服薬の効果を待つことが大切なうつ病の治療

現在、新型コロナウイルスの流行で不安が広がっていますが、こうした心的ストレスを原因とする疾患がうつ病です。今回は栄養障害もその原因になるとされるうつ病の薬を紹介します。

うつ病とは

何となく気分がのらない、優れないということは誰にでもあることです。うつ病はこのような憂うつな症状がほぼ毎日続き、また喜びや興味を失うなどの症状を呈することから診断されます。そのほか、体重が減る方や、反対に食欲が旺盛で過体重になる方、不眠もあれば反対に過眠というケースもみられます。

何よりも問題なのは自殺念慮があることです。うつ病の診断はDSM-5 ※1やPHQ-9 ※2という、うつ病の質問票などで行われます。何をしていても楽しくない、憂うつである、不眠または過眠、易疲労感、食欲の減退もしくは過剰、罪悪感がある、集中力にかける、動作や会話が遅いなどの症状を聞き取り、それが2週以上続くなどといった場合にうつ病と診断されます。原因の多くは心的ストレスによりますが、ビタミンB 12や葉酸欠乏など、栄養摂取も重要な要因です。また、孤食もうつの原因とされます。

うつ病が発症する要因

脳の中では、情報を伝達するためにさまざまな神経伝達物質が働いています。そのうちセロトニン、ノルアドレナリン、ドパミンはモノアミンといわれ、セロトニンは不安や緊張、焦燥感、ノルアドレナリンは意欲の低下や興味の消失、ドパミンは食欲や気力、悲しみの喪失などに関連するとされます。これらの減少やバランスの崩れにより、神経伝達物質をうまく伝達できない細胞障害が起こって、うつ症状を呈するなどと考えられています。

うつ病は一般的に、真面目で仕事熱心な方や責任感が強い完璧主義者に多いとされます。一方では仕事の疲労や近親者の死亡、女性で、妊娠や出産などといった思いがけないきっかけによってもうつ病を発症します。今、新型コロナウイルスが流行して先行きの不安を抱えている人も多いと思います。まさにこうしたきっかけがうつ病の原因になると考えられます。
最近では、食事のバランスもうつの要因と考えられています。日本食では週に100種ほどの食材を使い、洋食では30種ほどといわれています。栄養素の摂取バランスは日本食ほど優れていて、最近の若者にうつが多いのは食の欧米化が進んだためとも考えられています。

うつ病と似た疾患

うつ病と似た疾患に「双極性障害(以前の躁うつ病)」があります。憂うつで無気力な状態と活動的な躁状態を繰り返す疾患で、後述する抗うつ薬が使われてしまうと気分や行動、思考のバランスがますます悪化してさらに複雑な状況になるとされます。抗うつ薬を使う時には必ず躁状態があったかどうかを確認します。
「持続性抑うつ障害」といわれる、うつが長期にわたる場合には、抗うつ薬に加えてカウンセリングが必要になります。また、大きなストレスが原因で一時的に抑うつ的となる「適応障害」では休養や環境調整も必要です。

抗うつ薬の種類

現在、国内で使われている抗うつ薬は、三環系抗うつ薬、四環系抗うつ薬、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)、ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬(NaSSA)に分けられます。最初に開発されたのが三環系抗うつ薬です。とても強力にうつ症状を改善します。アナフラニール (R)やトリプタノールなどです。ただし抗コリン作用をもち、口渇や便秘、尿閉やせん妄といった副作用が現れるため服薬の継続が難しいというケースが多くみられます。三環系抗うつ薬に比べ副作用が少ない四環系抗うつ薬も、多かれ少なかれ同じような副作用が現れます。

最近用いられることが多い抗うつ薬はSSRIとSNRIです。SSRIはセロトニンの働きを強くする作用をもち、パロキセチン(パキシル)、フルボキサミン(デプロメール (R)、ルボックス (R))、セルトラリン(ジェイゾロフト (R))、エスシタロプラム(レクサプロ (R))が発売されています。三環系抗うつ薬に比べ顕在化する副作用が少なく、うつ病治療の主流になっています。うつ病以外にも強迫性障害や社会不安障害、パニック障害にも用いられています。もっとも、発売当初は副作用が少ないとされましたが、その後、嘔吐や食思不振、薬を増量した際などに下痢や多動、痙攣といったセロトニン症候群が現れる症例が増え、注意が呼びかけられています。とりわけ、薬を始めた当初に起こりやすいアクチベーション症候群は、不安や焦燥が強まって自殺行動が高まることもあるため注意が必要です。

SNRIはセロトニンに加えてノルアドレナリンの働きも高める作用をもちます。ミルナシプラン(トレドミン (R))、デュロキセチン(サインバルタ (R))があります。ノルアドレナリン低下による意欲が低下した患者さんなどに用いられます。デュロキセチンは糖尿病の痺れも改善する働きがあり、実際に効能・効果も有しています。これらのSSRIやSNRIは消化管のセロトニンも増やすため消化器症状を呈しやすく、特に薬の開始当初はこれらの症状に注意しながら使います。少量から始めて少しずつ増量して基本的に1剤で様子をみます。不安や不眠が強い場合はエチゾラム(デパス (R))などの抗不安薬などが併用されます。

三環系抗うつ薬やSSRI、SNRIが効果を表すのに2週間ほど必要になります。これに比べて比較的早期に効果を表すのがミルタザピン(リフレックス (R)、レメロン (R))です。ノルアドレナリンとセロトニンの働きを高める作用があります。睡眠改善や食欲改善作用をもつため、病気になってうつ症状があり食事摂取量が低下した患者さんなどに効果が期待される薬だと思います。

治療継続の必要性

うつ病の患者さんでは薬物療法を行っても効果が実感できるのに最低でも2週間が必要です。またSSRIやSNRIといった特異的な神経伝達物質をコントロールするだけでは治療効果が実感できず、服薬をやめてしまうケースも多くあります。症状がよくなったからと薬をやめてしまい、また抑うつ状態が生じる再発例も多くあります。生活習慣や環境整備が重要で、最低でも半年から1年かけてそれを維持しながら、薬も徐々に減量していきます。

病気に罹患するといろいろな心配ごとが増えてうつ病になりやすく、がんや脳卒中の患者さんでは約20~40%が発症するとされます。副腎皮質ホルモン剤やインターフェロンといった薬物によってうつを呈する方もみられます。うつ病の専門は精神科ですが、敷居が高く受診率が低いことも問題になります。前述したうつ病に似た疾患はほかにもあり、抗うつ薬が症状を悪化させている原因になる場合もあります。うつと診断されたら我慢強く薬を継続して休息を取り、時にはカウンセリングを受けることと、バランスの良い食事摂取が大切です。(ヘルスケア・レストラン 2020年6月号)

1)DSM=Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders
2)PHQ=Patient Health Questionnaire

はやし・ひろゆき●1985年、日本大学理工学部薬学科卒業。88年、聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院勤務。2002年から同院NST事務局を務める。11年4月から日本大学薬学部薬物治療学研究室教授