病院給食のセントラルキッチンに盛り付けの自動化システムが登場、需要拡大へ大きな期待
2023年6月21日、株式会社第一食品(大阪府東大阪市)とパナソニック コネクト株式会社(東京都中央区)は病院給食の完全院外調理の拡大に向け、日本初のトレイメイク(食事のメニュー・器の盛り付け)自動化システムを開発・導入したことを発表した。
病院給食の院外調理のなかでも、習熟難易度が高くコストがかかるトレイメイクを自動化することで、少ない人数で、かつ誰でも容易に作業ができるようになっており、人材不足問題やコスト削減に貢献できるとしている。
セントラルキッチンでネックになっていた「トレイメイク」
第一食品 相模原工場で行われた記者発表会では、はじめに第一食品の小宮仁代表取締役が登壇し、病院給食とセントラルキッチンを取り巻く現状と課題を説明した。
株式会社第一食品の小宮仁代表取締役社長
病院の給食は365日、朝昼晩と3食滞りなく提供しなければならないが、昨今の人材不足や原材料の高騰などから、外注を検討するところは多い。しかし、院外調理において、さまざまな食品を盛り付けていくトレイメイクが難所となり、スケールメリットが出せずにいたという。
病態や嚥下の状態によって変わる複雑なオーダーに合わせて食事を盛り付けることは、人手が多くかかるうえに担当者の習熟度に左右される属人的な作業であり、また習熟までの期間も長くかかり、院外調理の成長を阻む課題となっていた。
そこで、パナソニック コネクトと共同でトレイメイクの自動システムを開発、第一号として相模原工場に導入し2023年3月より稼働を開始した。
属人的だった職人作業が誰でもできる平易な作業に
パナソニック コネクトからの発表では、はじめに食品加工ソリューション事業の大江徹直ダイレクターより会社の説明があり、その後、事業を担当した五十嵐雅孝シニアマネージャーより詳細の発表があった。
パナソニック コネクト株式会社の大江徹直ダイレクター
パナソニック コネクト株式会社の五十嵐雅孝シニアマネージャー
トレイメイクの自動システムの開発にあたり、第一食品からは「熟練スタッフに依存しないトレイメイク作業の実現」が要望として挙げられ、システムスペックとしては1億通り以上の組み合わせを1日3回、4秒/トレイで365日生産する熟練作業を自動化するという、非常に難しい要求であったという。
開発では複雑な食札の内容を自動化するのにかなり苦戦したというが、実際の作業面では高速でトレイを移動させても中身がこぼれないようにする等、過去に開発したシステムで培ったノウハウが活かされたそうだ。
今回、開発されたシステムでは、徹底した難易度の削減をコンセプトとし
①トレイ供給機がトレイを1枚ずつベルトコンベアに載せる
②皿配膳スタッフが、目の前に出てくる4つの器(主食、主菜、副菜2種が入ったもの)を1つずつトレイに載せる
③モニタの指示に従い、ジャムやヨーグルトなどの付属品をトレイに載せる
④配膳内容と盛り付けの見栄えをチェックする
➄食札をトレイに貼り、カートにトレイを収納する
という工程で作業が完結する形になっていると説明。
作業負荷が減った分、検品作業に余裕が生まれ、盛り付け具合などもチェックできるようになったという。
食事の入った器は機械の裏側から機械の指示通りに挿入するだけになっており、次のトレイにどの器を選んで載せるかは自動で制御され、食札にあったものがスタッフの前に送り出される仕組みになっている。
説明の後で行われた工場見学では、実際に5名ほどのスタッフで流れていくトレイを処理している姿が見られた。
相模原工場の矢ヶ崎忠徳工場長からは「入社2日目の高齢の社員がすぐに習得し、いまではベテランになっている」との話もあり、大幅な作業の平易化が図られたことがうかがえた。
自動トレイ供給機がコンベアにトレイを1枚ずつ載せる
皿配膳スタッフの前に4種類の器が送り出される
チェッカー(左)が中身を検品したのち、食札をトレイに貼りラックに入れる(右)
料理が入った器は機械の後ろから挿入し、どこに入れるかは緑のランプがついて指示される
すでに2病院が導入、今後は病院給食のセントラルキッチン化を拡大へ
発表会のあとに行われた試食会では、実際に病院用にトレイメイクされ、病院での提供と同じように加温されたものが提供された。加温によるパサつきや味気無さはなく、院外調理とは思えない食事であった。
実際にトレイメイクされ、ラックに入れて温められた食事をとりだす矢ヶ崎忠徳工場長
試食会でふるまわれた食事は実際に病院に納品しているものと同じ
試食会で出されたメニュー
現在は神奈川県下の2病院が導入しており、今後は複数の施設をもつ首都圏の医療法人との提携を進めていくという。
なお、提供にあたっては「工場から1時間半以内に運べる場所」という基準があり、相模原工場からは都内から箱根あたりまでカバーできるとのこと。
「現在、システムを導入しているのは相模原工場のみだが、今後新工場のタイミングでトレイメイク自動化システムを導入し、2043年には全国の病院の120万床のうちの40万床に病院給食を提供、売上3000億円規模を目指したい」と小宮代表取締役は語った。
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「患者さんには、できたてでおいしい食事を提供したい」というのはどこの病院でも考えることだが、必ずしもすべての病院で対応できるわけではなく、ましてや今後の人手不足・超高齢社会による働き手人口の減少を考えると、実現できない病院のほうが多いのではないだろうか。
また、病院管理栄養士は病棟に出てチーム医療に貢献することが求められており、今までのように「厨房と掛け持ち」というわけにはいかなくなってきている。
どういった給食システムを選ぶことが、患者と職員にとって最適解となるのか。それは病院の特色、規模、地域性等により変わってくると思うが、こうした選択肢が増えることは、現場のスタッフにとっては朗報だろう。今後の展開に期待したい。
(文/ヘルスケア・マネジメント.com)