お世話するココロ
第119回
手洗いと消毒

今、食品を扱う人は皆、新型コロナウイルス感染対策に心を砕いています。感染対策において何より大事なのは手洗い。無理なら手指の消毒。その基本を振り返ります。

何より大事なのは手洗い

春から猛威を振るった新型コロナウイルスの感染は、とりあえず何とか第一波を乗り切ったと考えられます。今も感染者は出ていますが、その数は減り、医療機関にもようやく余裕が出てきました。

今は引き続き感染者を出さない努力を続けつつ、第二波に備える時期。これまで大事にしてきた生活を取り戻しつつ、感染予防対策を続けなければなりません。これから長丁場になる感染対策について、私が何より大事にしているのは、手洗いです。

臨床では、かなり前から消毒より流水と石鹸で洗うほうが清潔になる、という考え方が根付いています。たとえば、昭和の時代には傷の治療といえば消毒と乾燥。しかし今では、なるべく消毒はせず、石鹸で洗い、乾かないよう保護するのが基本になっています。

この時、滅菌水である必要はありません。たくさんの水道水でジャバジャバ洗う。これに石鹸をつけ加えると、多くのウイルスや細菌を減らすことができます。
ですから、今回の新型コロナウイルスの流行に際しても、私は案外冷静でした。新型コロナウイルスの基本は飛沫感染。自分の手についたウイルスが粘膜に入らなければよいのです。とにかく、目や口を触る前には手を洗う。これさえしていれば大丈夫、そんな感覚でした。

手洗いの大切さを、もっとシビアな状況で発信した人もいます。船内で多くの感染者を出したクルーズ船『ダイヤモンド・プリンセス号』。これに乗っていた方のTwitter「ありがとうYOKOHAMA, JAPAN」には、以下のようなtweetがあります。

特に手を洗う事は鬼のようにやっていました。何か物を触ったらすぐに手洗い。食事の前には念入りに手を洗う。同じように手洗いに励んで「洗い過ぎて手がカサカサになっちゃったねー」と笑いあった船内の友人達は全員「陰性」で下船しました。そして今も元気に過ごしています。手洗い、本当に大事です!

これは下船後、3月11日のtweet。感染者が周囲にいて、隔離も完全にはされていない状況で、不安と闘いながら手を洗い続けた光景が思い浮かびます。まさに論より証拠。石鹸による手洗いは、感染予防の王道なのです。

消毒用アルコールを巡って

では、手洗いと手指消毒の関係はどうでしょうか。私の周囲にも、手洗いだけでは不安、アルコール消毒も重ねてしたいという声があります。これについて、国民消費生活センターのサイトには、明確な方向が示されています。

手指からの新型コロナウイルスの除去には、流水と石けんを使った丁寧な手洗いが有効です。手洗いができない場合に消毒効果が期待されるものとしては、70%のエタノールのようなアルコールが挙げられます。流水と石けんを使った丁寧な手洗いの後にアルコール消毒液を使用する必要はありません。

つまり、基本は流水と石鹸による手洗い。それが無理な場合にアルコール消毒という順番なのです。手洗いのあとにアルコール消毒をする必要はない、という答えは、すでに出ています。

不安な人は、ついついやり過ぎ、かえって長続きしなくなる場合があります。もし、ご自身や、周囲に手洗いをしたうえに手指消毒をしている人がいたら、手洗いだけで十分と、ぜひ声をかけてあげましょう。
特に今はまだ、消毒用アルコールが品薄状態にあります。現在、高値での転売が禁止になっていますが、それ以前はひどいものでした。入手困難な消毒用アルコールを求めてストレスを感じるよりも、手洗いを十分に行うと割り切るほうが、気楽になれることでしょう。

一方、飲食店には、各テーブルにアルコールが置かれてほしいですね。なぜなら、たとえトイレで手を洗っても、席に着くまでに、トイレのドアノブなど多くの人が手に触れる場所を触ってしまうからです。
食べる直前に手指消毒ができれば、感染の機会はぐっと減らせ、客も安心して店を訪れるはず。私も、飲食店では必ずこれを使っています。
手指消毒については、今のところ消毒用アルコールに代わるものはありません。医療機関同様、ぜひ、多くの店舗にまわるようになってほしいものです。

次亜塩素酸水と次亜塩素酸ナトリウム

医療の進歩に伴い、自宅でできる処置も増えてきました。消毒用アルコールの品薄には、自宅で医療処置が必要な人も、大変な苦労を強いられています。
私のまわりにも、家で骨粗しょう症の自己注射をしている方がいます。その方のSOSの連絡を受けて、去年見送った猫が在宅皮下補液で使っていた消毒用アルコールを送りました。
こうした状況は、医療機関も例外ではありません。私が勤務する病院では、人体に使うもの以外には、次亜塩素酸ナトリウムを使っています。皆さんの職場はいかがでしょうか。

ここで整理しておきたいのは、次亜塩素酸ナトリウムと、この度、製品評価技術基盤機構により一部有効性が確認された次亜塩素酸水とは別物だということです。
経済産業省のサイトには、以下のような記述があります。

問:「次亜塩素酸水」と「次亜塩素酸ナトリウム」は同じものですか?答え:違うものです。次亜塩素酸「ナトリウム」は、塩素系漂白剤などの主成分として用いられる、アルカリ性の物質で、従来から新型コロナウイルスの消毒に使われています。「次亜塩素酸水」は、電気分解などの手法で作られる酸性の液体で、新型コロナウイルスへの有効性については、現在検証中です

(注:2020年6月26日現在、経済産業省は、新型コロナウイルス除去の物品に対する有効性を検証した結果、次亜塩素酸水について、一定の条件で有効性が確認されたとしています)

ところが、この2つを混同、あるいは区別が必要と理解できていない情報が今も散見され、新聞記事でさえ、怪しいと感じるものが少なくありません。効果が検証されていたのは、「次亜塩素酸水」。塩素系漂白剤の主成分である「次亜塩素酸ナトリウム」とは別物で、後者は比較的早期にコロナウイルスに有効とされました。

次亜塩素酸ナトリウムは約0・05%濃度の希釈液で、調理器具、手すり、ドアノブ、便座などを消毒できます。簡単につくるには、500㎖のペットボトル1本分の水に、5㎖(ペットボトルのキャップ1杯)の塩素系漂白剤を入れればOK。ただし、酸性のものと混ぜない、漂白作用に注意する、人体に使わないなど使い方には気をつけましょう。

また、最近では、「マイペット」「マジックリン」「バスピカ」などの住居用洗剤、「キュキュット」「ジョイ」「チャーミー」などの台所用洗剤に含まれる界面活性剤が、コロナウイルスを消毒できるとの情報もあります。漂白剤に抵抗感がある方は、こちらが使いやすいと思います。

これからも、感染対策については、いろいろな情報が出てくるでしょう。その都度、真偽を確認しながら、専門職としての知識を身に付けていきましょう。(『ヘルスケア・レストラン』2020年8月号)

宮子あずさ(看護師・随筆家)
みやこ・あずさ●1987年、東京厚生年金看護専門学校卒業後、2009年3月まで看護師としてさまざまな診療科に勤務。13年、東京女子医科大学大学院博士後期課程修了。博士(看護学)。現在は精神科病院の訪問看護室に勤務(非常勤)。長年、医療系雑誌などに小説やエッセイを執筆。講演活動も行う。看護師が楽しみながら仕事を続けていける環境づくりに取り組んでいる。近著に「宮子式シンプル思考 主任看護師の役割・判断・行動力」(日総研出版)がある

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