臨床講座(2) 部門マネジメント 薬剤部門
第4回
チーム医療に 求められる薬剤師 〜いかに継続して貢献するか〜
病院には、さまざまな専門職が在籍しています。各部門がどのような課題を抱え、どんなマネジメントを行っているか、皆さんは知っているでしょうか。医療経営士が病院全体を巻き込みながら病院改革を進めるには、各部門の状況を理解することが不可欠。各部門で実践されているマネジメントを知ることで見えてくるものがあります。
はじめに、日本でのチーム医療を推進する政策的概論に触れておきたい。
厚生労働省ではチーム医療を推進する観点から、2009年8月から「チーム医療の推進に関する検討会」を開催し、日本の実情に即した医療スタッフの協働・連携のあり方などについて検討してきた。
その後、「医療スタッフの協働・連携によるチーム医療の推進について」がまとめられ、10年4月30日に厚生労働省医政局長から各都道府県知事に通知されている(以下、局長通知)。局長通知には、職種ごとに積極的に活用することが可能な業務が記載されており、薬剤師については表に示したとおりである。
この頃から、医療機関でもチーム医療が認知されはじめ、学会発表などにおいてもチーム医療の有益性を示す発表が多く見受けられるようになったのを記憶している。
さらに、ナースステーションはスタッフステーションへと変わり、薬剤師やセラピスト、管理栄養士や社会福祉士(MSW)などが病棟に出入り。1人の入院患者に対してより多くの医療専門職がかかわりをもつようになった。
だが、これだけでチーム医療が成立するわけではない。質の高いチーム医療を効率良く行うために必要なのは、各職種の高い専門性とコミュニケーション能力、そして何よりもチームや患者に対する自発的な貢献意欲であると筆者は考えている。
つまり、エンゲージメントを高く維持するということである。
そのツールの一つが、専門職同士が尊重し合い、平等な立ち位置で意見交換を行うカンファレンスである。ただ、医師の意見を最優先に患者へのアプローチを決定するようなカンファレンスでは、各職種のエンゲージメントを保つことは難しく、医師などのリーダーには聞く力が強く求められると感じている。
病院薬剤師は、より多くのチーム医療において”unsung hero”でありながら経営的には高い生産性も求められる。本稿では薬剤師における専門的かつ継続的なチーム医療への介入について考えたい。
チーム医療に参画できる人材育成が重要に
本稿執筆中の6月中旬現在、新型コロナウイルスに対する緊急事態宣言が解除されて約2週間が経ち、コロナ患者の受け入れの有無にかかわらず多くの医療機関が経営危機に直面していることが明らかになってきた。当然キャッシュ残高が少ない医療機関においては、その影響は賞与などの削減へと直結し、医療従事者の離職を増やす一因となることは避けられない。
しかしながら20年度の診療報酬改定においても、病院薬剤師のチーム医療への需要はさらに高まっており、離職による人員不足の状況下においても継続してチーム医療に介入できる体制づくりは不可欠である。
まず、近年の診療報酬におけるチーム医療に関する算定要件を見みてみると、専任要件とともに「〇〇に係る所定の研修を修了した常勤薬剤師」のように、所定の研修を修了することが要件に挙げられることが散見される。
具体的には、栄養サポートチーム加算、がん患者指導管理料などがある。これは局長通知にも示された、▽チーム医療は各職種の高い専門性を前提としていること、▽各職種の関連学会などは知識の向上等に取り組むこと――の趣旨と合致している。
すなわちチーム医療に参加する薬剤師は、ジェネラリストであることに加えて当該領域の高い専門性を有している必要がある。そうでなければ、チームに参加する薬剤師自身が苦痛と負担を抱えるばかりか、チームにとっても非生産的な存在となってしまう。
つまり、薬剤部門長は自施設で求められるチーム医療に対して、薬剤部門としても個々の薬剤師としても自信を持って参加できる人材を育成することが求められる。
これはもちろん薬剤部門に限ったことではない。特に、ICT(感染制御チーム)のように多職種に専任要件があり、かつ診療報酬が高い場合、各職種の部門長ならびに経営・人事部門は事業継続計画の視点に立って人材育成体制を整備し、情報共有を密にしておく必要がある。
・薬剤の種類、投与量、投与方法、投与期間等の変更や検査のオーダについて、医師・薬剤師等により事前 に作成・合意されたプロトコールに基づき、専門的知見の活用を通じて、医師等と協働して実施すること。
・薬剤選択、投与量、投与方法、投与期間等について、医師に対し、積極的に処方を提案すること
・薬物療法を受けている患者(在宅の患者を含む。)に対し、薬学的管理(患者の副作用の状況の把握、服薬指導等)を行うこと。
・薬物の血中濃度や副作用のモニタリング等に基づき、副作用の発現状況や有効性の確認を行うとともに、医師に対し、必要に応じて薬剤の変更等を提案すること。
・薬物療法の経過等を確認した上で、医師に対し、前回の処方内容と同一の内容の処方を提案すること。
・外来化学療法を受けている患者に対し、医師等と協働してインフォームドコンセントを実施するとともに、薬学的管理を行うこと。
・入院患者の持参薬の内容を確認した上で、医師に対し、服薬計画を提案するなど、当該患者に対する薬学的管理を行うこと。
・定期的に患者の副作用の発現状況の確認等を行うため、処方内容を分割して調剤すること。
・抗がん剤等の適切な無菌調製を行うこと。
表 薬剤師を積極的に活用することが可能な業務
出典:2010年4月30日厚生労働省医政局長発「医療スタッフの協働・連携によるチーム医療の推進について」
質・リスクの観点から不用意な線引きは避ける
チーム医療において、薬剤師は薬の専門家として薬物療法へ積極的な介入が求められることは言うまでもなく、当院でも薬剤部門への大きな期待は日々実感する。
一例として、病棟における処方薬や持参薬を患者ごとにセット管理する業務を見てみる。
薬剤師が病棟で業務を行う以前、病棟での薬の管理は看護師が行っていたが、看護師にとって業務負担が大きく、リスクの温床にもなっていた。その流れで薬剤師が病棟に来れば、看護師側が「薬は薬剤師!」「看護師は看護!」といった風潮になることは必然であろう。
だが、薬剤師は表のような業務想定で病棟に来ているため、薬のセット管理は看護師のままで良いのではないかといった思いを抱くことも理解できる。確かに病棟看護師のインシデントレポートを見ると薬関連が最も多い。かといって、患者が使用している薬を知らずして看護はできない。薬のセット管理においてすべてを薬剤師に委ねるような不用意な線引きは非現実的であり、リスクの面からも避けるべきであろう。
このように、協働と連携が必要な業務は無数にある。自施設における各職種の勤務形態や人員体制を各部門長が尊重し合い、最適な体制を構築する必要がある。繰り返しになるが、チーム医療は協働と連携である。医療機関におけるすべての業務は、全職種がワンチームになって行いたい。(『月刊医療経営士』8月号)
きたばた・ともひで●1997年、星薬科大学卒業。99年、同大学大学院卒業後、社会福祉法人恩賜財団済生会支部埼玉県済生会栗橋病院に入職。現在、薬剤科副科長と務める。作業環境測定士、NST専門療法士、糖尿病療養指導士、医療経営士2級