院を退職し、社会福祉法人妙心福祉会特別養護老人ホームブナの里開設準備室へ入職。09年、社会福祉法人妙心福祉会特別養護老人ホームブナの里へ入職し、現在に至る