
医療の未来を、経営から考える。
~あなたの街の病院は、なぜ変わりつつあるのか~
#01
患者さんが期待する病院の「検査部門」、その背景には何が…
日立ハイテクヘルスケアCh. あなたは今、医療の本当の力に出会う
あなたが、「もしかしたら病気かも…」と心配になり、病院に駆け込むと最初に待ち受けるのは「検査」だ。的確な治療のためには病気の有無や身体がどういう状況にあるのかを正確に調べる必要があり、その役割を担っているのが「検査室」などと呼ばれる病院の検査部門。
医療を支える裏方的な存在と見られがちだが、患者さんのために専門家集団として日々大きな貢献をしているのは言うまでもない。そうした検査部門に対し、病院経営にもプラスに作用する可能性を秘めた部門との見方が広がりつつある。今、病院の検査室で何が起き、そして背景には何があるのだろうか。
本記事は、「ヘルスケア・マネジメント.com」と「ヘルスケアCh.」の共同編集でお届けします。

人件費の増大や物価高騰による経費の著しい上昇などを背景に、病院を取り巻く経営環境は依然として厳しい。このため経営効率化による収支改善はもとより、持続可能な抜本的経営改善策を打ち出す必要に迫られているのが現状だ。病院の特定部門を戦力化するなどして病院全体の価値を高め、新たな収益を生み出す積極策が避けて通れないとの意味合いでもある。
そうしたなか、病院経営の力になるとして注目を集める部門がある。これまで病院内では収益に直接つながりにくい間接部門としてコストがかかると見られがちだった検査室だ。病院側は医療の質の向上や患者サービスの改善にさらに寄与する可能性があるとして変貌を遂げつつある検査室に着目している。その力を引き出すべく様々な取り組みを始めている。
病院経営をめぐっては、医療関連経費の上昇以外にも慢性的な人材確保難や抑制傾向が続く診療報酬、医師の働き方改革への対応などの難題がいくつも立ちはだかる。
それではなぜ今、検査室に注目が集まるようになったのか。それはこの分野にも押し寄せた技術革新の波によって自動検査装置が普及し、病院に省力化にとどまらない利点をもたらしたからにほかならない。この流れは今も続いており、検査室は経営の柱のひとつとして一段の活躍が期待されている。

技術革新がもたらした検査の迅速化と高感度化
自動化が進む以前の検査業務は多くのスタッフの手作業に頼っていたのが実情だ。例えば検査件数が多い血液検査の場合、採取した血液の容器に患者の名前などを手書きしたラベルを貼り、必要事項を記した手書き伝票と一緒に検査部門に届けられる。検査部門は手作業で測定し、検査結果は手書きの紙で報告していたという具合だ。こうした状況は、自動分析装置をはじめとする高度な検査装置と情報システムの普及によって一変した。
飛躍的な効率化とともにもたらされたのが「検査の迅速化」だ。これは外来診療の形を大きく変えた。手作業で処理していた時代は、検査当日に結果が出ず、翌日以降に患者さんが再度受診することが常態化していたが、検査したその日に結果に基づく診断を受け、薬を受け取ることも可能になった。患者さんやその家族にとって待ち時間が短縮されることは、不安な時間を短くするという意味で患者に寄り添ったサービス改善にほかならない。他方、病院にとっても検査の迅速化で診療がスムーズになり、より多くの患者さんを受け入れる余裕が生まれるという利点がもたらされた。
検査の技術革新がもたらした効果は「検査の迅速化」だけではない。
「検査感度の向上」も大きい。臨床検査専門医で三楽病院(東京都千代田区)の東條尚子・臨床検査科部長は「検査の迅速化とともに高感度化が進んだことで病気をより早く、より詳しく把握できるようになり、タイミングを逃すことなく早期に治療を始められるようになった。このことは極めて重要なことだ」と強調する。より迅速で正確な診断は患者が安心して治療に臨めるということであり、病院にとっては効率化という経営的な側面に加え、病院にとっての生命線である医療の質の向上にも寄与したとの言い方ができる。

部門の枠を超えた多職種連携に可能性
1990年代に入って本格化したこの潮流はその後も衰えることがなく、内外の医療機器メーカーは今も新機種開発にしのぎを削る。開発の力点は全自動から異なる検査を1台で処理できる複合化、小型化などにも移り、その中でも一貫して重要視したのは検査の処理能力と効率の向上だ。併せてこの頃からは病院内の情報を一元管理するHIS(Hospital Information System/ホスピタルインフォメーションシステム)や、これに連動して臨床検査情報を管理するLIS(Laboratory Information System/ラボラトリーインフォメーションシステム)など情報システムの活用が進み、病院内情報の高度管理により検査装置の性能が如何なく発揮されるよう周辺の近代化も図られている。
こうした一連の検査の進化もあって、検査室が従来の枠を超えてまだまだ活躍の領域を広げられるとの見方は強まる一方のようだ。
検査室の高いスキルを生かした多職種連携の広がりについて、前出の東條医師は「検査室以外の場所で他の職種とコミュニケーションを取りながらチーム医療を行うことで医療の質のいっそうの向上につなげられる可能性がある」と語る。続けて「医療機関では、既に臨床検査技師の高いスキルを生かし、診療に役立つよう積極的な関わりを持たせようという流れになっている」との見方をする。
医師、臨床検査技師、看護師、薬剤師ら医療従事者がより強い形で連携すれば、その相乗効果で医療の質の向上をはじめとする新たな価値を創出できるとの考え方だ。今後も厳しい経営を強いられそうな病院が、苦境打開の鍵を握る部門として検査室のさらなる戦力化が広がるのは間違いないだろう。
すべては患者さんのために――、病院の多様な部門との有機的な連携をいかに実効性のある形で達成できるかが問われることになりそうだ。
提供:日立ハイテク
●臨床検査専門医。医学博士。1981年東京医科歯科大学医学部卒。東京医科歯科大学医学部附属病院検査部医員、同病院検査部長(講師)などを経て2015年から東京都教職員互助会 三楽病院臨床検査科部長。

