栄養士が知っておくべき薬の知識
第111回
開発が進み種類が増えている
潰瘍性大腸炎の治療薬
総理大臣の辞任に関連し、少し前に話題となった潰瘍性大腸炎は、炎症性腸疾患の1つです。今回は、栄養管理も重要な治療となる潰瘍性大腸炎の薬物療法について述べます。
原因不明の非特異的腸疾患
潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis:UC)は、クローン病(Crohn’s disease:CD)とともに炎症性腸疾患(Inflammatory Bowel Disease:IBD)の1つです。同じ炎症性疾患でも細菌や薬によるなど、原因がはっきりしていれば特異的腸疾患といいます。しかし潰瘍性大腸炎とクローン病は原因がはっきりしないため非特異的腸疾患といわれ、いずれも国の難病指定を受けています。
潰瘍性大腸炎とクローン病の違いは、潰瘍性大腸炎は炎症部位が大腸に限局しているのに対して、クローン病は口腔から肛門まで消化管のどの部位にも炎症が起こるといったことが挙げられます。クローン病では栄養管理が大切ですが、潰瘍性大腸炎においても、食の欧米化によって患者数の増加が見られるといった疾患発症面での栄養学的リスクや、重症例では中心静脈栄養法を用いなければならないケースなどがあり、栄養管理が重要な疾患といえます。
潰瘍性大腸炎の症状や重症度
潰瘍性大腸炎は大腸の粘膜に炎症が起きて下痢や血便、腹痛、発熱、貧血などの症状を起こします。潰瘍性大腸炎の合併症は、腸管での狭窄や穿孔、大腸にガスが溜まって膨れ上がる巨大結腸症などと、眼症状、アフタ性口内炎、胆石や尿管結石、強直性脊椎炎、結節性紅斑や関節炎などさまざまな腸管以外の合併症を生じやすいことが知られています。また、経過が長く全大腸型の潰瘍性大腸炎では大腸がんの発症リスクが高いため、注意深く観察する必要があります。
潰瘍性大腸炎は、以前は比較的稀な疾患とされましたが、現在は毎年1万人程度のペースで増加しているとされます。これには内視鏡検査など診断方法の進展やこの疾患の認知度向上、また食生活の欧米化などによって患者数の大幅な増加があるとされます。若年者に多いですが小児や高齢者でも発症することがあります。
潰瘍性大腸炎の症状は直腸から始まることが多く、連続的に口側に広がっていくという経過を辿ります。その後、直腸だけに炎症が限局する直腸炎型や、炎症が脾彎曲部を越えない左側大腸炎型、大腸全体に炎症が広がる全大腸炎型などに分けられ、この違いによって使われる薬も異なります。たとえば大腸全般に炎症があれば経口薬で大腸全域に効果を示す薬の投与が必要になりますが、病変が限局していれば薬を肛門から入れるといった局所療法で間に合わせることもあります。
潰瘍性大腸炎は排便回数が多いほど重症です。それに血便を伴い貧血などを起こした場合、炎症によって熱発や頻脈となっている場合を特に重症と考えます。
潰瘍性大腸炎の治療薬
潰瘍性大腸炎の治療薬は最近になって種類が増えました。古くから使われているのがサラゾピリン®です。抗炎症作用のあるサラゾスルファピリジンや5-アミノサリチル酸製剤を含んだ薬で、1930年代に開発されたとても古い薬です。当初はリウマチに対する炎症治療に用いられました。サラゾピリンは体内でスルファピリジンと5-アミノサリチル酸(5-ASA)の酸性アゾ化合物で、大腸の腸内細菌で分解され、5-ASAが抗炎症作用を示します。サラゾピリンは黄色の錠剤で、服用中は汗や尿が黄色くなるため、あらかじめ患者さんへの説明が必要です。
