食べることへの希望をつなごう
第28回
長期間にわたる面会制限患者に生まれる孤独感をどう支えるか

新型コロナウイルス感染症の影響により、面会制限が続いています。感染予防のためとはいえ、入院患者の不安や孤独感は大きくなるばかりです。久しぶりにご家族に再会した患者は、今までの塞ぎがちな様子とはうって変わって、大きな声で楽しそうに話し始めたそうです。やはり人と会うことは、生きる活力になるんですね。

既往の食道がんが逆流・誤嚥の原因に

新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)の影響により、当院では外来診療に加え、入院や手術件数も減らしていますが、悪性腫瘍の患者さんの入院・手術は今までどおり行っています。しかし、基本的に面会は禁止であり、ご家族にはインフォームド・コンセント(以下、IC)や手術当日、自宅退院に向けた準備など、面会は必要最低限にさせていただいています。

術後、9日間の経腸栄養の期間を経て、経口摂取開始となった80代の女性患者さん。牛乳などの飲物は上手に飲めるものの、お粥やお魚などの固形物が入ると、大きくむせます。術式や既往から、術前からの摂食嚥下リハビリテーションの介入はなかったのですが、急きょ、嚥下機能評価の依頼を出していただき、検査の運びとなりました。

検査の結果、液体は不顕性誤嚥でしたが、牛乳程度のごく薄いとろみがあれば、問題なく摂取することができました。しかし、10数年前に他院で受けられた食道がんの手術により、胃をつり上げて吻合したところに食物が貯留し、逆流と誤嚥につながっていることがわかったのです。

入院時から摂食嚥下リハビリテーションの介入がなく、術前の嚥下機能評価は行われていませんでしたが、術前に撮影されたレントゲンを確認すると、以前から同じ箇所に食物の貯留があったことがわかり、術前から誤嚥のリスクは高かったことが推測されました。
できるだけ身体を動かすように、とリハビリの指示が出ましたが、誤嚥のリスクがすぐに減るかといえばそうではありません。1回の食事量を抑えることで逆流・誤嚥のリスクは減らせましたが、2時間おきに栄養剤を少量ずつ飲む、というようなスケジュールでないと、必要な水分および栄養量の確保が困難です。

最終的には輸液を併用することで状態が落ち着きましたが、食道の状態が改善しないかぎり、術前に近い生活は難しいだろうということで、食道がんの手術を行った病院に相談し、転院することが決まりました。

人と会うことは効果的なリハビリになる

1回の食事量を抑えることが誤嚥防止に有効だったため、食事量を増やすことができず、栄養量の確保は困難でした。ADLの低下はありませんでしたが、1カ月で体重が41・5㎏から38㎏、BMIは23㎏/㎡から21㎏/㎡まで落ちていました。
1回の食事量が200mlを超えると誤嚥のリスクは高くなるため、少量で栄養量が確保できる濃厚流動食を使用すると、水分が不足します。濃厚流動食や牛乳程度のごく薄いとろみがあれば、誤嚥はしないという点は幸運でした。

結局、200kcal/125mlの濃厚流動食と牛乳、もしくは牛乳に少量のカルピスを混ぜたドリンク100mlの計2品を1日3回、それぞれ1時間空けて飲んでいただき、それでも栄養・水分は不足するため、アミノ酸・水溶性ビタミン加総合電解質液を輸液で追加し、転院となりました。
経鼻胃管を再挿入するかという提案もありましたが、胃管の挿入が難しいとのことで、見送ることになりました。

振り返ってみると、入院生活は約1カ月となり、日中はほとんどタオルを額や眼に当てて横になっておられました。もともと難聴があり、耳元で大きな声での会話が必要なこともあったのかもしれませんが、口数の多い印象は私にはありませんでした。

しかし、転院が決まり、主治医からのICと栄養相談のためにいらした娘さんの前ではいつもと様子が違い、大きな声でお話しして笑う姿がありました。切れ目なく、昔受けた食道がんの手術の話、担当の先生の話、現在病院から提供されている飲み物のレシピの話など、次から次へと話題が出てきます。娘さんも聞き上手で、ニコニコしながら相づちをうっており、それがまた次の話につながるといった感じです。

私も栄養相談のため、娘さんがいらした時にお部屋にうかがいましたが、本題に入るまでずいぶん時間がかかってしまいました。これだけ上手に長時間お話ができれば、リハビリにもつながると思い、転院先から退院した際には、ぜひたくさんおしゃべりするようお伝えしました。
また、娘さんが帰られたあとも、座ってノートに何か書き物をされており、いつもよりも起きて座っている時間が長くなっていました。人と会ってお話しすることは、やはり気持ちに張りを与えるようです。

高齢者のさまざまな低栄養の要因

面会制限による孤独感医療者の寄り添いが大事

厚生労働省から出された「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針(令和2年5月25日変更)」には、「三つの密」を徹底的に避ける、「人と人との距離の確保」「マスクの着用」「手洗いなどの手指衛生」などの基本的な感染対策を行うことをより一層推進する、とあります。マスクを着用しての食事は無理ですし、人と人との距離を確保するとなると、今までのように会話を楽しみながらの食事は、当面避けるべきなのかもしれません。
しかし、高齢者のさまざまな低栄養の要因として、独居や孤独感が挙げられており、こちらも心配です。

当院での面会制限は、インフルエンザの感染対策により昨年12月から始まっており、コロナによる緊急事態宣言によって、現在まで長期にわたっています。面会制限により、着替えなどの必要物品だけでなく、食欲低下の患者さんへの差し入れも難しくなりました。
また、そういった「物」の不自由さだけでなく、闘病生活に加え、テレビや新聞から流れるコロナ関連のニュースなど不安が多いなか、長期間家族に会えない心細さは、どれほどのものだろうと思います。

ご自宅で闘病されている方も、患者会などの場が少なくなり、不安やストレスが大きいことと思います。すぐに以前のような生活に戻るのは難しいでしょうが、今までのように患者さんに寄り添い、サポートしていければと思います。

豊島瑞枝(東京医科歯科大学歯学部附属病院管理栄養士)
とよしま・みずえ●大妻女子大学卒業。東京医科歯科大学医学部附属病院に入職後、2010年より東京医科歯科大学歯学部附属病院勤務となる。摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士、NST専門療法士、TNT-D管理栄養士、糖尿病療養指導士