お世話するココロ
第120回
感染予防と使い捨て
7月1日からいよいよレジ袋(買い物用プラスチック袋)が有料化されました。一方で、コロナ禍によって大量のプラスチックが捨てられるようになっています。このバランスをどのようにとればよいでしょう。
レジ袋かエコバッグか
私が日頃お付き合いしている人のなかには、以前から環境問題を考え、プラスチックゴミの減量に取り組んできた人たちがたくさんいます。
その人たちは、当然ながらペットボトルもレジ袋もNG。それが流行になる前からマイボトル、エコバッグを使い、その普及に努めてきました。
そして、7月1日。ついにコンビニ、スーパー、そのほかのお店でレジ袋が有料化されました。今後は有料のレジ袋を買うか、エコバッグを持参するか。2つに1つを選ばなければなりません。
思い返せば、レジ袋の削減をめざした取り組みは、7月1日の有料化以前にもいろいろな店が取り組んでいました。たとえば、以下のような方法です。
・レジ袋を辞退すると、サービスポイントがつく
・レジ袋を辞退すると、2円程度安くなる
これらはレジ袋をもらう人に課金するか、もらわない人に値引するかの違いで、レジ袋をもらうとコストがかかるという意味では、似たような話です。それでも、人間の心理として、値引きしてもらえないよりも、課金されるほうが負担感は大きいのでしょう。
今回の有料化の効果を見ていきたいと思います。
このように、ようやく本格実施となったレジ袋の有料化ですが、ここに来て、新型コロナウイルス感染症により、思わぬ逆風が吹いています。
感染予防の見地から、最もよいのは使い捨て。日本とは桁違いの死亡者を出しているアメリカでは、エコバッグの持ち込みを禁止する洲もあるそうです。
この件について、日本の報道では、「エコバッグだけを気にしても意味がない。確かにレジ袋は清潔な印象だが、店員が触れており、リスクが低いという根拠はない」との専門家の話を紹介しています 1)。
また、この記事には、日本の場合、スーパーでは店員が商品を詰める米国と違い、自分で商品を詰める分、リスクは低いとも書かれていました。
テイクアウトで増えるプラスチックのゴミ
私は報じられた専門家の見解には、納得できます。ですから、今もエコバッグを使い続け、特に不安はありません。ただ、これは人それぞれの感覚。ほかの人のやり方に意見するつもりはないのです。
しかし、レジ袋削減は何とか進むとしても、コロナ禍は一時的にであれ、プラスチックのゴミを増やすことは間違いありません。たとえば、私自身もこんな光景を目にしています。
私は訪問看護をする日は、弁当屋やスーパーで弁当を買い、職場で食べるのがいつものパターン。お店によっては、大皿に盛られた惣菜をトングを使って取り、自分で袋やパックに入れる、セルフ方式の総菜が置かれていました。
ところがコロナウイルスが問題になった春以降、こうしたセルフ方式はほぼ消滅。あらかじめプラスチック容器に取り分けられ、売られるようになっています。何種類かの惣菜を買えば、その種類だけのプラスチック容器がついてくるのです。
また、最近入った大手カフェチェーンでは、以前はグラスで出していたはずの冷たい飲み物を、プラスチック容器で提供していました。マイカップ持参で割引するサービスを休止したチェーンもあるそうで、エコよりも感染防止を優先せざるを得ない事情は、どこも同じなのでしょう。
さらに、外食に代わるテイクアウトやデリバリーでは、プラスチック容器が大量に使われ、家庭ゴミとして廃棄されます。自治体によってはプラスチックごみが1割前後増えているところもあり、この増加がいつまで続くかが懸念されます。
現在でも日本は、アメリカに次ぐ世界第2位のプラスチックゴミ排出国。政府は昨年「プラスチック資源循環戦略」を策定し、2030年までに使い捨てプラスチック排出量を25%削減する目標を立てています。
プラスチックゴミの増加は、日本に限らず、全世界的な現象でしょう。今すぐに解決できなくとも、問題意識を持ち続けなければいけないと強く感じています。
ただごとでない医療廃棄物の量
医療現場に目を向けると、使い捨てへの移行は止まりません。
たとえば、注射器。私が看護師になって間もない30年ほど前でも、大きな病院は使い捨て注射器が主流でした。けれども、直接患者さんに使わない点滴準備などには、ガラス製注射器がまだ使われていたんですよ。
しかし、その後注射器はすべて使い捨てに代わりました。浣腸用のチューブ、吸引用のチューブなど次々に使い捨てになり、今ではリユースするものを思い浮かべるのが至難の業になるほどです。
実際、環境への影響があったとしても、感染防止にはやはり何より効果的なのが使い捨て。これが損ねられるとどうなるかも、今回のコロナ禍でよくわかりました。
第一波の大流行で、院内感染が頻発したのは、供給不足に陥ったマスクやガウンなど、本来使い捨てるものを複数回使ったことも関係あるでしょう。やはり医療現場での使い捨ては止めるべきではない。改めて、それを再確認した次第です。
そして、このようにして出てくる医療廃棄物は、プラスチックに限らず、すごい量になります。これに家庭で出るマスクや使い捨て手袋を入れればいったいどれだけゴミが増えるのか。見当もつきません。
多くの人と同じように、私も、環境保護への貢献はしなければならないと考え、エコバッグ、マイボトルはすでに活用しています。
一方で、今もペットボトルの飲料は飲むし、無料なうちはレジ袋ももらってきました。やはり便利さを優先している面はあり、ある程度はそんなチョイスを許容しています。
しかし、コロナ禍における使い捨ての増加を思うと、少しでも自分にできることをしなければという気持ちが強くなります。そんな気持ちから私は、マスクについてはリユースできる布製を主に使っています。
残念ながら、感染防止と使い捨てによる環境悪化は、トレードオフの関係にあります。多少でも医療にかかわる人間は、そのことを理解したうえで、それぞれの選択をしていきたいものです。(『ヘルスケア・レストラン』2020年9月号)
1)エコバッグ、コロナリスクは?専門家「気にし過ぎ不要」―レジ袋有料化,時事通信,2020/7/1
https://www.jiji.com/jc/article?k=2020063000730&g=soc
みやこ・あずさ●1987年、東京厚生年金看護専門学校卒業後、2009年3月まで看護師としてさまざまな診療科に勤務。13年、東京女子医科大学大学院博士後期課程修了。博士(看護学)。現在は精神科病院の訪問看護室に勤務(非常勤)。長年、医療系雑誌などに小説やエッセイを執筆。講演活動も行う。看護師が楽しみながら仕事を続けていける環境づくりに取り組んでいる。近著に「宮子式シンプル思考 主任看護師の役割・判断・行動力」(日総研出版)がある