抗炎症作用をもつ5-ASAだけを薬にしたのがメサラジン(ペンタサ®)です。小腸や大腸で溶け出すように開発された薬で、小腸にも効果を示すためクローン病にも用いられます。薬のコーティング剤に使われているエチルセルロースは水に溶けないため、糞便中に白いエチルセルロースそのものが見られることもありますが、心配はいりません。ペンタサは注腸用や坐薬など多種類の剤形があるのも特徴ですが、これらの剤形にはクローン病に効果はありません。
アサコール®も5-ASA製剤ですが、pHが7以上、すなわち大腸内で薬が溶け出すように開発された薬です。とても効果が高く、時の総理大臣が使って公務に復帰したとされる薬です。
同じ5-ASA製剤でリアルダ®も発売されています。リアルダはアサコールのようにPHによって薬の外側が溶け出すうえに、有効成分である5-ASAがよりゆっくりと溶け出すように工夫された製剤です。大腸で持続的に5-ASAが放出されることから1日1回服用すればよい薬となっています。潰瘍性大腸炎では、まずこれらの5-ASA製剤を投与して効果が確かめられます。また、病変が限局しているケースでは、5-ASAの注腸用の製剤が用いられますが、脾彎曲部より口側の炎症には効果が期待できず、また坐薬は直腸に病変がある場合にのみ用いられます。
5-ASA以外の治療薬
5-ASA製剤で効果が得られない場合は、強い抗炎症作用をもつステロイド剤(副腎皮質ホルモン)が用いられます。また、漬瘍性大腸炎は良くなったり悪くなったりを繰り返しますが、何らかの原因で病変が悪化した場合もステロイド剤の投与が必要になることがあります。ステロイドも病変の広がりによって、大腸全般に炎症がある場合では経口剤や注射剤などの全身投与を行い、病変が限局していれば注腸用を用います。
注腸用にはステロネマ®やプレドネマ®、ゼンタコート®やレクタブル®などが発売されていて、ステロイドの成分相違やステロイドの副作用の軽減といった面で違いがあります。ステロイド剤はどうしても副作用が強いため継続して使用することがためらわれる薬です。ステロイドでも十分な効果が得られない方もいます。こういった場合は血球成分除去療法や、高価ですが分子標的薬が用いられます。分子標的薬は関節リウマチにも使用されるインフリキシマブ(レミケード®点滴)やアダリムマブ(ヒュミラ®)、ゴリムマブ(シンポニー®)、ウステキヌマブ(ステラーラ®)などが使われます。いずれも注射薬でその面では患者負担の大きい薬です。
最近になって分子標的薬でも内服可能な薬が開発され、すでに発売されています。トファシチニブ(ゼルヤンツ®錠)です。このほかステロイドに反応しない場合には、免疫抑制剤のタクロリムスやアザチオプリン(イムラン®)や、保険適応はありませんがシクロスポリンやメルカプトプリン(ロイケリン®)などが用いられることがあります。
潰瘍性大腸炎の食事療法
潰瘍性大腸炎の活動期で重症の場合は、禁食として腸の安静を保つため中心静脈栄養が必要になる場合もあります。必要栄養量の増加やたんぱく質の喪失もあるため、十分な水分や熱量、たんぱく質(アミノ酸)を含めた栄養管理が求められます。また食事が開始になっても低脂肪で腸に負担をかけない低繊維食が推奨されています。
潰瘍性大腸炎は今後も増えるものと思います。便のカルプロテクチン量を測定して疾患活動性を反映する検査なども導入されています。このような指標を用いながら現状を知り、薬物療法だけでなく食事や運動療法によって緩解期を維持することが大切です。患者さんに食生活面の理解を得るような栄養指導がとても重要な疾患だと思います。(『ヘルスケア・レストラン』2020年11月号)
はやし・ひろゆき●1985年、日本大学理工学部薬学科卒業。88年、聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院勤務。2002年から同院NST事務局を務める。11年4月から日本大学薬学部薬物治療学研究室教授