栄養指導で”あるある!こんなこと”
第86回
新型コロナウイルス対策のつもりが血糖値の悪化を招く食生活につながった

今回ご紹介する患者さんは、糖尿病で通院歴が長く、私の栄養相談を1年ほど受けてくださっている患者さんです。

仕事で生活が昼夜逆転し血糖値と体重が増加

Bさんの年齢は68歳。まだ現役でホテルのフロント業をされています。しかし、勤務が夜勤帯のため、当初は食事時間や食事内容が不規則で血糖コントロールに苦慮した患者さんでした。栄養相談を最初に受けた時の数値は血糖値165mg/dl、HbA1cは9.8%でした。体格も大きく、身長160cm体重78kgでBMIは30.5kg/㎡でした。
主治医からは血糖コントロールと減量のための食事指導をとの指示でした。患者さんは夜勤の際、夜中の11時頃が休憩のため、夕食はその時間に配達してもらえる中華屋さんの定食か、ラーメンなどの麺類を毎日食べている状態でした。そして朝5時に仕事が終わると自宅に帰り、お風呂に入っておにぎりや菓子パンなどを軽く食べて就寝し、午後の1時か2時に起きて家事。夕方の4時頃に食事をとって出勤するという生活パターンでした。

田村:こんにちは。今日も体重からお願いします。

Bさん:はい

田村:72kg、いいですね。この8カ月で6kg落ちましたね

Bさん:はい、身体が軽いです。管理栄養士さんに言われて、夜食も考えて野菜がとれるメニューにしました。ご飯は半分にしてもらって、朝帰ってからはサラダや野菜スープを食べて寝る……。「それぐらいならできるかも」とやってみたら、増えていた体重が減って、すごくうれしいです

田村:それだけじゃないですよね。血糖値も100mg/dl前後。HbA1cも9%後半だったのが今では7.1%。6%台ももうすぐです

こんなやりとりをして、大変順調だったのは栄養指導開始から8カ月が経った頃でした。体重は6kg減、HbA1cも9.8%→7.1%。Bさんは血糖が高くなっていると知った時には一時、今の仕事は辞めないといけないかと思ったともおっしゃっていました。実践してもらった内容は、①夕食は野菜が多くとれるメニューにする(野菜炒め定食、回鍋肉定食、青椒肉絲定食、タンメン、もやしラーメンなど)、②仕事が終わって就寝前に食べる物は、野菜サラダや野菜のスープなど軽い物にする、③仕事前に食べる物はなるべく野菜や海藻などをとるようにする。この3点と糖尿病の食事の基本である主食の量をできるだけ一定にするというものでした。好結果から年末年始を挟み、夏が近づいて来た頃……。

田村:こんにちは。お変わりはありませんか?

Bさん:こんにちは。仕事もまだ頑張っています

田村:最近じわりと体重が増えていますね

Bさん:そうなんです。食事は変ってないんですが……

田村:甘い物を食べちゃうとか?飲み物も大丈夫ですか?

Bさん:はい、冬場は焼きいもを食べちゃって……。それも管理栄養士さんに言われてからは、そんなには食べてないです。

田村:そうですか。振り返ってみると、体重が一番落ちた頃より4kg増えちゃいましたね。そしてHbA1cも7.1%が一番よくて、ちょっと上がってきて、今日は8.2%でした

Bさん:8%を超えちゃいました?

田村:はい。ここ3~4カ月じわりじわりだったので一見、「ちょっと体重増えたかな?」って印象でしたが、4カ月前と比べるとぐっと上がりましたね。これは何かあるはずなんですが……。

Bさん:何でしょう?確かにお腹のあたりとかも苦しいんです

田村:お仕事の休憩の際の食事も変化はないですか?

Bさん:はい。できるだけお野菜がとれる定食にして、ご飯も決めた量にしてもらっています。それはずっと変らないです

田村:朝食や帰ってからの食事も?

Bさん:はい

田村:何でしょようね?来月までちょっと様子みましょうか?

Bさん:はい。運動でもできればよいのでしょうが……

田村:そうですね。でも、お仕事もあるし難しいと思いますので食事でまた頑張ってみましょう。とりあえず来月まで、様子をみてみましょう

Bさん:よろしくお願いします

身体にいいと思っていた物が実は増悪結果の原因に

そして翌月……。

田村:こんにちは

Bさん:よろしくお願いします

田村:体重からお願いします

Bさん:今月はどうでしょう?緊張します

田村:はい、ありがとうございます。ん~先月と比べて1kgまた増えちゃいました。HbA1cは8.2%から8·4%ですね

Bさん:……もしかして、ヨーグルトって悪いですか?

田村:ヨーグルトですか?タイプにもよりますが、ヨーグルト自体は大丈夫ですよ

Bさん:飲むヨーグルトなんですが

田村:甘いやつですか?

Bさん:甘いっていうか、飲みやすいやつです

田村:甘いやつですね。毎日飲みますか?

Bさん:ヨーグルトだから腸とか免疫とかによいと思って。今、コロナだし……

田村:確かによいのですが、ドリンクタイプにはかなり糖分が入っています

Bさん:そうなんですか?実は大きなパックで買って2日で飲んでしまってました

田村:えっ?小さなのを1本ではなくて?

Bさん:はい……

田村:そうですか。それが体重増加、HbA1cの数値上昇に関係している可能性が高いですね。ちなみにいつから飲まれていますか?

Bさん:ちょうどコロナが流行り出た時からなので、1~2月頃からです

田村:体重が増え出したのが3月頃からで、数値も上がってきたのが4月ぐらいから……。時期的には一致していますね

Bさん:はぁ……

田村:飲むヨーグルト1本分の糖分を砂糖に置き換えると、200g(コップ1杯)で砂糖25gほど、1日2杯飲むと50gの砂糖ですね。コップ2杯で角砂糖にすると12個分になります

Bさん:そんなにですか!?

田村:はい。飲まれていておいしかったでしょ?

Bさん:はい。飲みやすくて、身体にもよいと思っていました

田村:ヨーグルト自体は身体によいのですが、甘い糖分が問題なんです

Bさん:それですな、原因は

田村:ですね。砂糖50gとすると1日200kcal、1ヶ月6000kcal、これだけで1カ月1kg弱体重が増える計算です。体重が増えた頃から換算しても合っていますね

Bさん:きょう、習買って帰ろうと思っていたのですが、もうやめます

田村:そうですね。甘くないプレーンのヨーグルトを食べましょう。そうそう、最近プレーンヨーグルトにも砂糖が付いていないでしょ?昔は付いてましたが

Bさん:そうでしたね。昔は付いてましたね

田村:飲むヨーグルトだと大抵は最初から甘いので、調整しようがないですからね

結果、Bさんは翌月、飲むヨーグルトをやめただけで体重が1kg近く減りました。さらに3カ月後にはHbA1cが8.4%→8.5%→8.1%と改善傾向を示し、今ではHbA1cは7.5%前後、体重は5kgほど落ちました。(『ヘルスケア・レストラン』2020年9月号)

田村佳奈美
福島学院大学短期大学部
食物栄養学科講師
かとう内科クリニック 非常勤 管理栄養士

たむら・かなみ●療養病院、急性期病院での勤務を経て、2011年8月からフリーランスの管理栄養士として活躍中。福島県いわき市内のクリニックでの栄養指導や全国各地での講演活動、自宅で暮らす高齢者の栄養サポートにも力を入れている

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