新しい生活様式・医療に適応する! 『ポスト・コロナ』の 病院経営
新型コロナウイルス感染症の拡大は、日本の社会に大きな変化をもたらそうとしている。ヒト・モノの費用は従来以上の規模になることが考えられる。また患者の受療行動も大きく変わろうとしている。オンラインを前提とした診療のあり方、患者との関わり方を模索するだけでなく、それを前提とした事業経営の検討も求められる。さらには予防や自由診療といった保険診療に頼らない収入確保も視野に入れる必要がありそうだ。そうした『ポスト・コロナ』という新たな時代での病院経営のあり方について、病院経営者に語ってもらった。
『最新医療経営PHASE3』2020年8月号 特集
●序論
「新しい生活様式」と病院
病院の「真実」が浮き彫りになるなかでどう舵取りをしていくのか
●経営者の展望
1 医療の枠を超える
病院事業は「ライフ産業」医療外の支え方も追求してこそ新時代を迎えられる
神野正博/社会医療法人財団董仙会理事長
2 ICT活用による効率化・働き方改革
オンライン診療を開始し約4割の部署でテレワークを導入
石川賀代/社会医療法人石川記念会HITO病院理事長、石川ヘルスケアグループ総院長
3 コロナ禍で浮上した〝真の役割"
経営者のマインドが変わってはじめてスタッフ・患者も変わる
遠藤正樹/医療法人社団康明会理事長
●追記
「コロナ」を契機にする
「ポスト・コロナ」で求められる新方針を現場に浸透させる
〈特集より特別掲載〉
序論 「新しい生活様式」と病院
病院の「真実」が浮き彫りになるなかでどう舵取りをしていくのか
新型コロナウイルスの感染拡大は、診療報酬改定や地域医療構想並みか、あるいはそれ以上のインパクトを病院経営にもたらすかもしれない。患者の受療意識を大きく変えるだけでなく、診療のあり方も再考を求めている。そうした環境激変のなか、病院の経営者はどのように舵を取っていこうとしているのか。
患者が病院を敬遠する事態
新型コロナウイルスの感染拡大が、日本社会のあり方を大きく変えようとしている。
「新しい生活様式」は、暮らしのなかにすでに浸透している。学校の授業はWEBで行われ、仕事は大企業を中心にテレワークが浸透、商談や社内会議も「Zoom」などを通じてオンラインで進むようになった。今後は、「むしろ実際に顔をつきあわせなければならない用件は何か」が問われることになりそうだ。
医療も例外ではない。新型コロナの感染防止を念頭にオンライン診療が再診だけでなく初診から認められるようになり、長期処方も大きく取り入れられつつある。「不要不急の診療は控えるように」との呼びかけもあって「本当に診てもらう必要があるのかどうか」が見極められつつある。
本誌7月号の「高橋教授のこの人に会いたい」のなかで、在宅医療の第一人者として知られる医療法人社団鉄祐会の武藤真祐理事長は「患者さんが『病院に行きたくない』と言って外来受診が激減してしまう事態は、誰も想定していませんでした。『外来は、患者さんが選んできてくれていたんだ』と実感しました」と、受診行動が大きく様変わりしていることを指摘している。
一方、国際医療福祉大学の高橋泰教授も「長く在院することに対する価値は、今回のコロナ禍でさらに変わっていくかもしれませんし、入院設備のダウンサイジングの問題も浮上するでしょう」と、従来型病院経営の限界に言及している。
病院機能の枠を超えた事業のあり方
今回はこうした新型コロナ禍によって大きく変わった後、すなわち「ポスト・コロナ」での病院経営のあり方について、病院経営者はどう考えているのかを聞いた。
社会医療法人財団董仙会の神野正博理事長は「病院はライフ産業」と提唱し、自法人でもそれを具現化する取り組みを進めている。医療法人社団康明会の遠藤正樹理事長は病院という「ハコモノ」から地域全体に視野を広げた医療・介護の実践を推進している。一方、社会医療法人石川記念会HITO病院の石川賀代理事長は医療提供のあり方だけでなく、それを実践する側、つまり医療者の働き方改革に着手している。
このように3者3様で取り組んでいるが、実は本特集を企画した際、神野理事長の話は「急性期」、遠藤理事長は「慢性期」、石川理事長は「回復期」という柱を立ててご紹介するつもりだった。しかし、本編を読んでいただければわかるとおり、そのような構成にはしていない。3人とも制度に固執せず、病院機能の枠にとらわれた経営からとうに脱却し、新型コロナ禍のなかで浮き彫りになった「本当の患者ニーズ」「本当に働きやすい環境」に目を向けた医療・介護・生活支援サービスを提供し、そのための仕組みづくりを実践していたからだ。
仮に病院機能にこだわった構成にしていれば、3人の取り組みを十分にご紹介することは叶わなかったに違いない。
「ポスト・コロナ」を明るく迎えられるか
もちろん、多くの病院にとって新型コロナはバラ色の未来を保障するわけではない。むしろ不要不急の医療を提供することで患者をつなぎ止めていた病院にとっては、そうした「不都合な真実」が明らかになってしまう可能性もある。
ただ、目をそらし続けて現状にしがみつこうとしても、社会、患者が受け入れるとは考えにくい。地域医療構想や医療計画などで「病院の本当の機能」を見極める動きが出ているが、それを待たず、自院の「真実」に向き合う機会と捉えることができるならば、「ポスト・コロナ」は病院にとっても、患者にとっても明るい未来への第一歩となるのではないか。(『最新医療経営PHASE3』2020年8月号)