食べることの希望をつなごう
第29回
社会や患者の変化に応じながら変わらぬサポートを続ける

緊急事態宣言は解除されましたが、入院患者への面会は引き続き禁止の状況です。 そうしたなかで変化が生まれてきている模様。 患者との会話のなかで、患者同士の情報交換を垣間見ることも増えているといいます。

術後の放射線治療で粘膜炎に苦しむも治療完遂

この原稿を書いているのは6月の末ですが、緊急事態宣言が解除され、県をまたぐ移動もできるようになりました。当院でも外来診療が再開され、来院する外来患者さんの数も徐々に増えてきました。
しかし、入院中の患者さんへの面会は、いまだ基本的に禁止であり、インフォームド・コンセント(IC)や、手術当日、自宅退院に向けた準備など、必要最低限の機会にかぎらせていただいています。

手術から引き続き化学療法と放射線治療をすることになったTさん。術後、摂食嚥下リハビリテーションが介入し、訓練などを行っていました。非常に順調な経過を辿り、液体はとろみ不要となり、少し軟らかめの食事を全量摂取できるまでになったので、歯科医師による介入はいったん終了、有事再診となりました。
当院では、退院前に食形態がゴールに達した場合、多職種による回診ではなく、看護師が主となってリハビリ内容と食事摂取状況などを確認し、状況に変化があった場合に歯科医師に報告し、再介入する流れになっています。

Tさんはしばらく問題なく経過していましたが、放射線治療が進むにつれ、粘膜炎がだんだんひどくなっていきました。主食をお粥にしたり、咀嚼回数を少なくするためきざんでみたりと、食形態の調整で対応していましたが、看護師より、「だいぶ食べづらくなっているから相談に乗ってもらっていいか」との話がありました。

昼食時訪室すると、全然食事が進んでいません。どうしたのかたずねると「こぼれてくるようになっちゃった」とおっしゃいます。汁物を飲んでいただくと、確かに口唇から少しこぼれが見られます。さらに嗄声もあったため、摂食嚥下リハビリテーションの歯科医師にも診ていただき、食形態を摂食・嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2013の2─2に調整することになりました。

もともと形のない食事には抵抗があった方で、「ペースト状か……」と渋々夕食からの食事変更を受け入れてくださいましたが、食べられたかなと夕食後うかがうと、「早く変えてもらえばよかった! すごく食べやすくなった!」と喜んでおられ、こちらもほっとしたものです。
その後、粘膜炎は悪化していきましたが、胃管を入れるのはどうしても嫌とのことで、痛み止めや口腔ケアなど使えるものは何でも使い、何とか経口ルートのみでの栄養摂取を継続し、治療を完遂することができました。

退院前の栄養相談で遠隔での妻の同席を希望

長い長い入院期間でしたが、いよいよ退院が決まり、主治医から栄養相談の依頼が入りました。常食を召し上がっており、液体も誤嚥は認められなかったため、面会制限についても考慮して、ご本人にお話しすれば大丈夫かなと思っていたのですが、「どうしても妻に一緒に聞いてほしいから、ビデオ通話で一緒に聞いてもいいですか?」とのこと。
「録音してもいいですか?」という要望は以前にもありましたし、遠隔診療でのオンライン栄養相談は行ったことがありましたが、スマートフォンで同席というのは初めてです。

確かに、面会制限となってからは、ご家族とビデオ通話でやり取りされている患者さんを見かけることが多く、ビデオ通話というツールがより身近になったことを実感しました。
たとえばOさんは、Tさんから栄養相談の際にビデオ通話で奥様にも話を聞いてもらったと聞いて、同じようにしたいと希望されました。
患者さんご本人としては、聞いた内容を自分が伝え忘れるかもしれないから、主な調理担当者である奥様にも話を聞いてほしい、という理由から、録音ではなくビデオ通話での同席を希望されたとのことでしたが、録音と大きく違った点は、奥様からの質問にその場で答えることができたことです。直接やりとりできたことで、より退院後の食事について不安を軽減できたのではないかと思います。

患者同士の交流が増えた“隔離”の数カ月

新型コロナウイルス感染症の関連により、ここ数カ月は今までの入院生活よりも隔離された感覚が強い状況でしたし、それによって人と話す機会も減少していたせいもあるのか、入院患者さん同士のかかわりが以前よりも多かったような気がします。
手術、化学療法、放射線治療を、まさに体験中の患者さん、これから予定されている患者さん、終了し退院を待つ患者さんたちがデイルームで集っているのをよく見かけました。ミニ患者会といったところでしょうか。皆さん入院期間が長く、ご家族との面会もできないため、不安も大きかったのではないかと思います。

「〇〇さんが、吐き気でつらかった時、食事を飲み物とデザートに変えてもらったと聞いたけど、私もお願いできる?」
「△△さんが、明日焼きそば出してもらうって言っていた。うらやましいけど僕は口が痛くてまだ無理そう、残念」
「××さんが、今日はカレーだって言っていたので、カレーか……、食べたいけどペースト食じゃ出ないだろうなと思っていたら、ペースト状のカレーが出て、温泉卵も付いていて、『シャバの味だ!』と本当にうれしかったから、厨房の方に手紙を書きました!」
など、ミールラウンドの際にうかがうお話からも、患者さん同士のネットワークが浮かび上がってきます。
「〇〇さんは退院の日、ウナギを食べに行くって決めているんだって。私は穴子が食べたい」「退院した△△さん、体重が4キロも増えたんだって!」といろいろな情報もうかがうことができました。

お互いの情報を共有することは、治療や今後に不安を抱える患者さん同士、体験談は最も求めることでしょうし、励みにもなり良い点が多いと思います。しかし、
「化学療法のあとは、つわりのような吐き気が来るって〇〇さんに聞いた。何となく気持ちが悪い気がする」
「放射線治療って、火傷みたいになるんでしょう? のどが痛い気がするんだけど……」
など、心配性の方にはかえって不安をあおってしまうことがあります。個人差が大きいことを説明しつつ、傾聴し対応するよう心がけています。

この数カ月は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のためさまざまな方法がとられ、それに伴い、病院での診療も今までどおりにいかないことが多くありました。
今後も、これまでどおりというわけにはいかないでしょうが、オンラインの栄養相談など、新しい手段を試み、良い点を活かして患者さんをサポートしていきたいと思います。(『ヘルスケア・レストラン』8月号)

豊島瑞枝(東京医科歯科大学歯学部附属病院 管理栄養士)
とよしま・みずえ●大妻女子大学卒業。東京医科歯科大学医学部附属病院に入職後、2010年より東京医科歯科大学歯学部附属病院勤務となる。摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士、NST専門療法士、TNT-D管理栄養士、糖尿病療養指導士