介護業界 深読み・裏読み
軸が見えてきた次期改定 秋以降深まる議論に期待
介護業界に精通するジャーナリストが、日々のニュースの裏側を斬る!
6月に再開された厚生労働省の社保審・介護給付費分科会は、この原稿を書いている時点(7月16日)までにさらに2回開催された。
そのなかで繰り返し出されたのが、以前にもお伝えした「新型コロナウイルス感染症への対応を報酬上評価せよ」という意見だ。一部で仕組みの熟考を求めることはあったものの、事業者団体だけでなく、全国知事会などからも異口同音に対応を求められることとなっただけに、厚労省としても受け止めざるを得ない状況となった。
6月25日に開催された第178回介護給付費分科会では、「制度の安定性・持続可能性の確保」のテーマで「感染症対策等にかかる基準における規定の例」が資料として提出されている。
ここでは各サービスにおける運営基準等に感染症対策等についてどのような記載があるかが羅列されており、すなわち基本報酬上感染症対策等がどう評価されているかを示すものだ。厚労省としては、次期報酬改定においてその部分での対応可能性を示唆したと見て良いだろう。
事実、この給付費分科会に先んじて開かれた経済財政諮問会議(6月22日)で、臨時議員として出席した加藤勝信厚生労働大臣は「介護報酬等の改定に向け、さらなる感染症への対応力強化を検討する」とする資料を提出している。
また、与党内でもフォローの風が吹いている。自由民主党の政務調査会がまとめた「新型コロナウイルス感染症対策に関する提言」では、「介護サービス事業所等における感染防止対策の強化に向けて介護報酬や基準等のあり方等における評価等を検討する」と求めた。
これまで社会保障費抑制の強いバイアスがかかった改定が続き、明確な表現はマイナス要素に限定されていたが、これらを読み合わせる限り、次期改定は「プラスの既定路線にどう理屈づけするか」が焦点と見て良さそうだ。
一方で煮え切らないのが「経済財政運営と改革の基本方針2020」だ。いわゆる「骨太の方針」と呼ばれるが、介護分野のメニューでは、▽医療・介護・福祉・保育等の人材の円滑な確保、▽医療・介護分野におけるデータ利活用やオンライン化を加速、▽ケアプランAI活用、介護ロボット等導入支援、▽介護予防サービス等におけるリモート活用、▽介護文書の簡素化・標準化・ICT化、▽医療・介護分野のデータのデジタル化と国際標準化の推進を掲げるに留まった。コンサバティブ過ぎるとの印象が拭えない。
実際、この原案を扱った自由民主党の厚生労働部会(7月9日)では、「踏み込みが足りない」との指摘が相次いだという。
ここで注目するとすれば、関連の「成長戦略実行計画」や「規制改革実施計画」との共通項として、介護現場におけるICT・ロボット・AI等の活用が挙げられている点だろう。骨太方針では「介護ロボット等の導入について、効果検証によるエビデンスを踏まえ、次期介護報酬改定で人員配置の見直しも含め後押し」と明記した。
7月8日の給付費分科会では、グループホームを対象に夜勤の人員配置緩和の是非が問われたが、そのカウンターとして「ICT・ロボット・AI」が見据えられていることは言うまでもない。前回改定でも小幅導入に留まり、次回は報酬アップが見込まれるとしたら、厚労省として「ゼロ回答」は厳しい。
残念ながら「ICT・ロボット・AI」はまだまだ見守り・センサーの域を出ず、大きなインパクトを与えるに至っていないだけに、「ヒットする(基準緩和につなげられる)ところを探している」というのが本音か。
伴って加算要件の緩和や地域医療介護総合確保基金の拡充(導入支援)を進めることになるだろうが、委員から出された「ケアの質と基準緩和のバランス」という宿題をどのようにクリアするかに注目したい。
さて、もう一つ書いておきたいことがある。上にも挙げた「規制改革実施計画」で、「医療・介護関係職のタスクシフト」として介護職と医行為の関係について緩和の検討を求めているのだ。以前から厚労省内にも、医師、看護師、介護士の業務を次第に周辺業務から移行していく案が出ては消えていたものだが、コア業務の再区画で専門性と効率性の両面にアピールし得ることは間違いない。
当然ながら職能団体から反発があるだろうが、報酬改定とあわせて、秋以降深まる議論に期待したい。(『地域介護経営 介護ビジョン』9月号)
あきの・たかお●介護業界に長年従事。フリーランスのジャーナリストとして独立後は、ニュースの表面から見えてこない業界動向を、事情通ならではの視点でわかりやすく解説。