Dr.相澤の医事放談
第74回
老朽化する病院の建て替え問題は
医療提供体制見直しと表裏一体

老朽化した病院の建て替え問題が深刻化している。建築資材の高騰や人件費の上昇等により、建設単価は今や「1床当たり1億円」とも言われ、病院単体での建て替えは難しくなっている。日本病院会の相澤孝夫会長は、「病院の建て替えは地域住民の健康と命を守るためのもので、国や都道府県の投資と考えるべき」と提言する。

建設単価は1床当たり1億円

日本の医療現場において、老朽化した病院の建て替え問題は深刻さを増しています。昨今の建築資材の高騰や人件費の上昇等で、病院の建設単価はかつての常識を遥かに超え、「1床当たり1億円」とも言われる時代に突入しました。
2040年にかけて急激な人口減少が進み、それに向けた新たな地域医療構想が議論されようとしているなか、地域に不可欠な病院が建物の老朽化によって存続の危機に追い込まれようとしています。

物価高騰などにより医療機関の赤字が大きな話題となっていますが、利益率がマイナスの病院が“1床1億円”というお金を出すことは極めて難しいと思います。たとえば、100床規模の病院を新築する場合、単純計算で100億円の資金が必要となります。しかし、多くの病院にとって100億円、200億円といった金額を蓄えていることは現実的ではなく、これまでの内部留保をすべて吐き出したとしても、到底賄いきれる金額ではないでしょう。
仮に、診療報酬の枠組みを使用したとしても、金額の桁が違い現実的ではありません。日々の診療で得られる診療報酬を積み上げて数十億円、数百億円規模の建設のための投資を回収することは不可能に近いですし、建て替えを行う病院と行わない病院の間で生じる不公平感も解消できません。

厚生労働省が示す「新たな地域医療構想策定ガイドラインについて」には、急性期拠点機能を担う病院について、建物が老朽化しているところはあまり適切ではないと思われる記載や近隣の新しい病院に機能移転を促すような内容がありますが、いかがなものかと考えます。
病院の機能とは、単なる「箱」や「機器」だけではありません。医師、看護師、コメディカルといった専門職がチームとして長年築き上げてきた組織力こそが、医療の本質にあります。それらを無視し、建物が老朽化したからといって「隣の病院に機能を移す」という内容は、医療現場を無視していると考えざるを得ません。

建て替えは国や都道府県の投資

では、こうした難局をどう考えるかですが、病院の建て替えを単なる設備投資ではなく、地域住民の命と健康を守るための「国や都道府県の投資」ととらえ直すべきだと思います。そのうえで、国や都道府県による建築費の補助、または“1床当たりいくら”という単位での支援金交付、国からの無利子貸付や長期の返済期間の設定、将来の更新需要に備えた基金の設立などを検討すべきなのではないでしょうか。

ただし、すべての病院を無差別に支援することも現実的ではありません。そこで重要になるのが、「その病院の機能が今後もその地域にとって必要かどうか」という見極めです。そのためには、都道府県とその病院があらかじめ「どのような機能を発揮していくか」について合意し、協定を締結しておく必要があると考えます。そして「協定を締結した病院に対しては優先的に支援を行う」という仕組みはどうでしょうか。

医療提供体制の再構築を

私は、建て替え問題と医療提供体制の見直しは表裏一体の関係にあると思います。前号でも触れましたが、医療提供体制をどのように構築していくのかというビジョンが示されておらず、議論の多くが既存の「二次医療圏」が正しいという前提に立っていますが、そうした枠組みでは医療を完結することができない地域が出てきているのです。病院が機能するということは、国民の健康と命を守るだけでなく、地方経済の活性化や雇用維持にもつながります。だからこそ“的確な投資先”を決めることが大事なのです。

2040年を見据えたとき、病院の建物の老朽化は避けて通れない課題です。しかし、現在の国の医療政策は、具体性を欠いた「丸投げ」の状態に近いように感じることがあります。地域の病院が将来に絶望せずに地域医療の質を維持するためには、国が「どの病院をどのような基準で支援するのか」という明確な方針を早急に示す必要があるのではないでしょうか。
病院の建て替え問題が問うているは、日本という国が将来にわたってどのような医療提供体制を維持し、国民の命をどう守るのかという「国家ビジョン」そのものなのだと思います。(『最新医療経営PHASE3』2026年6月号)

相澤孝夫
社会医療法人財団慈泉会理事長
相澤病院最高経営責任者
一般社団法人 日本病院会 会長
あいざわ・たかお●1947年5月、長野県松本市生まれ。73年3月、東京慈恵会医科大学を卒業。同年5月、信州大学医学部第二内科入局。94年10月、特定医療法人慈泉会理事長。現在、社会医療法人財団慈泉会理事長、相澤病院最高経営責任者。2010年、日本病院会副会長。17年5月より日本病院会会長。

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