栄養指導で”あるある!こんなこと”
第88回
薬を増やさず食事で降圧をめざす
納豆のタレの量調整がそのきっかけに

味覚は長年の習慣があり、なかでも減塩指導はなかなか受け入れが難しいですね。今回はある食品の調味料の調整がきっかけで塩味の閾値が下がったケースを紹介します。

納豆のタレを半分に減らす!?

今回ご紹介するDさんは高血圧症で10年近くクリニックを受診。降圧剤の服薬もされています。高血圧症以外に加齢による脂質異常症もあり、こちらも服薬をされている以外は至って元気で、糖尿病などほかの慢性疾患は有していない患者さんです。
栄養指導依頼時の血圧は143/90mmHgで、院長先生からは「以前は120/70~80mmHgで落ち着いていたが、最近やや高めになってきている。年齢もあるが薬を増やすよりは減塩指導をしてほしい」と指示がありました。

田村:Dさん、血圧が少し高くなっていらっしゃるってことですね

Dさん:はい。今までは薬で良い状態だったんですが、ここ最近高めな状態が続いています

田村:年齢も関係があるかとは思いますが、できれば薬を増やさず減塩をしてみませんか?

Dさん:この歳だし、ご飯がおいしくなくなると楽しみが減っちゃうけど……

田村:そうですよね。減塩はおいしくないってイメージがありますよね

Dさん:私なりにみそ汁は1日1回にしているし、麺類の時も汁をできるだけ飲まないように気を付けていたりしているんですが……

田村:すでに気を付けて頑張ってらっしゃるんですね。わかりました。その頑張りにプラスして、どこか見直せる部分があればやってみましょう。もちろん、もう十分減塩できているようでしたら今の食事で大丈夫です。一度点検の意味で普段のお食事内容についてお聞かせください

こんな会話のあと、いつもの食事内容の聞き取りを実施しました。聞き取りでわかったのは、①お漬け物を毎食食べること、②朝は必ず自家製梅干し1~2個でお茶を飲むこと、③納豆を毎朝食べる習慣があること、④週に4回は友人とランチに出かけること、でした。

田村:Dさん、ありがとうございます。今日は基本的なお話とお願いだけになりますが、今後は月1回ぐらい、食事のご様子を確認しながらお話をさせてもらってもいいでしょうか?

Dさん:はい、大丈夫です。よろしくお願いします

田村:ところでDさんは納豆を毎日召し上がりますか?

Dさん:はい、身体にいいでしょ?夜に食べることもありますが、朝か夜、1日1回は食べるようにしています

田村:よい習慣ですね。私も納豆はなるべく食べるようにしています。その納豆ですが、タレが付いているじゃないですか。あれは全部使いますか?

Dさん:はい。しっかりおしょうゆも混ぜたいので、タレに加えてしょうゆも少し使うんです。ダメですか?

田村:そうなんですね。意外にそういう方多いですね

Dさん:ご飯にしっかり載せて食べるので、タレだけじゃ物足りなくて……

田村:そうですよね。私も昔、タレが付き始めた頃、「全然足りない!」って思いました

Dさん:娘なんかはタレだけで十分って言っていますけど、私はどうも足りなくて……

田村:実は味覚ってすごく慣れるものなので、最初は物足りないなって思っても、1週間から10日ぐらいすると、結構慣れてくるものです。ちょっとやってみませんか?

Dさん:納豆?どうすればいいのですか?

田村:まずはおしょうゆを足すのを我慢してみませんか?タレだけで十分になります。さらに慣れたらタレを3分の2、半分と減らしていくのです

Dさん:タレを半分まで?

田村:そうなんです。これが意外と十分になるんです。私も徐々に減らしていったら、今は半分から3分の1で十分になりました。ほかの患者さんも最初はびっくりされるんですが、なかには何もかけないで食べちゃう人もいます。まぁそこまではしなくてもいいと思いますが

Dさん:そうなんですね。ちょっとどうなるか不安ですが、やってみます

田村:ぜひ試してみてください。そうするとほかの物も「こんなに塩辛かったんだ!」と気がつくと思います。ちなみに外食の際、味はいかがですか?

Dさん:いつもどれもおいしく食べていますよ

田村:そうですか。実は外食って誰が食べてもおいしくないとお店が流行らないので、少し濃いめの味付けなんです。外食で「少し塩辛いな」と感じる方は、ご自宅で減塩ができていると思います。また、お隣のおみそ汁を味見したことなんてないですよね。減塩しているようで、まだまだ塩辛い場合も多いです。外食の塩分が味覚の目安になります

Dさん:なるほどね

田村:朝の梅干しも気にはなりますが、徐々にやっていきましょう。まずは納豆から始めてみてください

Dさん:はい、やってみます

外食ってしょっぱい!

そんなお話をして、2回目の栄養指導を迎えました。

田村:その後、いかがですか?

Dさん:管理栄養士さんに言われて、その日の夜に早速納豆の減塩をやってみました。何だかおしょうゆをかけないと物足りなかったんですが、1週間ぐらいしたら娘が「あれ?おしょうゆをかけないの?」って。私も忘れていたんですが、すっかりタレだけで慣れていました。今はタレを3分の2ぐらいでやっています

田村:早速成果が出ましたね

Dさん:おしょうゆをかけるのが習慣になっていて、かけないといけないという感じだったんですね。味は十分でした

田村:そのほかはいかがですか?

Dさん:最近、家の梅干しが塩辛くて、毎日は食べられなくなりました。それと外食で店によっては「しょっぱい」と感じるようになりました。

田村:お店の味はそうそう変わってはいないはずですので、Dさんの味覚がしっかり薄味に慣れてきたってことですね

Dさん:娘がつくる野菜炒めとか、味が薄くていつもしょうゆをかけて食べていたんですが、最近は野菜の味がしっかり感じられて、薄味のほうがおいしいと感じるようになりました。味覚って普段の食事に慣らされているんですね?

田村:そうなんです。だから濃い味の物を食べているとどんどん濃い味が恋しくなりますが、薄味に慣れてくると塩辛さをすごく感じるようになりますね

Dさん:実は外食していても「味が濃い」って話す友人がいて、私は「そうかなぁ」なんて思っていましたが、最近は濃いって感じるようになりました

田村:ぜひ、お友だちとも今回の体験を共有してください。この調子ならお薬も増えずに済むかもしれませんね。あとはこれまでどおり、お野菜などもしっかりとってナトリウムの排泄も促していきましょうね

Dさんは、降圧剤の服薬量を増やさず、血圧は上が130mmHg台、下が80~90mmHg程度で推移するようになりました。朝の梅干しも友人に分けてもらった減塩の酢漬けに変えたそうです。(『ヘルスケア・レストラン』2020年11月号)

田村佳奈美
福島学院大学短期大学部
食物栄養学科講師
かとう内科クリニック 非常勤 管理栄養士

たむら・かなみ●療養病院、急性期病院での勤務を経て、2011年8月からフリーランスの管理栄養士として活躍中。福島県いわき市内のクリニックでの栄養指導や全国各地での講演活動、自宅で暮らす高齢者の栄養サポートにも力を入れている