第6回
医療費削減の旗の下、かかりつけ医の制度化はどこまで進むのか

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制度化したい支払い側、反対の医師会側

厚生労働省は、2020年2月に「医療計画の見直し等に関する検討会」のなかで、外来医療の機能分化・連携を医療計画のなかでどう取り上げていくかの議論をはじめた。12月には「外来機能の明確化・連携、かかりつけ医機能の強化等に関する報告書」を公表している。
報告書では、かかりつけ医機能の強化に向けて「予防や生活全般の視点、介護や地域との連携、休日・夜間の連携を含め、地域においてどのような役割を担うことが求められているかを整理していくことが求められている」となっている。

一方、今年6月に示された「骨太の方針2021」では、「質が高く効率的で持続可能な医療提供体制の整備を進める」ための手段として、「かかりつけ医機能の強化・普及等による医療機関の機能分化・連携の推進」が挙げられている。

これらに対応する形で、中央社会保険医療協議会(中医協)の外来医療に関する議論でも、かかりつけ医機能がテーマとなった。論点として「中長期的に地域の医療提供体制が人口減少や高齢化等に直面するなか、外来機能の明確化・連携や、かかりつけ医機能の強化等を推進し、患者にとって安心・安全で質の高い外来医療の提供を実現するための、診療報酬のあり方についてどのように考えるか」が示されている。

これに対し日医常任理事の城守国斗委員は、「かかりつけ医機能の評価について、一層の充実が図られるような対応をすべき」としたうえで、「フリーアクセスは担保すべきで、かかりつけ医の制度化には反対」と述べている。

一方、支払側の委員は、機会あるごとに「かかりつけ医の制度化」を主張してきた。かかりつけ医登録を義務化するのか、あるいは経済的に誘導するのかは別として、「仕組み」化することを求めている。フリーアクセスの多少の制限はやむを得ないということである。

あいまいな「かかりつけ医」の定義

そもそも「かかりつけ医」とは何なのか。
現在最も多く参照されるかかりつけ医の定義は、2013年8月に、日本医師会(日医)と四病院団体協議会(四病協)が合同で提言した「医療提供体制のあり方」によるものである。
かかりつけ医を「何でも相談できるうえ、最新の医療情報を熟知して、必要な時には専門医、専門医療機関を紹介でき、身近で頼りになる地域医療、保健、福祉を担う総合的な能力を有する医師」と定義。この定義を理解し、「かかりつけ医機能」の向上に努めている医師であり、病院の医師か、診療所の医師か、あるいはどの診療科かを問うものではないとしている。
そして、かかりつけ医機能として、以下の4項目を示した。

▽日常行う診療においては、患者の生活背景を把握し、適切な診療および保健指導を行い、自己の専門性を超えて診療や指導を行えない場合には、地域の医師、医療機関等と協力して解決策を提供する。

▽自己の診療時間外も患者にとって最善の医療が継続されるよう、地域の医師、医療機関等と必要な情報を共有し、お互いに協力して休日や夜間も患者に対応できる体制を構築する。

▽日常行う診療のほかに、地域住民との信頼関係を構築し、健康相談、健診・がん検診、母子保健、学校保健、産業保健、地域保健等の地域における医療を取り巻く社会的活動、行政活動に積極的に参加するとともに、保健・介護・福祉関係者との連携を行う。また、地域の高齢者が少しでも長く地域で生活できるよう在宅医療を推進する。

▽患者や家族に対して、医療に関する適切かつわかりやすい情報の提供を行う。

このように、日本のかかりつけ医機能は、医療のゲートキーパー的機能と、地域包括ケアシステムの中心的な役割を果たすことの2つの側面からなっている。そして、定性的な、あいまいな存在でもある。

制度化による効率的な医療提供=無くなるフリーアクセス

政府は、少子高齢化の進展で増大が続く医療費を、何とか抑制したいと考えている。患者の流れをスムーズにして効率化すること。かかりつけ医の普及は、その1つの方法である。
効率化のためには、英国のGP(General Practitioner:ジェネラル・プラクティショナー)のように、制度化して患者の流れを半ば強制的に整えることが効果的である。そうなると、フリーアクセスは大きく制限され、医療機関同士の競争はほぼなくなる。ドクターショッピングなども起こり得ない。

英国NHSサイトのGP検索画面
英国の国民保健サービスNHSでは必ずGPの検索・登録をしないとNHSのサービスが受けられない

日医などは、こうした方向に向かうことに否定的である。フリーアクセスと自由標榜制を守ろうと考えているはずだ。しかし、現下の状況を踏まえれば、医療費の抑制は避けては通れない。何らかの削減を、どこかで行わなければならないことは自明である。
近い将来、「かかりつけ医の制度化」が行われることは間違いないだろう。
(文/ヘルスケア・マネジメント.com)

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