マネジメント カウンセリング・ルーム
Vol.21
病院経営に必要な「考える力」と「変わる力」

<今月のご相談>「補正予算で補助金も出るらしい」「次の診療報酬改定もブラスになるって」と、どこか安心しきったような口調で先輩職員たちが食堂で話を。今のうちに業務改善や体制変更を進めないといけないのに危機感がないような感じで、何だか今後がすごく不安になりました。

「何とかなってきた」現実今までどおりではダメ

ここ最近の物価高騰は病院経営にも大きな影響を与えました。私たちの努力だけではどうにもならない部分を補助金や診療報酬といった制度で支えてもらっている。それもまた、紛れもない事実。今は物価も上がり、賃金も上げて社会全体を動かしていこうという政策の流れのなかにあります。
価格を自分たちで自由に調整できない医療や介護事業者には、いったん補助金が入り、インフレに見合うかたちで診療報酬も上がっていく――。そんな「一息つける流れ」がきているのも確かです。「とりあえず一安心」という空気が病院のなかに漂うのも無理はありませんが、「これで黒字になってボーナスも出て、あとは元どおり」というところまで期待してしまうのは、いささか楽観的すぎますね。

現在の病院経営の実態はどうでしょうか。そもそも、診療報酬は費用とトントンになるように設計されているので、適正な管理をしていても大きな利益が出るわけではありません。固定費も変動費も上がり続けて人員確保が難しく、そこにも経費がかかるわけですから、今までどおりの管理では黒字化は難しいのが現状ですし、補助金が一度入ったからといって簡単に変わるものではありません。

一方で、これまでの病院経営は診療報酬改定や補助金といった“外部環境”に助けられながら生き延びてきた時代もありました。制度が変わるたびに現場は振り回されながら、結果的には「何とかなってきた」という体験を先輩たちは積み重ねてきたのです。
その経験が、「今回もきっと何とかなる」という感覚を生み出しているのだと思います。それは楽観というよりも、長いサバイバルで身についた“実感”なのかもしれません。

「考える猶予」がある今こそ将来のあり方を自分たちで描く

しかし、その先輩方がすごしてきた時代とこれからは社会環境が大きく異なります。人口減少、医療需要の変化、人材確保の難しさ、地域医療構想――などが具体的問題として突きつけられています。
経営課題の解決を“外部要因任せ”にしてきた世代と、“自分たちで考えるしかない”と感じている世代とでは価値観にギャップがあります。
将来を見据えて経営管理を行っている病院、地域での役割を明確にして取り組んでいる病院、変化に備え柔軟に対応し続けてきた病院は、同じ制度のなかでもしっかりと黒字運営をしているように思います。一方で、構造的課題を抱えたまま「そのうち何とかなる」と立ち止まり続けているところは、制度の波に翻弄されているように感じます。

今回の補助金や次の診療報酬改定の動きは、病院にとっては止血のようなもの。ですが、止血は“根本治療”ではありません。本当の意味で病院を立て直していくためには、これから自分たちはどんな医療を担っていくのか、どの診療領域に力を注ぎ、どこを手放していくのか――。将来の病院のあり方を自分たち自身の手で描き直していく必要があります。

医療計画の方向性も診療報酬の流れも、これからの医療は「何でもある病院」から「役割のはっきりした病院」へと向かっていくのは確実。だからこそ今は、「助けてもらえたから安心する」のではなく、「考える猶予をもらえた」と思うことです。どうか、この一瞬の追い風をその場しのぎの安心で終わらせず、自分たちの病院のこれからを考えるための時間にしたいですね。

先輩方にはなかなか言いにくいかもしれませんが、これからの病院経営を担っている方々がしっかりと「考える力」と「変わる力」を持っていただければと思います。(『最新医療経営PHASE3』2026年2月号)

いしい・ふみ●医療情報技師、医療メディエーター。民問企業でソフトウエア開発のSEとして勤務した後、社会福祉法人に入職。情報システム室などを経て経営企画室長に就任後は新規事業の企画、人材育成などに携わった。現在は医療経営人材育成活動、企業向け医療ビジネスセミナーなどを行うとともに、関西学院大学院、多摩大学院にて「地域医療経営」の講座を担当している。著書に「医療経営士中級テキスト専門講座第2巻「広報/ブランディング/マーケティング」「経営企画部門のマネジメント」(ともに日本医療企画)ほか

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