食べることの希望をつなごう
第33回
1日2食は食べづらかったからという可能性も?
術後は食形態調整で1日3食を毎回完食

今回ご紹介する患者さんは、舌がん手術のため入院した高齢男性です。入院時の身体所見は痩せ。術後は食形態の調整も必要になるため、量が食べられるか心配されましたが……。

入院前に体重減少のあった舌がんの高齢患者さん

今月もいろいろな患者さんとのかかわりがありました。
79歳男性。舌がんの手術のため入院されました。入院時の身長159.2cm、体重46.4kg、BMI18.3kg/㎡と痩せています。舌がんの場合、腫瘍の痛みが主な原因で食事摂取量が減り、入院までに体重減少を認める場合があります。外来での入院オリエンテーションの際、食事形態について看護師が聞き取りを行い、常食以外と判断された場合は管理栄養士まで連絡が来ますが、入院までの間に状況が変わる場合もあるため、入院時に再度食形態について聞き取りを行い、摂取可能な食事の提供につなげています。

この方の場合は、食形態については「何でも食べている」とのことで、嗜好やアレルギーについては「肉は嫌い、挽き肉は食べられる」とのことでした。体重については、直近では大きな変化はなく、食事で困っていることはないとのこと。調理担当は奥様で、1日2食の生活を送っていらっしゃいました。「朝食は7時、夕食は17時半と決まっていて、時間をかけて食べる。特に朝ごはんをしっかり食べている。奥さんもお昼は食べないから用意がないし、お昼を食べるともたれる」とのこと。常食を用意し、食後100%摂取との記録を確認し、手術の日を迎えました。

術後は経鼻胃管からの経腸栄養となります。通常、朝昼夕3回の間欠投与に加え、10時、15時、21時の3回補水を行い、それでも水分が不足する場合には輸液を併用します。当院では年齢の若い方が多く、必要栄養量も多い場合があるため、基本は1.5kcal/mlの栄養剤を使用し、ボリュームを落として栄養量を確保し、補水をしっかり行っています。

レントゲンで胃管の位置を確認し、無事経腸栄養が開始となりましたが、術前におっしゃっていたとおり、「昼は食べないから、(経腸栄養も)朝夕の2回にしてほしい」と依頼がありました。1回の投与量が多くなるか、1日の栄養量が少なくなるか、ご本人とも相談し、朝夕2回で投与してみることになりましたが、結局「量が多くてつらいから、朝昼夕の3回にしたい」とのことで、通常どおり3回投与に落ち着きました。

術後はじめての食事は「おいしかった!」

6日間の経腸栄養の期間のあと、経口摂取が始まりました。摂食・嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2013(学会分類)2-1からの開始です。食事摂取状況の確認ができるので、当院では食事開始は原則昼食で、というルールになっています。

「昼食は食べないから」と何度もおっしゃっていたので、手をつけていらっしゃらないんじゃないか、その場合は一口ずつでも食べてみてもらえるといいな、などと考えながらお部屋にうかがうと、20分程度しか経っていないのに、すでに食事を終えられていました。食べづらかったり、痛みが出たりはしなかったか確認すると、「いやーおいしかった!全部食べたよ!」と笑顔でいらっしゃいます。実際に食事をしているところは確認できなかったものの、おいしく召し上がっていただけたようでした。口腔外科の主治医の許可を得て、退院に向けて食上げしていくことになりました。

奥様と二人暮らし、調理担当は奥様で、ご本人は「何もしない」とのこと。「かぼちゃが好きで、スープをよくつくってくれるんだけど、ミキサーがないから、つぶしてつくっていた」というお話から、ミキサーがないこともわかりました。

学会分類4まで無理なく食べられたら食事の準備は楽かなと考え、手始めにお粥を粥ゼリーから全粥に変更してみたところ、「食べられなくはない」とのこと。しかしおかずを学会分類3に変更したところ「前(2−1)のほうがいい」とおっしゃり、主食のみ全粥に変更するところで落ち着きました。その後何度か食上げを試みてはみたものの、食形態の変更を希望されず、また変更してみると食事時間が長くなり疲労感がでてきてしまうため、食形態はこのままで退院の方向となりました。

「1日2食問題」は、経口摂取開始後は一度も口にされず、毎食しっかり完食していただくことができました。もともと噛んでいる歯も少なかったため、もしかしたら、ご自宅でのお食事が食べづらかったのかもしれません。食べづらかったから2食になったのかもしれず、時間をかけて食べていたのではなく、時間がかかってしまっていたのかもしれず、肉は嫌いなのではなくて、食べづらかったので挽き肉だけしか食べられなかったのかもしれず……。憶測ですが、そうした可能性は否定できませんでした。

調理担当の奥様に対し電話での栄養相談を実施

調理担当の奥様に、現在の食形態と、調理方法について栄養相談を行うことになりましたが、新型コロナウイルス対応で、病棟にご家族が入ることができません。電話での栄養相談は初めてではありませんが、食形態の説明がどうしても難しいと感じます。普段は、短期間での食上げが見込め、日常的に調理にミキサーを使用していない場合には、ミキサーの購入はお勧めしないのですが、今回は、ミキサーを使用した学会分類2の形態の食事摂取がとても良好だったので、購入をお勧めしました。
また、入院前と退院時では、常食から学会分類2へと食形態が変更となっている点から、3食摂取したほうが栄養量の確保によいと思いましたが、ご高齢の夫婦ですし、「病院では3食召し上がっていらっしゃいます」と伝えるにとどめ、ONS(経口的栄養補助)の補食を提案しました。ONSの購入はすぐには難しそうだったため、退院時処方を主治医に依頼し、飲み方をまず奥様に説明しました。

調理の工夫のパンフレットはご本人から奥様にお渡しいただくようお伝えし、市販食品のパンフレットも同封しました。直接お話しできず、電話での相談が不安そうだったので、退院後初回の外来受診の際にお話しできるよう調整する旨をお伝えしました。また、ご本人も「全部ミキサー使うのは大変だよな」と奥様の負担を気遣っておられたので、ご自分でもできますよ、と実際にミルミキサーを見ていただきながら調理の説明を行い、併せてONSのとり方について説明し、無事退院となりました。

少しの食形態の調整で摂取量が増えることはよくありますが、今回は食事回数も増えるというケースでした。食形態の調整に手間がかかるので準備が負担になってしまうのではというところが不安な点です。今後は退院後、再度食事摂取状況と体重および体調を確認し、フォローしていくことになります。

【おまけ】
今月は舌の手術をした4歳の患者さんがいました。偏食もあり、術後の経口摂取が進みません。食べづらさからなのか、嗜好が合わないからなのか、評価ができなかったのですが、お母さんのシチューを持参いただき、無事食べることができたので退院となりました。慣れ親しんだ味は偉大だなぁと感じました。(『ヘルスケア・レストラン』2020年12月号)

豊島瑞枝(東京医科歯科大学歯学部附属病院 管理栄養士)
とよしま・みずえ●大妻女子大学卒業。東京医科歯科大学医学部附属病院に入職後、2010年より東京医科歯科大学歯学部附属病院勤務となる。摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士、NST専門療法士、TNT-D管理栄養士、糖尿病療養指導士