“その人らしさ”を支える特養でのケア
第33回
感染対策の実施が続くなか見えた
「ご家族との面会」がもつ意味の大きさ
新型コロナウイルス感染症の予防で基本となる、人との接触機会の制限。それははっきりと目に見える形ではなくとも、ご利用者の生活に影響を与え、食欲不振という形でその影響が現われる方もいらっしゃいました。
今までにはない長期の面会制限の日々
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界中を席巻し、この原稿を書いている現在はまだまだ気の抜けない毎日です。COVID-19が流行するなか、最前線で業務にあたる医療関係者の皆様をはじめ、私たちの生活を支えてくださっている皆様に心から感謝いたします。
当施設では、最も重要な感染対策を「施設内に感染症を入れないこと」とし、面会制限を筆頭にご利用者・職員の健康観察など、できることを地道に続けている状況です。当施設の面会制限は昨年末に季節性インフルエンザが流行してから継続しており、すでに半年以上となっています。
例年、冬季の感染症流行期には2~3カ月の面会制限は行っていましたが、ここまで長期になることは経験がありません。
ご家族に対しては生活相談員が中心となって、電話や写真付きお手紙でご利用者のご様子を発信しています。7月からオンライン面会が開始となり、以前とは形が違うものの少しずつ外部との交流が始まっています。
しかし、ご利用者側から見れば、ご家族の様子はわからず会うこともできません。施設内でもイベントの自粛を行っているため、張り合いのない毎日だったことでしょう。
もちろん、この期間も継続して栄養ケアを提供していますが、感じたことがあるのでご紹介したいと思います。
久しぶりの面会が食欲の戻るきっかけに
Aさんは認知症が進行し徐々に日常生活の維持が困難になっていました。発言はあるものの意思の疎通が難しくなっていて、行動を促す方法も工夫が必要になっていました。食事は自力摂取が可能でしたが、終始不安そうに周りを気にするような素振りをされます。しかしそれは周囲の目が気になるのか、自身が行うべき行動を探っているのか、Aさんの気持ちを察することができないままでした。
ある日を境にAさんの食事摂取量が低下し始めました。明確な原因がわからないまま、食形態を変更したり、お好みのものを提供したり、食事の環境を変えてみたりと工夫しましたが、食事摂取量は変わりません。
ご自身で食べ始めることがなくなったため、一口分食事介助を行って食事意欲を引き出せるかと試しますが、効果はありません。逆に食事介助に強い拒否を示すようになり、そのうちほとんど食事に手を出さないようになってしまいました。
先月号まで認知症の事例をシリーズで紹介しましたが、認知症のご利用者はお一人おひとり反応が違います。今回のAさんについても、思いつく方法をしらみつぶしに試しては、思うような結果が得られず新しい方法を試して……を繰り返す日々です。
「Aさ~ん、どうして食べたくないか私にだけ教えて~~」とこぼすと、Aさんは微笑まれ「大丈夫、大丈夫」と私を励ましてくださるようなお返事。「Aさん……大丈夫じゃないよ……」と心の中で愚痴ってしまうこともしばしば。
認知症の方への栄養ケアを振り返ると「その人らしさ」に寄り添えるようになるまでは、試行錯誤の連続です。
今回のAさんの事例のように、食欲不振の理由が掴めない方がいます。その場合は主治医と相談し、総合的な判断を得る場合があり、多くの場合は老衰による食欲低下と判断してそこから必要に応じて看取りケアに移行していきます。
いくら面会制限中といっても、終末期を迎えたご利用者の場合は、必要な感染対策を講じたうえで面会していただいています。Aさんの場合、この短時間のご家族との画会が功を奏し、その後に表情がよくなり、体調も安定、食事摂取量も改善しています。自力摂取は1食当たり数口、といった状態ですが、食事介助を受け入れ十分な栄養補給ができています。
拒食が続いていたなかでご家族の差し入れはペロリ
もう一人はBさん。入居から日が浅いご利用者です。前施設から「時々拒食がある」と申し送りがあったため、時々まったく食事に見回きもしないことにも「Bさんの通常運転」と経過観察を行っていました。
しかし、拒食の頻度が増え、拒否する際にどんな傾向があるのか、たとえば献立の内容やご本人の状態(眠気が強い、入浴後などで疲れている、頓用の下剤を服用している、などといったような日常的な変化も含みます)、かかわる職員による違いなども考慮し検討しましたが、傾向がつかめません。食事介助を行っても口を無けなかったり、吐き出したりを繰り返し、飲み込もうとしません。
コーヒーがお好きと聞き、コービー番ONSを提供してみましたが、一口飲んだだけ。ほかにもさまざまな味、形態のONSを試しました。ご本人に説明する時は大変うれしそうに「食べることが楽しみ」といった表情をされるのですが、いざ食べ始めるとなかなか受け入れてくれません。
主治医の指示もあり、ご家族との面会を行いました。Bさんはご家族の顔を見るとうれしそうにされ、差し入れのプリン(大き目の物です)をペロリ。その後数日は食事摂取量が安定しています。
Bさんはご家族と仲がよく、前施設をご利用中にもご家族の面会が頻回であったと聞いています。現在は再び拒食が頻回となったため、主治医の指示で定期的にご家族との面会を行っています。
面会はあらかじめスケジュールを組んで実施しているのですが、事前に予定を聞いたBさんはご家族に会うのを楽しみにし、面会の前から食事摂取量が増え始めていたと聞き、うれしいことが近づくウキウキとした気持ちも食欲に影響しているのだと感じました。
今回紹介したお二人は終末期のケアを意識した対応でしたが、急な体調不良による受診がきっかけでご家族と会ったり、オンライン面会で久しぶりにお子さんやお孫さんの顔を見た、というような場合でも、ご利用者の笑顔を久しぶりに目にする機会となっているそうです。
少し活気がなくなってきたなぁ、という方でもそんな機会にはつらつとされ、その後もお元気に過ごされている様子を拝見すると、たとえ画面越しであってもご家族と顔を合わせることがご利用者の元気の素なのだなぁ、と感じるのです。
そして、「ご家族の面会」がご利用者にとっては非日常の出来事でよい気分転換に、さらに食欲増進にもつながっていると感じる半年間でした。(『ヘルスケア・レストラン』2020年9月号)
特別養護老人ホーム ブナの里
よこやま・なつよ
1999年、北里大学保健衛生専門学校臨床栄養科を卒業。その後、長野市民病院臨床栄養研修生として宮澤靖先生に師事。2000年、JA茨城厚生連茨城西南医療センター病院に入職。同院の栄養サポートチームの設立と同時にチームへ参画。管理栄養士免許取得。08年、JA茨城厚生連茨城西南医療センター病院を退職し、社会福祉法人妙心福祉会特別養護老人ホームブナの里開設準備室へ入職。09年、社会福祉法人妙心福祉会特別養護老人ホームブナの里へ入職し、現在に至る