栄養士が知っておくべき薬の知識
第109回
研究が進むCOVID-19治療薬
論文を読み解き試験情報を得よう

皆様は今、日々新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と戦っているかと思います。今回は時期尚早かとも思いますが、現在までのCOVID-19治療薬について述べたいと思います。あくまで現時点(7月初旬)でのまとめになることにご注意ください。

レムデシビル

現在、COVID-19に対する各薬剤の効果、安全性を確かめるため、急ピッチで臨床試験が進行中です。COVID-19の治療薬として期待される薬は、主にウイルスの増殖を抑える薬とウイルスによる免疫異常を鎮める薬に分けられます。
現在、本邦で唯一国の承認を受けているCOVID-19治療薬は、レムデシビル(ベクルリー®)という注射薬です。もともとエボラ出血熱用につくられました。エボラウイルスは新型コロナウイルスと同様、エンベロープをもつRNAウイルスです。

ウイルスは何かに寄生しないと増殖できない特性をもっています。ウイルスが細胞内に入ると核酸(RNA)をつくられ、逆転写酵素によってDNAがつくられます。DNAが設計図となって新たなウイルスをつくり増殖していきます。レムデシビルはRNAからDNAがつくられるのを抑える働きがあります。

レムデシビルの効果と安全性

COVID-19にかかったかどうかをPCR検査で調べ対象者を抽出し、レムデシビルの効果と安全性を確認する試験が行われています。Remdesivir for the Treatment of Covid-19 Preliminary Reportという、NEJMというとても権威ある雑誌に掲載された論文です。対象者を8つのグループに分けて検討しています。すなわち入院していなくて活動制限もない軽症の人、酸素吸入が必要な人、入院して酸素吸入を受けている人、NIPPVという非侵襲的な酸素吸入が必要な人、ECMOという血液に酸素を送り込むような特殊な装置を必要とする人などです。

8つの重症度が異なる患者さんにレムデシビルとプラセボ(偽薬)を使い、死亡率をはじめ酸素吸入が必要なくなった、特殊な機械を外すことができた、などの臨床的な改善度でレムデシビルの効果を調べています。通常、プラセボを使用することは禁じられますが、治療薬のない現状では仕方のない試験方法です。
死亡率では対象者全体ではレムデシビルとプラセボで差がつかなかったそうです。ただし酸素を必要とするがそれほど重症でない人の死亡率は、レムデシビルで有意に良好でした。対象者全体の臨床改善度は、レムデシビルを使ったほうがプラセボよりも改善が見られています。この成績が国の承認の根拠になるようです。
ただしこの論文では、酸素吸入を行うかどうかなどは主治医の判断だとしています。酸素飽和度などの客観的指標で酸素吸入を行ったといった明確な線引きがされていないことは、結果を差し引いて読む必要があるかと思います。また安全性では、レムデシビル投与群に低血圧や急性腎障害を生じる割合が高かったとされています。別の論文になりますが、レムデシビルを5日間投与しても10日間投与しても結果に差がなかったことも報告されています。

頼みの綱とされたファビピラビル(アビガン®)

ファビピラビルはインフルエンザ用に開発された薬です。COVID-19が流行し始めた頃にインフルエンザ用のタミフル®やゾフルーザ®といった薬も試されたようですが、効果は得られなかったようです。頼みの綱でアビガンがCOVID-19に使われました。内服薬ですのでレムデシビルに比べて容易に使えると思います。
しかし現状では、研究のデザインに問題のある試験報告しかないようです。主治医がアビガンを使うことを知っている(主治医がアビガンかプラセボかを知っているとアビガンが効いてなくても効いたように考えてしまうかもしれません)、また対象をプラセボとアビガン使用群でランダムに分けていない(ランダムに分けないとアビガン投与群に都合のよい患者を選ぶ可能性があります)――などです。したがって残念ながらアビガンがCOVID-19に効くという確証はありません。もしかするとアビガンがまったく効かない(アビガンを使ってよかったとはならない)か、アビガンの副作用でかえってアビガンを使ったほうが死亡率やほかの合併症が生じるかもしれない、と考えるのが現時点でのアビガンの評価かと思います。

そのほかの抗ウイルス薬

ウイルス疾患といえばエイズもその1つです。現在エイズウイルスの治療薬はたくさんあります。エイズやC型肝炎ウイルスの治療薬には、DNAからウイルスの基になる核ウイルスをつくる段階の酵素を阻害する薬(プロテアーゼ阻害剤)があります。ロピナビルというエイズ治療薬が使われた中国からの報告で、A Trial of Lopina-vir-Ritonavir in Adults Hospitalized with Severe Covid-19というタイトルでNEJMに3月に報告されています。画像検査で肺炎像のある比較的重症な人たちに投与されています。残念ながらこの薬も、使っても使わなくても効果に差がなかったようです。

膵炎やDIC治療薬の臨床応用例

ウイルスはRNAからDNAがつくられ、たんぱく分解酵素によって最終形となって増殖します。このたんぱく分解酵素を抑えるのが膵炎やDIC治療薬として使われているカモスタット(フォイパン®)やナファモスタット(フサン®)です。
ウイルスの増殖を抑えるという薬理作用から効果が期待できる面もありますが、これまでウイルス疾患に使われたことはなくCovid-19に対する効果も未知数です。ただ膵炎やDICでの臨床使用例は多く、副作用や使い方に十分な経験があるため、そういった面では有利な薬かと思います。

免疫を抑える薬

新型コロナウイルスでは呼吸器症状をはじめ意識障害や循環不全、血栓形成など、多様な臨床症状がみられるようです。ウイルスによって体内の免疫が暴走することが考えられています。インフルエンザは高熱が出ることも珍しくありませんが、これは体内でインターフェロンなどの発熱物質の産生が高まるためとされます。新型コロナウイルスでもサイトカインの産生が高まり、さまざまな臨床所見が見られるようです。そこでサイトカインを抑える薬も効果が期待されます。炎症反応によって産性が亢進するCRPは、インターロイキン(IL)6などのサイトカインが活性化すると肝臓でつくられます。このIL-6を抑える薬がトシリズマブ(アクテムラ®)です。アクテムラや副腎皮質ホルモン剤(デキサメタゾン)で免疫の異常を抑えることで、新型コロナウイルスへの治療応用が可能か、現在も検討が続いています。

おわりに

皆様も栄養剤の効果について検討することがあると思います。PUR検査陽性で研究に組み入れてよいか、また重症例と軽症例をどう分けるか、効果は何で確認するかなど、検討しなければならないことがあると思います。薬は基本的に異物ですので、「効きそう」だから、「安全そう」だからでは使えません。栄養剤も似たことが言えるかもしれません。COVID-19治療薬では死亡率を下げてくれる薬が期待されますが、なかなか一筋縄ではいかないようです。マスクを着けて身の回りを清潔に保ち、COVID-19にかからないことが最優先だと思います。(『ヘルスケア・レストラン』2020年9月号)

林 宏行(日本大学薬学部薬物治療学研究室教授)
はやし・ひろゆき●1985年、日本大学理工学部薬学科卒業。88年、聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院勤務。2002年から同院NST事務局を務める。11年4月から日本大学薬学部薬物治療学研究室教授