ケーススタディから考える診療報酬
最終回
看護必要度の改定を
業務改善に活かす発想を
看護必要度が診療報酬制度に導入されて以来、改定ごとに評価基準等の見直しが行われてきました。看護必要度が急性期指標として入院料の基準に採用されたことで「看護必要度の測定」は日常業務の一部となり、管理職は内容把握に奔走し、スタッフは研修に追われる――。改定のたびに「業務が増える」と感じる看護管理者の筆頭がこの看護必要度ではないでしょうか。今回は、診療報酬改定を踏まえた病棟マネジメントのあり方について考えてみます(執筆時は告示・通知が出た直後のため詳細が変動する可能性がある点をご了承ください)。
ケース:看護必要度B項目は毎日測定しなくても良くなったけど……
*今回とりあげたテーマについて、実際に現場で起こっている問題を提起します
(特定を避けるため実際のケースを加工しています)
とある300床規模の総合病院での出来事です。看護部門向けに診療報酬改定の説明会を担当した筆者の元へ、後日、同院のA看護師長から相談が寄せられました。
A師長「今回の改定で、『負担軽減の観点からB項目は毎日測定しなくても良い(毎日測定しても良い)』となりましたよね。それを受けて師長会で運用を話し合ったのですが……」
筆者「マネジメントを担う管理職の皆さんで協議されたのですね。どのような結論になったのですか」
A師長「それが、結果として『これまでどおり毎日測定を続けよう」となったのです」
筆者「理由をうかがってもよろしいですか」
A師長「当院は看護必要度IIを採用しており、そもそも、A・C項目は測定を行ってません。そのためスタッフは現在、B項目の測定のみを毎日行っています。改定に合わせて特定の日だけ測定するとなると、『今日は測定する日だっけ?』といちいち確認するほうがかえって業務が煩雑になり抜け、漏れを招くのではないか……という意見が大勢を占めたのです。すでに測定自体には慣れているのだから、変えないほうが負担は少ないだろうと」
筆者「なるほど。管理の観点からは『入力漏れ』や『ミス』を防ぐ確実な方法を選びたいわけですね。では、ご相談というのは」
A師長「実は、この決定を病棟に持ち帰って伝えたところ、スタッフレペルから強い反発がありまして。『測定する必要がない日は測定しなくても良いのではないか。そのほうが業務負担が減るはずだ」と言うんです。管理職としてどう折り合いをつければ良いのか悩んでしまって……」
筆者「状況はよくわかりました。管理側は『ミスのない運用』を重視し、現場は『できる限り不要な業務は排除したい』と考えている。どちらもそれぞれの立場で、医療安全や効率化をめざしている点では間違った主張ではありません。ただ、『どちらかを選ぶ』のではなく、『ミスをできる限り少なくしながら業務を効率化する』という可能性を一緒に検討されても良いと考えます」
A師長「なるほど……。どちらが問違っているわけでもなく、どちらも正しい主張ですものね」
筆者「現場スタッフの業務量はできる限り少ないほうが、精神面はもちろん、医療安全的にも良いと思います。ただし新しい取り組みなので、ミスが出る可能性は捨てきれません。そのため、頭ごなしに指示を出すのではなく、『どのような方法であれば入力漏れ・ミスを最小限にしながら業務を最小化できるか』を、管理職と現場の皆様と一緒に考える機会を設けてみてはいかがでしょうか」
実際に業務を担う現場とともに「対話」を行ったこの病院では、現在、毎日の評価は行わない方向で具体的な業務改善に向けた検討が進んでいます。
今回のケースについて、皆さんはどのような感想をお持ちになりましたか。管理職側とスタッフ側で「見えている景色」が異なるのは至極当然のことでしょうし、景色が違えばまた、「正しい」と思うことが異なるのも当然のことです。
しかし、「こちらが正しい」と主張し合うだけでは新しい改善には結びつきません。スタッフの主張に対して「全体像が見えていないからだ」と管理側が耳を貸さないのであれば、現場で努力しているスタッフの不満感は募り、組織の求心力にも悪影響を及ぼしかねません。
この、看護必要度B項目の改定内容のほかにも、入院診療計画書等の署名または記名・押印の廃止などといった業務改善に関する内容の改定は、多岐にわたっています。
これまで行ってきたことが「簡略化される」という変化に戸惑うこともあるかと思いますが、現場の負担軽減のためにもスタッフと対話を重ねられてはいかがでしょうか。
*
最後に――。
今回をもちまして、本連載は終了となります。長きにわたっておつき合いいただき、心よりの感謝を申し上げます。制度改定という外的変化であっても、チームで対話を重ねて乗り越えるプロセスにできれば、組織をより強くする力になるはずです。
今後とも、皆さまの現場に豊かな対話が生まれ、めざしたい病棟マネジメントが実現できますことを、心よりお祈り申し上げております。(『最新医療経営PHASE3』2026年5月号)
結論
改定内容を積極的に取り入れ
業務効率化に努めよう
株式会社メディフローラ代表取締役
うえむら・ひさこ●東京医科歯科大学にて看護師・保健師免許を取得後、総合病院での勤務の傍ら、慶應義塾大学大学院にて人事組織論を研究。大学院在籍中に組織文化へ働きかける研修を開発。2010年には心理相談員の免許を取得。医療系コンサルティングを経て13年、フリーランスとなり独立

