今自分にできることはいつもどおり業務を遂行していくこと

治療の完遂のために滞りなく給食を出すこと

新型コロナウイルス感染症の関連により、生活が大きく変わっていらっしゃる方も多いのではと思います。日々刻々と状況が変わるなか、皆様方、それぞれの職場でご苦労されていることと思います。早く終息することを願うばかりです。
日本嚥下医学会では、「感染傾向が拡大している地域」においては、「非緊急の」上気道粘膜との接触を伴う嚥下訓練や内視鏡下嚥下機能検査は見合わせることを推奨しています(表1)。そのため、通常病棟で行っていた嚥下内視鏡検査も、当面中止となりました。しかし、ミールラウンドは行っており、摂食嚥下リハビリテーションの先生もいらしてくださるので、適宜食形態の調整や栄養ルートの検討などは行えています。

COVID-19流行期における嚥下障害診療への注意喚起

また、当院では変わらず悪性腫瘍の患者さんが入院されているため、治療に支障がないよう、まずは病院給食をいつもどおり提供することを第一に日々業務を行っています。以前は、食欲不振の患者さんの選択肢として、家族の方に持ち込みを依頼することがありました。しかし、現在は基本的に面会禁止となっており、難しい状況です。また、敷地内のコンビニエンスストアへの行き来も、混雑などを考えると必要最低限に抑えたほうが望ましく、できるかぎり病院給食での対応が必要となっています。

とはいえ、個別対応が増えるとインシデントにもつながりやすくなりますし、コストや手間もかかってしまうことがあります。その点を踏まえて、患者さんと相談して献立を調整し、治療を完遂できるようしっかり食べていただいて体重減少しないように務めています。

栄養相談では伝言ゲームの難しさが

栄養相談に、調理担当の方が同席されないことも増えました。普段調理をしない方に、調理の工夫や食形態の配慮などを伝えることになります。ミキサーなど使ったこともない方のなかには、ピンと来ていなさそうだなぁという表情の方もいらっしゃり、その割に「大丈夫!」と妙に自信のある答えが返ってきたりして、調理担当のご家族にちゃんと伝わるか心配なことも少なくありません。

調理担当者に直接説明できないため、普段調理をしない方から調理担当者に調理方法を伝えてもらうという、伝言ゲームの難しさ……。自宅に戻ってやってみたら思うようにいかなかった、ということにならないよう、資料に書き込みをしたり、マーカーを引いたり、パンフレットに付せんを付けたり、「退院したあともご相談に乗りますよ」と必ずお伝えしています。

その反面、栄養相談中の会話を録音させてください、という慎重な方もいらっしゃいます。また、栄養相談のあと、電話でご家族に内容を伝え、改めて質問などを確認される方もいらっしゃいます。
患者さんの状態によっては、できるだけ通院を控えていただくため、退院後の外来受診までに時間が空く場合もあり、素早いフォローが難しいこともあります。体重減少には十分注意するようお伝えし、少しでも不安がある場合には、レトルト食品や栄養補助食品の積極的な利用もお勧めしています。

外出自粛による病態悪化のリスク

食材を購入できないという声もちらほら聞かれます。納豆とお豆腐が買えなくて、とおっしゃる患者さんのご家族。品切れのことが多いとのことです。地域差もあるのかもしれませんが、外出や外食を自粛している影響で品薄になっているのでしょうか。調理が不要で、火を使わずに食べられる食材は、休校措置中の子どもたちや、食事の準備に手をかけたくない場合にもありがたいものです。卵の消費量が増えた、という患者さんもおられましたが、やはり手軽に食べられる食材であることが一因のようです。

外食の回数が減ったことで、血糖値が良くなったという声も聞かれます。どうしても家族の目が届きにくく、メニュー選びや食べ方がご本人の選択に任されがちな外食ですが、家で食事の用意をすることで、血糖値の改善につながっている実感がある、とお話しされた方がいらっしゃいました。
しかし、上手に外食を利用できていた場合には、逆のパターンも考えられます。食事の準備が得意でなかったり、負担に感じる方の場合には、お湯を注ぐだけの麺類や、パンとコーヒーのみの食事になったりと、食材の数が減り、偏りのある食事になる可能性もあります。外出が減り、運動量が減り、ストレスで間食が増え……とならないよう、注意が必要です。

学会からの情報を患者さんに還元しよう

各学会からも、続々と情報発信されています。日本臨床栄養代謝学会(JSPEN)からは4月10日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療と予防に関する栄養学的提言が出されました(表2)。老年医学会、糖尿病学会、国立健康・栄養研究所や日本栄養士会からも情報発信されていますので、これらの情報を患者さんに還元するとともに、自分たちが業務を継続できるよう努めていこうと思います。(ヘルスケア・レストラン 2020年6月号)

豊島瑞枝(東京医科歯科大学歯学部附属病院 管理栄養士)
とよしま・みずえ●大妻女子大学卒業。東京医科歯科大学医学部附属病院に入職後、2010年より東京医科歯科大学歯学部附属病院勤務となる。摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士、NST専門療法士、TNT-D管理栄養士、糖尿病療養指導士

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