食べることの希望をつなごう
第31回
何気なく行っているけれども奥が深いとろみづけ

摂食嚥下障害のある方に対する液体のとろみづけは、管理栄養士であれば身近だと思います。しかし、改めて考えてみると、患者さんへの指導には細かな工夫が必要ですし、とろみの濃度はもちろん、飲み方も考えた判断が大切になります。

とろみをつけることで液体の摂取が楽になる

先日、摂食・嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2013に出品した調理実習を行う機会をいただきました。普段何気なく行っているとろみづけについて、日常業務である栄養相談の内容を整理し見直すよい機会となり、私自身の学びにもなりました。この調理実習については、また機会があればご紹介したいと思いますが、今回はとろみについて掘り下げてみたいと思います。

摂食嚥下障害のある患者さんに、液体のとろみづけの指示が出ることは、よくあることだと思います。ご存じのように、液体は誤嚥のリスクの高い食形態ですが、とろみをつけることにより誤嚥せずに飲めるようになることが多いです。
むせは誤様を疑う最もわかりやすい症状だと思いますが、「液体を飲むとむせる」「お粥でむせる」「食べはじめにむせる」など、むせる原因の食物や、どういう時にむせるのかを確認することで、原因を推測することができます(もちろん、むせない誤嚥〈不顕性誤嚥〉もあるので、むせだけを指標とするのは危険です)。

たとえば、お茶でむせるけれど、牛乳や飲むヨーグルト、濃厚流動食などはむせない場合があります。ごくごく薄いとろみがついていれば、液体の流入速度と嚥下反射のタイミングがずれずに飲み込めるのでしょう。むせは誰でも経験があると思いますが、大変苦しいものです。むせにより食事が進まないどころか、疲労感も出てきてしまいます。少しのとろみで食事摂取や水分摂取が楽になることがあるのは、皆さんご存じのとおりです。

とろみをつける時のダマができる問題

とろみづけが必要となった場合、患者さんに、とろみ調整食品(とろみ剤)をご購入いただき、好きなタイミングで水分補給ができるよう、とろみづけの練習をします。当院で使用しているとろみ剤は、0.5%、1%、1.5%、2%の濃度で使用される患者さんが多いため、1gの分包をご用意いただき、液体の量に対するとろみ剤の量を調整することになります。

とろみ剤の小さい袋を開ける際や、スプーンでかき混ぜる時に手間取り時間がかかると、ダマができてしまうのは、皆さんもご経験があるのではないでしょうか。ご高齢の方だけでなく、がんの術後の患者さんのなかには、腕や肩甲骨から皮弁を移植する方がおり、手の動きがよくない方もいらっしゃるため、とろみづけの練習には工夫が必要です。
最近のとろみ剤は素早く溶けるのも特徴ですが、とろみが早くつくことも売りになっています。そのため、100gの液体に2gのとろみ剤を入れたい場合、1gのとろみ剤を開けて入れてとろみをつけて、そこにさらに1gのとろみ剤を足す、という方法では、とろみ水にとろみをつけることになるので、かなりの確率でダマができてしまいます。「あらかじめ使う分のとろみ剤をすぐに入れられる状態に準備する」という説明は欠かせません。

液体を利き手で撹拌しながら、反対の手でとろみ剤を入れるという方法ですと、ほぼダマはできないのですが、このような高度な技を難なくできる方は、ご想像のとおりあまりいらっしゃいません。ですので、前述のようにとろみ剤をあらかじめ用意しておき、コッブの液体に一気に入れ、よく撹拌する、という方法だとダマができにくいようです。

万が一、ダマができてしまった場合は完全に取り除きます。大きなダマが見える程度にできている場合はスプーンで取り除けますが、細かいダマがたくさんできてしまった場合はつくり直しをおすすめしています。ダマは口の中やのどに張り付いてしまい危ないということを説明し、「まあいいや」と飲んでしまうことがないように注意しています。

とろみの濃度だけでなく飲み方の確認も大切

当院では、嚥下造影検査の際、かなり詳細に検査をします。液体が安全に飲めるのか、誤嚥してしまうのかということだけではなく、
①「どのくらいのとろみがあれば誤嚥しないで済むのか」というとろみの濃度について、
②「一口の量がどのくらいだったら大丈夫なのか」という量について確認します。コップで飲めるのか、スプーンで一口ずつのほうが安全なのか、体位や代償法はどうするか。
さまざまなパターンで検査を行い、安全に、実現可能な方法で水分補給できるという落としどころを見つけていきます。

たかがとろみですが、とろみがついていることで水分摂取が進まなくなる場合はよくあります。実際に飲んでみると、薄いとろみでもおなかに溜まった感じがあり、濃いとろみでは100cc食べても(あえて「食べる」とさせていただきます)のどが潤った感じはなく、むしろ液体で流したくなってしまいました。「とろみは濃ければ濃いほど安全だと思っていた」という方もいらっしゃるのですが、摂取量が減ってしまったり、逆に危険な場合もあるので、自己流で濃くしたり薄くしたりというのは避けたほうがよいこともお伝えしています。

また、普段内服している薬がある場合には、錠剤が液体で飲めるのかどうかも検査します。液体のみ摂取する場合にはとろみが必要なくても、錠剤を内服する際にかぎり誤嚥が認められることがあるためです。

このように、「液体にとろみが必要」という指示だけではわからない、とろみの濃度、飲み方や代償法、さらには内服の際の場合などの詳細を確認し、対応していくことが大切だと思います。
以前ある歯科医師の先生に「摂食嚥下障害のある患者さんは、不当においしくないものを食べさせられている」と言われたことがあります。不必要な形態調整が食欲低下につながってしまうことは避けるべきですし、調理担当者の負担を減らすためにも、必要最低限の食形態の調整で食べていただくことは重要です。そのためには、その形態調整が本当に必要なのか、定期的に見直していくことが必要だと思います。

食事にかかる時間が短くなってきた、むせが減った、おしゃべりが聞き取りやすくなったなど、「摂食嚥下機能が改善傾向にあるのでは?」というサインを見逃さず、適宜食形態の変更につなげて、患者さんの生活や食事の楽しみの手助けをすることはもちろん、「『形態調整=おいしくない』ではないんですよ!」とお伝えできるよう、調理の工夫を楽しんでいきたいと思います。(『ヘルスケア・レストラン』2020年10月号)

豊島瑞枝(東京医科歯科大学歯学部附属病院 管理栄養士)
とよしま・みずえ●大妻女子大学卒業。東京医科歯科大学医学部附属病院に入職後、2010年より東京医科歯科大学歯学部附属病院勤務となる。摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士、NST専門療法士、TNT-D管理栄養士、糖尿病療養指導士