栄養指導で”あるある!こんなこと”
第87回
大切なのは周囲の食事療法についての理解と支え
友達のサポートを力にゴールを達成する
今回ご紹介する患者さんは糖尿病で長く他院に通院されていた方です。9月に白内障の手術を予定していますが、今の血糖状態では手術ができないと栄養指導と血糖コントロール目的で来られました。
白内障手術をめざして血糖コントロールを図る
今年6月に当クリニックに紹介されて来院。紹介時の患者さんは、72歳女性、身長143cm、体重54kg(BMI26.4kg/㎡、標準体重:45.0kg)、血糖値は274g/dl、HbA1cは12.5%とかなり高値の状態でした。院長からの指示書には「9月の白内障の手術予定まで何とかHbA1cを一桁、できれば9%台まで下がるよう、栄養指導をお願いします」と記されていました。
田村:Cさん、9月に白内障の手術予定ですか?
Cさん:はい。今のままでは手術ができないと言われて、こちらに紹介となりました
田村:今までも治療は?
Cさん:内科の先生に診てもらっていて服薬もしていました
田村:それでは、少し食事について質問しますので教えていただけますか?
いつものように食事について質問をしました。
田村:ありがとうございます。すでにいくつかご自身で頑張って始めていらっしゃるところもあるようですが、今日は食事の基本についてお話しします。手術まであまり時間がありませんので、しっかり頑張っていきましょう
Cさん:これまで薬を飲んでいるし、あまり食事は気にもせずサボっていたので、今回こんなことになって、ハッとしました。何とか無事に手術を受けられるように頑張ろうと思います
田村:私も一緒に頑張りますので、まずは目標の手術に向けてですね
今回は手術まで約3カ月という限られた期間で、また血糖値もかなり高い状態からの栄養指導でしたが、まずはいつもどおり、「野菜」や海藻、きのこなどの食物繊維の摂取」「食べる順番」「ゆっくりよく噛んで食べる」「間食や飲み物などの留意点」といった基本的なお話をして、しっかり頑張っていただくようお話ししました。そして、さらにもう一点……。
田村:Cさんは主食の量は一定ですか?
Cさん:この病気になってご飯は1杯と決めています
田村:そうですか。その1杯は量ってみたことってありますかね?
Cさん:いや、量ってみたことまではないです
田村:お家に量りってありますか?
Cさん:あったと思います。ほとんど使っていませんが……
田村:そしたら何回か普段食べている主食の量、特にご飯を量ってみましょう。Cさんでしたら、そうですね、1回120~130gのご飯にしましょう。もし、今食べているご飯の量がこれより少なかったら増やす必要はありませんが、もし多かったら120~130gにしてみましょう。その分、野菜などは増やして食べてください
Cさん:わかりました
田村:外食もお友だちと週に1~2回ですね。できるだけ外食の際も普段と同じ主食の量にしてみましょう。残すか、残すのはちょっとと思う場合は、はじめから少なめに盛ってもらうようお願いしてみてください。対応していただけます
Cさん:そうなんですね。知らなかった。やってみます
田村:慣れるまでは少しの期間つらいかもしれませんが、一緒に頑張ってみましょう
こんな会話と食事のとり方のポイントをお話しして1回目の栄養指導は終了しました。そして2回目です。
Cさん:おはようございます。管理栄養士さん、とってもドキドキしながら来ました。検査の結果、どうでしょう?
田村:同じく私も心配でした。見てみましょうね
Cさん:はい
田村:よかった。下がりましたよ
Cさん:そうですか?
田村・体重が54kg→52kg、血糖値は274→175g/dl、HbA1cが12.5→10.9%です。素晴らしいです
Cさん:少し安心しました。でもまだまだですね
田村:確かに目標が短期間でHbA1c9%台と厳しいですが、頑張りましょう。大丈夫ですよ
Cさん:はい、とりあえず下がってくれてほっとしました
田村:ところで食事のほうはどうですか?結果が出ているのでかなり頑張っていると思いますが
Cさん:はい、主食は量って食べています。やっぱりこれまで少し多かったみたいで、130gに減らしました。お代わりも時々しちゃってましたが、今は我慢しています
田村:つらくはないですか?
Cさん:最初の1、2週間はお腹が空いて間食もしてしまっていてつらかったですが、かなり慣れました
田村:その間食ですが、絶対だめではないのでストレスにならない程度に量を決めて、たまにはとってくださいね
Cさん:時々、チョコレートを2粒とか、お饅頭の小さいの1個ぐらいは食べることはあります。大丈夫ですか?
田村:ちゃんと数値も下がっているので、今の感じなら大丈夫ですよ。むやみに食べずにちゃんと量を決めて食べること。それって大切ですよね。あと何か困っていることはないですか?
Cさん:実は外食の時、主食を残したり、少なく頼むのが気が引けて……友だちもいるし
田村:そうなんですね。たとえば、お友だちに理由を話して宣言してしまうって手もありますよ。今回は手術予定もあるし、血糖がちょっと高くて今手術に向けて血糖調整中ってことでどうでしょう。話してしまうと意外とお友だちも協力してくださいますよ
Cさん:知らないから、話してないからいろいろ逆に勧められるんですね。今度思い切って話してみます
友だちの協力で好循環検査数値が大幅に改善
そして手術前の8月、3回目の栄養指導では……。
田村:Cさん、すごい!頑張りましたね
Cさん:下がりましたか?
田村:はい!体重は54→52→51kg、血糖値は274→175→122g/dl、HbA1cは12.5→10.9→9.1%でした。目標の9%台、それも9.1%ですよ
Cさん:管理栄養士さんに言われたように友だちに話したら、「食べ過ぎじゃないか?」とか、「こうするといいよ」とか、「お菓子なども今はダメね」って買ってくるのを控えてくれたり、すごく協力してもらえました
田村:そうですか。よかったです
Cさん:先生にもよく頑張ったねって褒めてもらえて……。もう何十年も糖尿病でしたが、食事でこんなに変わるなんて、もっと早く食事について学ぶべきでした
田村:基本をCさんがしっかり実践してくれたからです
Cさん:今回は話を聞いてやってみてよかったです。ありがとうございました
結果Cさんは翌月、無事に白内障の手術を受けることができました。患者さんの頑張りに私も感動した事例です。(『ヘルスケア・レストラン』2020年10月号)
福島学院大学短期大学部
食物栄養学科講師
かとう内科クリニック 非常勤 管理栄養士
たむら・かなみ●療養病院、急性期病院での勤務を経て、2011年8月からフリーランスの管理栄養士として活躍中。福島県いわき市内のクリニックでの栄養指導や全国各地での講演活動、自宅で暮らす高齢者の栄養サポートにも力を入れている