マネジメント カウンセリング・ルーム
vol.25
紙とデータを使い分け病院DXを推進する

<今月のご相談>電子カルテ導入から5年ほど経ちましたが、今でも電子カルテ情報を印刷した紙に連絡事項を書いたり、確認する方がいて情報が伝わらないことがあります。「紙でないと不安」と電子カルテ中心の運用に変えてもらえず、困っています。

紙へのこだわりが業務を煩雑なものに

「やっぱり紙で持っていないと不安なんです」「データって消えるじゃないですか」――
医療現場ではこうした声を耳にすることが少なくありません。DXが進み電子カルテやデータ活用の重要性は広く認識されつつありますが、一方で「紙の安心感」へのこだわりは根強く残っています。
しかし、このやりとりを単純に「ITリテラシーの問題」としてしまうと、本質を見誤ります。ここで問われるのは、紙かデータかという“手段”ではなく、「安心のもち方」というとらえ方の違いです。

ご相談の様子では、外来診療時に使用している患者一覧は電子カルテで管理されているにもかかわらず、数人の看護師が毎朝その一覧画面を印刷し、手元に置いて業務をしているということのようですね。電子カルテが導入される前は医事課が作成していた紙の予約患者一覧を元に、当日、受付の患者さんの名前を書き込みながら使っていたので、その運用が残っている感じなのでしょう。

手元に印刷した紙がないと不安、電子カルテが見られなくなったら困る――と言われるそうですが、手書きのメモでは電子カルテに反映されず他のスタッフと共有されることもないので、患者さんへの案内はもちろん、医療安全面でも問題がありますね。
病院全体としては電子カルテを更新して運用しているので、「どれが最新の情報なのかわからない」ため、1日に何度も電子カルテと照合するという作業が発生している状況で、それが業務の忙しさの要因の一つにもなっている。つまり、本来“安心のため”だった紙の患者一覧表は現場を“二重化”させてしまい、かえってリスクを生んでいるのです。

「個人の安心に頼る」から「仕組みで安心を担保」へ

紙が安心に感じられる理由は明確です。目に見える、手元にある、誰でも読める――。すなわち、「自分でコントロールできている」という感覚をもてるからです。一方でデータは仕組みのなかで管理されるため、どこか“預けている”ような感覚になります。この違いが不安の正体です。

現実のリスクで考えるとどうでしょうか。紙は紛失しても気づきにくく、共有されず、更新も止まりがちです。災害時には一瞬で失われる可能性もあります。“消えない”どころか“静かに消えていく”リスクを抱えています。
一方でデータは、バックアップが可能で履歴も残り、同時に、共有もできます。適切な仕組みがあれば“守られる”状態をつくることができます。

紙は、安心を“持つ”ものです。「目に見えることで安心する」という感覚的な安心です。対してデータは、安心を“つくる”ものです。バックアップ、アクセス管理、運用ルールといった仕組みによって再現性のある安心を構築します。

人手不足や業務の高度化が進むこれからの時代、「個人の安心」だけでは支えきれません。必要なのは、誰がかかわっても同じ質で機能する「組織の安心」です。「個人の安心に頼る状態」から「仕組みで安心を担保する状態」へ移行する必要があります。
まずは、紙がなくても「安心」と感じるためにはどういう仕組み、どのような手順を踏めば良いかを一緒に考えていくのが良いのではないでしょうか。そのような丁寧なかかわりが、病院DX推進には必要なのだと思います。(『最新医療経営PHASE3』2026年6月号)

いしい・ふみ●医療情報技師、医療メディエーター。民問企業でソフトウエア開発のSEとして勤務した後、社会福祉法人に入職。情報システム室などを経て経営企画室長に就任後は新規事業の企画、人材育成などに携わった。現在は医療経営人材育成活動、企業向け医療ビジネスセミナーなどを行うとともに、関西学院大学院、多摩大学院にて「地域医療経営」の講座を担当している。著書に「医療経営士中級テキスト専門講座第2巻「広報/ブランディング/マーケティング」「経営企画部門のマネジメント」(ともに日本医療企画)ほか

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