“その人らしさ”を支える特養でのケア
第35回
穏やかな最期のための栄養管理とは

口から食べることが困難となっても、お楽しみ程度の経口摂取ができるよう模索することは少なくありません。では「まったく栄養補給をしない」となった場合には何ができるのでしょうか。最近、印象深い看取りケアを経験したので紹介します。

経管栄養も経口摂取もしないということ

「Aさんの嚥下機能は廃絶しているという診断で経口摂取はできません。ご家族は経管栄養への移行はせず、施設での看取りを希望されました」

これは入院中のAさんの状況を伝えてくれた生活相談員のコメントです。このあと、退院するAさんの受け入れに向け準備が始まりました。
特養で「経管栄養も経口摂取もしない」ことは「栄養補給ができない」ことを意味します。これまでも、入院中に重度の嚥下障害と診断され、著しい経口摂取量の低下(1回に2~3口程度)を来したご利用者が看取りケアに移行し、旅立たれた事例はいくつかありましたが、「まったく食べられない」と病院から申し送られたことは初めてでした。

Aさんは当施設に入居した時、すでに重度の認知症であったと記憶しています。徐々に経口摂取が難しくなり、最初に誤嚥性肺炎で入院したのが約1年前のこと。その際の退院時にも「経口摂取は数口が限界」と申し送りがありました。とはいえ、退院直後は数口だった経口摂取量も徐々に改善し、BEEぎりぎりくらいの摂取量を維持できていました。しかし、この時から約1年経過し、随意的な嚥下が困難であることや、口腔内に食材をため込んでしまうことなど、問題が多くなってきていたなかで誤嚥性肺炎を再発してしまいました。

退院日も決まり、「口から食べられないから食事提供をしない」という前提で受け入れ準備が進んでいましたし、「廃絶」という単語が入院先の医師の病状説明で出たものだと聞くと、その意味の重さのために「食べているところを見てから詳細な対応を決めよう」という、いつもの流れにはなりません。
病院に勤務していた頃は、非経口摂取での栄養補給は当たり前の選択肢でしたし、正直、経口摂取より多くの症例にかかわっていたと思います。経口摂取できなければ、また不十分であれば非経口摂取を選択するのが当たり前で、栄養補給経路に困る、ということはありませんでしたし、管理栄養士がかかわっていて栄養補給を行わないこともありませんでした。
「戻ってきて、どのくらい施設で過ごせるだろうか」と他職種と話すこともあり、1週間あるかないかとも想像される短い期間で、苦痛がないことや少しでも楽しみを提供するにはどうすればよいのか、悩みました。

栄養補給をしない方へ管理栄養士は何ができるか

「栄養のプラン、なしにする?」退院後のケアプランをどうするべきか悩んでいたところに、ケアマネジャーがやってきてそう言いました。
栄養補給を行わないご利用者に栄養プランは必要ないのではないか、と思う一方で、そうするのは諦めではないか、と葛藤していた私は、正直に悩んでいることを伝え、介護職員の思いを聞いてから決めたいけれど、味を感じるような対応はできるのではないか、と思っていると伝えました。もしかしたら、また食べられるようになるのではないか、と淡い期待もありました。

当施設では、経管栄養のご利用者で嘱託医からの指示で少量の経口摂取を行っている方がいます。お楽しみとして提供されるそれは、対象者によって数口から、スプーンが濡れている程度のものまでさまざまです。このことから、Aさんにも唾液となじむ程度のごく少量なら提供可能なのではないか、と考えました。
退院の受け入れカンファレンスの前に介護職員と話すと「ダメだってわかっているけど、食べさせてあげたいんだ」と諦めていない様子でした。私はケアマネジャーに伝えた内容を話し介護職員の賛同を得て暫定のプランを作成しました。カンファレンスでも「状況が良ければ、味を楽しめる程度にかかわろう」と決まりました。

退院当日は、歯科衛生士の口腔ケアに同席する形で、口腔内の状況や嚥下の発生、嘔吐反射の有無などを確認しましたが、ケアにより乾燥気味の口腔内が潤った結果、弱々しくむせている様子を見ると、やはり経口摂取は難しそうに思えました。味を感じるように少量の砂糖水やはちみつなどの提供を考えていましたが、味を感じることによって唾液分泌が促進されるのも、Aさんの苦痛につながるのではないか、と怖くなってしまったのです。

翌日以降も口腔ケアや唾液腺マッサージなど、口腔内の衛生を保てるようにかかわっていきました。訪室し話しかけると、Aさんは大きな目を開けてじっと見つめてくださいます。さまざまな職種が入れ替わりに居室へ訪問していましたし、時にはベッドごとデイルームで過ごされる時もありました。デイルームではほかのご利用者の様子がわかるのか、きょろきょろと視線を動かされていたのが印象的でした。

Aさんは退院から10日後に、皆に見守られ眠るように旅立たれました。亡くなる前に嘱託医から「少量の水分なら」と許可が下り、経口摂取はその日に水分補給ゼリーを数口飲まれただけでした。
今回のAさんの事例は「まったく経口摂取をしない」ご利用者の受け入れに対し、管理栄養士の枠から外れてご利用者を支える一人として何をするかを考える、よいきっかけになったと思います。

亡くなられたAさんの枕もとで、当日担当のベテラン看護師が、「死期が近づくと徐々に食べられなくなるし、自然な摂取量低下に任せたほうが最期が穏やかだ」と話してくれました。すでに何例も看取りケアを経験し看護師のコメントを実感していたはずですが、その事実を目の当たりにしました。正直「食べてくれないと仕事がないなぁ」と感じてしまっていましたが、栄養補給しないことが「穏やかな最期のための栄養管理」なのかもしれません。
介護にかかわる人間として「その方にとっての穏やかな最期」を支えたいと気持ちを新たにしました。(『ヘルスケア・レストラン』2020年11月号)

横山奈津代
特別養護老人ホーム ブナの里
よこやま・なつよ
1999年、北里大学保健衛生専門学校臨床栄養科を卒業。その後、長野市民病院臨床栄養研修生として宮澤靖先生に師事。2000年、JA茨城厚生連茨城西南医療センター病院に入職。同院の栄養サポートチームの設立と同時にチームへ参画。管理栄養士免許取得。08年、JA茨城厚生連茨城西南医療センター病院を退職し、社会福祉法人妙心福祉会特別養護老人ホームブナの里開設準備室へ入職。09年、社会福祉法人妙心福祉会特別養護老人ホームブナの里へ入職し、現在に至る